第27話 雨の中

 灰色の空を、降りしきる雨粒を眺める。


 胸が、痛い。


 息を吐くたびに、鼻の奥がツンとする感覚に襲われる。


 ……情けない。


 自分から、離れたくせに。


 やっぱり、離れたくない……そう思っている自分がいる。


 自分勝手すぎる。


 足元へと目を落とした。

 

 雨でぬかるんだ地面。

 

 靴が濡れるのも構わず、足を進める。


「こんな気持ちは、もう捨てたはずなのに。」


 再び空を見上げ、呟いた。


 顔が、髪が、身体が。

 雨に打たれて、ずぶ濡れになっている。


 胸を、押さえた。


 こんな気持ちは、あの時に捨てた……はずだった。


 なのに。


 なのに、なぜ、消えてくれないのだろうか。表面に現れてしまうのだろうか。


 前を見ると、ブランコがあった。

 無意識のうちに、この場所に来てしまったらしい。


 虚しい思いに駆られて、自分を嘲笑しようとする。

 けれど、上手く笑えなくて。


 ブランコの、ペンキが剥げた骨組みを見つめる。


 12年。


 その歳月で、ブランコのペンキは更に剥げて。

 錆も、目立つようになってきているけれど。


 それでも、その形は。その、ブランコとしての機能は、崩れることなく残っていて。


 ……10年積み重ねて、深めて。

 一度崩れ去って。

 もう一度、立て直そうとして。

 上手くいかずに、脆く崩れた。


 ……そんな、光と零華の関係とは。

 全く、違って。


 ブランコに、腰を下ろす。

 

 初めてあった日、零華はどんな感情で、光を見ていたのだろうか。

 

 いつもよりも低くなった視界から、鈍色の空を見上げる。


 2年前。

 2年前の、あの時。


 思えば、これほど長く話していないのもあの時以来である。


 光は。

 零華は。

 

 いつまでも、あの出来事を引きずり続けねばならないのだろうか。


 できるだけ思い出すまいとしていた記憶が。

 二人の間に、影を落とし続けてきた記憶が。


 引き裂かれるような痛みとともに、鮮明に蘇って。


 光はうつむいて、手で顔を覆うようにうずくまった。







ーーーーーー

【あとがき】


 物語の展開の都合上、この27話がとても短くなってしまいました。

 この少ない文量で、普段と同じ2日に1度ペースの更新をするのは気が引けるので、次の話の更新を一日早めたいと思います。

 明日28話を公開して、その後はまた2日に1度ペースの更新に戻ることになります。





 この作品を読んでくださっている方。

 また、作品のフォロー/レビュー等してくださった方。

 作者をフォローしてくださっている方。

 いつも本当にありがとうございます。

 この物語も、これからクライマックスへと向かっていきます。

 どうか今後ともによろしくお願いします。

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