第1話 完璧美人との日常 (前編)
光は塩胡椒を手に取った。
全体にパラパラと振りかけてから、フライパンを振って混ぜ合わせる。
小気味よい音と共に舞う米を眺めつつ、頃合いを見てフライパンを置く。
スプーンですくって、味見のため口に入れた。
うん、なかなかいい感じだ。
我ながらおいしい。
自画自賛しつつ、火を止めて炒飯を皿に盛りつける。
手慣れたものだ。
動きが体に染みついているのを感じて、光は苦笑する。
「まあ、よく作ってるもんなぁ。」
盛り付けつつ、つぶやいた。
二人分の炒飯と、2つの皿に目をやる。
光のための皿と、もう一つ――幼馴染のための皿。
おいしそうに炒飯をほおばる幼馴染を想像して、少し口角が上がるのを感じた。
昔から料理をするのは好きだったし、ある程度大きくなってからは多忙な両親のためにご飯を作ることも増えていった。
そうするうちに料理の腕は上がっていき、次第に両親がいない昼間などに自分のためにご飯を作ることも増えた。
多くの時間をこの家で過ごしている幼馴染……榎下零華に料理をふるまうようになったのも、当然の流れだったかもしれない。
10年ほど前に知り合ってからというものの、彼女はいつも光の家に遊びに来ていた。
零華も光も親が多忙で、親たちとしても一緒にいてやれない罪悪感のようなものはあったのだろう。
母親同士が学生時代の親友というつながりもあったからか、仕事で家を空けている間に零華を光の家で遊ばせることが多くなっていき。
いつしか零華は光の家に入り浸るようになっていた。
そうして数年が過ぎていったのだが。
中学生のころ、帰る時間になると零華が寂しそうな顔をするようになった。
きっと、家に戻っても誰もいないのがつらかったのだろう。
もう少し家にいたいのならば、言えばいいのに。
光が断るはずはないのに。
遠慮していたのかもしれない。
あまりにも寂しそうだから、見かねた光が夜ご飯を食べていくことを提案したのだ。
そしたら零華がとても嬉しそうにするものだから。
「あんな顔されたら、頑張るしかないよね。」
光はつぶやいた。
もともとうちに入り浸りがちだった零華が、更に入り浸るようになったのがあの頃だったはずだ。
遠慮しがちな零華のことだ。
迷惑にならないようにと自制していたのかもしれない。
そんなこと、考えなくていいのに。
いつも頑張っているのだから、光相手にまで我慢する必要はないのに。
多少のわがままくらい、いくらでも聞いてあげるのに。
そんなことを思うくらいには、光は零華に甘かった。
盛り付け終わった炒飯をもって、リビングに向かった。
土曜日の昼間だが、両親はいない。
やはり仕事で多忙なのだ。
ただ、もはやこの家の住民であるといっても過言……ではあるが、それくらいうちに入り浸っている幼馴染はいるわけで。
「零華、炒飯できたよ。」
机に皿を置きつつ、リビングにいるはずのその人に声をかける。
しかし、返事がない。
トイレなどに行っている様子はないため、おそらくリビングにいるはずだ。
ソファーの背で隠れて見えないが、たぶん寝ているのだろう。
光は思わずため息をつく。
リラックスしてくれるのはいいことだ。
一週間が終わって、疲れもたまっていたのだろう。
だけどそれはそれとして、男子と二人きりの家で寝るのもどうなんだと。
そう思ってしまうのも無理はないと思う。
「危機感とかさぁ……。まぁ、無いか……。」
思わずぼやきつつ、皿を端に寄せてテーブルを拭く。
スプーンを出して皿の横に置いたり、コップを出してお茶をついだり、一通り昼ご飯の準備を済ませてから光はソファーに歩み寄った。
やはりというべきか。
零華はソファーに寝転がって寝ていた。
それはもうぐっすり熟睡している。
というか。
「零華、さん。ちょっと……。」
今週は大変そうだったしなぁ、とか。
学校では気を張っているみたいだしゆっくり休んでほしい、とか。
そういうことも思いはするが。
それにしても。
安心しきったように緩んだ口元。
規則的で小さな寝息。
つやのある肩までの綺麗な髪。
ショートパンツからは健康的で眩しい脚が伸びており。
極めつけは寝ている間に服が捲れたのか、危うく胸の起伏までみえてしまいそうなほどにまくれ上がった服と、その隙間から見える健康的で綺麗なお腹。
これは非常に、……よくない。
光は視線を天井に向けた。
まずいなぁ。
つぶやき、赤い頬を誤魔化すようにため息をつく。
いや、よくあることではある。
よくあることではあるのだが。
慣れるかと言えば別問題で。
むしろ年々、零華と光が成長していくにつれてどんどん、……危険度が増している気がするというか。
ちらりと零華を見る。
相変わらずのスタイルだ。
そもそもこんな綺麗な身体、見慣れるわけがないんだよなと物凄く変態臭いことを思いつつ、光は雑念を払うように頭を振る。
そして若干目をそらしながらソファーの横にしゃがみこんだ。
「零華、昼ご飯できたよ。」
声をかけてみるが、返事はない。
やはり熟睡している。
この様子だと、しばらくは起きなそうだ。
光は零華の綺麗な顔を見つめた。
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