責任
海音は民の叫び声を聞きながら、絶望に打ちひしがれ母の背中を眺めていた。
黒い粒はもうすぐ傍まで近づいており、
人魚達の悲鳴が止んでは、次々と赤いものが海水に混じり辺りに広がっていく…。
まるで赤い煙幕のようで視界が悪くなる。
「海音!何をやっているんだッ!!」
パシーンッ!と乾いた音と鋭い痛みが頬を走ったー
「おとう…さ…ま…?」
傷だらけの父が悲しそうな表情で立っていた。
「お前が民を…家族を守らなくてどうするんだッ!!
お前は時期、国王なんだぞ…?
王国を守りながら人間と分かり合える国を作りたかったら、
お前が行動するんだ!!」
「ッ……」
頭では分かっていても、目の前の光景に体が動かない。
関係ない人魚まで人間に捕まるか、目の前で殺される。
こんな事になっているのは誰の責任なのか…
(僕のせいだ…僕のせいだ…僕のせいだ…)
その言葉が頭を支配している。
「嫌ッ!離してええッ!!」
微かに母の声が聞こえた。
「お母様…!?」
「海音…行くぞ!!」
2人は急いで母の声のする方へ向かった。
「人間に捕まるくらいなら死んだ方がマシよッ!!」
母と2人の人間が揉み合いになっていた。
「お母様を放せッ!!」
海音は持っていた自分の鱗で人間を切りつけた。
「ごぼっ…!がぼぼぼッ!」
腕を切りつけられた痛みで、
酸素を吐きだしてしまい力尽きたのか、そのまま沈んでいった。
「海音!早く隠れなさいと言ったのに!!
あなたまで…凄い傷…でも生きてて良かったわ…」
「僕も……僕が皆を守るからっ!だから…お父様とお母様は逃げて!!」
海音の言葉は精一杯の覚悟の表れだった。
「海音……ッ!!あ"ぁ"…う"ッ!」
「お母様っ!?」
「なッ…!!」
母が何かを言いかけたその時、首元から大量の血を流しうめき声をあげる…
母の持っていた貝殻のナイフで、もう1人の男が母の首元を切り裂いたのだ。
海音は沈んでいく母に駆け寄り、優しく抱き寄せる。
「お母様…僕が今治すからッ!!安心して!!」
「海音…いいのよ…貴方がとても強くて勇敢で優しい子だって知ってるから…
逃げなさい…他の悪霊も近づいて来ている…どこか遠くへ…行くのよッ…!」
「ダメだよ!僕は家族と王国の民を守るんだッ!!僕のせいでこうなったから…僕が皆を守らないといけないんだ…!!人間なんてどうでもいいッ!!
どうでもいいんだッ!!!」
海音は急いでペンダントからハープを取り出そうとする。
「今の貴方じゃ…この致命傷を治す力は無いのよ…
私は大人だし…致命傷となれば膨大な妖力を使うことになる…
海音…逃げて…私の大事な息子…」
母は海音の頬を撫でる…
すると、母の身体が次第に軽くなり、泡となって弾け…海に溶けてしまった。
「お母様…!お母様っ!!…嫌だッ!!」
海音は海に溶けてしまった泡をかき集めようとするが、
「嫌だ…嫌だよ…うわあああああッ…!!!」
海音は泣き叫び…自分の頬に手を当てた…。
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