第23話 男爵家
その日から一年。アレクサンドルが違法薬物を所持している疑惑は確信に変わったが、未だ証拠が手に入らない、そんな状況に陥っていた。
アレクサンドルは薬物を香水瓶に入れている可能性が高いと判断されたが、その香水瓶は常に彼がネックレスとして首に掛けている。そのため、彼の手にしている禁止薬物の入手は困難を極めていた。
ネックレスに付いている香水瓶は非常に小さい。そのため香水瓶に入っている物とは別に薬物が保管されているのでは、と考えた諜報員たちが隙を見て屋敷内を確認しているようだが、未だそれらしき物は発見されていない。
きっかけはアレクサンドルとの茶会の延期である。今までにも数回日程の延期や変更などはあったが、当日の朝になって延期の連絡をもらうのは初めてだ。
事が動いたのではないか、と感じたアシュリーはエディーに伝え調査を依頼した。
するとその日に訪れたのは、公爵家の近所にあるアゲット男爵家の屋敷だと判明。数日後にエディーから調査報告書を手渡されたため、アシュリーは内容を確認しながら彼の話を聞いた。
アゲット男爵家は現男爵、夫人、嫡子である長男と長女という家族構成だ。
現男爵は領地経営に全く興味がなく、現在も王都の屋敷に送られてきた書類に印鑑を押すだけという体たらくぶり。以前は前男爵夫妻が領地の屋敷で執事と共に執務を行なっていたが、彼らが亡くなってしまってからは、前男爵夫妻が信頼していた執事の一人が領地で経営をしているらしい。
アシュリーは一枚目の内容を読んだ後、眉間を揉んだ。
「この家にはあまり期待しない方が良いかしら……」
「まあ、これを聞いたらそう思うかもしれないがな。結論を言えば腐っているのは現男爵夫妻だけだ。彼らの長男ザカリー殿……お前の二歳上だったかな? は、両親を反面教師にしているのか、非常に優秀だ。妹の婚約を整えたり……妹の婚約者である子爵家と連携をとり新商品を生み出そうとしたり、様々な事をこなしていてワイト家でも一目置かれている存在だ」
「そう言えば、彼はサラの婚約者でしたね。ワイト家はアゲット家のワインに将来を見出してたとお聞きしましたが……」
「ああ。ワイト家では嫡子の婚約者にサラを送り込んで、彼が無能であればサラが全てを取り仕切れば良い、と考えていたらしい。ま、実際は現男爵とは正反対の有能な男だったようだな。……そうそう、長女のルイサ嬢を領地で療養させたのも彼だ。表向きは療養のためと言って送っているが、本来の理由はアレクサンドルらしいぞ」
アシュリーは思わぬ理由で刮目する。
「ルイサ嬢は領地療養前にも月に一度、体調を崩す日があったそうだ。そして体調不良の日は必ずアレクサンドルが訪れていたらしい。ザカリー殿は訪問した彼を嗜めたらしいが、そもそも現男爵夫妻が次期公爵嫡子に取り入ろうと、ルイサ嬢の見舞いを受け入れていたんだと。醜聞になると思った彼が、両親を説得して領地へと送り出したらしいぞ」
「まあまあ……男爵家の膿は当主なのですね。ですが、そのような話は耳に入れた事がありませんね……幼い頃とは言え、頻繁に訪問しているのなら噂になりそうなものですが」
「一度そのような噂が男爵家や子爵家の間で囁かれたらしいが、相手は公爵家だ。下手な事を言えば取り潰しになりかねないからな……皆聞いただけで口を噤んだのだろうな。後はザカリー殿の対応が手早かったからだろう」
「本当に優秀なのですね。サラが惹かれるのも分かりますわ」
先日偶然見つけたサラとザカリーの様子を思い浮かべたアシュリー。
あの凛とした彼女が少し頬を染めて……まるで乙女のように恥じらっている姿は微笑ましいものだった。
「それで話は変わるが、アゲット家に諜報員を送り込めそうだ」
「そんなに簡単に潜り込めるのですか?」
「ああ、
「偶然……ですか」
細目でじーっと見つめるアシュリーにニカっと笑うエディー。完全にこれは偶然では無いだろうが、彼が裏で回して上手く事を進めたのだろう。
「これでアレクサンドルの尻尾を掴めれば良いのだがな」
「大丈夫だと思いますわ。きっとアゲット家には何かあると思います」
アレクサンドルが気にかけている娘、ルイサ。彼女がこの件を解決に導く存在なのではないか、そうアシュリーは思った。
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