第25話 手紙

「アシュリー、昨日アレクサンドルが第二王子殿下と接触したそうだ。そしてワインを紹介したらしい」

「アゲット家のワインですか……?」

「ああ、最近……一ヶ月前に売り出されたワインだな。アゲット家とストークス子爵家の共同開発によって生まれたものだ」



 アゲット家のワインは前男爵夫妻が亡くなった後に一度品質を落としていた。近年ワインの質が上がっているという話もアシュリーの耳に入っていたが、王家御用達になる程の品質には届いていないだろうと予想していたので、彼の話に目を見開いた。


 

「王族に紹介できるような品質なのですか?」

「私見ではあるが、御用達候補になり得るな。ワインの質が格段に向上しただけでなく、共同開発されたチーズとの相性が非常に良好だ。調査によると、ごく一部でしか収穫できないワイン用の葡萄と……その葡萄の搾りかすを食べさせて育てた牛の牛乳を利用した商品らしい。ストークス子爵と嫡子ザカリーの共同開発だそうだ」

「子爵とルイサ嬢のお兄様の……」

「ああ。子爵家の伝手を使っているからか、まだ販売数は多くないが……購入者の間では絶賛されている。その商品のワインだけを紹介したらしい」

「ワインだけを……ですか?」



 彼の話だけを聞いたアシュリーの主観ではあるが、ワインとチーズは一揃えで紹介するべきでないのだろうか、と考える。

 共同開発したのであれば、お互いの商品の良さを引き立たせる物となっているはずだ。何故片方だけをお勧めするのだろうか。


 

「……アゲット家のワインを王家御用達にする事が目的なのでしょうか? ルイサ嬢に薬物を摂取させ、ワインを王家御用達に仕向け……何をなさりたいのでしょうか。アゲット家を陰から支配しようと企んでいるのでしょうか……ですが、兄であるザカリー様とは仲が良い様子も見受けられませんし」

「そもそもあの男爵家にそこまで価値があるとは思えないがな」



 二人で頭を捻るが、未だにアレクサンドルの考えは深い闇のままだ。ここで彼の思考を読み解こうとしても埒が開かないだろう。

 アシュリーは頬に手を触れながらため息をつき、ぼそっと呟いた。



「これは直接聞き出すしかありませんわね……」



 まあ、アレクサンドルが教えてくれるかは分からないが。何かを掴むきっかけにはなるかもしれない、と思う。

 エディーは気合を入れ直していたアシュリーを見て、首を捻りながら尋ねた。

 

 

「だが、最近は彼と会う機会がないのだろう。いつ聞き出すのだ?」

「……それなのですが、お兄様。やっと待望の手紙が届きましたわ」


 

 封筒の裏面に書かれている名前を見せれば、エディーは目を見開く。瞬きをした後も封筒を凝視していた彼だったが、アレクサンドルの名前が書かれている事を改めて確認できたようで、ニヤリと笑みを見せていた。

 

 

「好機が到来したようだな」

「しかもお兄様、今回は公爵家に呼んでいただけるみたいです。ガゼボでお茶をどうか、と書かれております」

「ほう」

「珍しいですね……何か思うところがあったのでしょうか」


 

 アシュリーはそう言って、手紙をテーブルに置く。

 そう言えばどこかの国の言葉で飴と鞭、という言葉がある事を聞いた。その国では躾を行う時に使う言葉だと教わったが……と考えて彼女は首を振った。今は目の前のなすべき事を行うのが最優先だ。いきなり首を振り出した妹を心配そうに見ている兄に、彼女は笑いかけた。

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