四泊目 幽霊

 心霊現象ってのは、ないと思う。そもそも俺にはそういう霊感なんてのは無いからな。っつか、そんな人がソロキャンなんてそもそもしねぇんじゃね?深夜の山や海の浜辺ってマジで漆黒の暗闇だから、そうゆう系の怖がりは霊感ってのが無くたって、もう全部がそう見えて感じてしまうと思うよ。


 なんでかって言うと、実際には色んな「音」と「気配」だらけだからな。だから”多分”・・・なんだ。


 例えば、夏は様々な小動物の生活音が特に夜はうるさい。

 昆虫類の声もうるさいし、夜行性の動物が結構多いんだよ。だから気配なんてのはそこら中からする。補整されたキャンプ専用場とかはそこまでじゃないけどな。俺はそういう有名所には行かない主義だ。



 ・・・その理由はまた後で説明するよ。



 冬の山は草木が軋む音や朽ちる音で騒がしい。


 ・・・あ?ああ、そうそう、みんな静かで落ち着く空間を求めて行くだろ?実際はどの季節も都会の喧騒ぐらい騒がしいんだよ。


 冬は、まぁ孤島とか南国は違うけど基本的に日本列島は風が強くなるだろ?木枯らしからが吹き荒れるからその草木の騒めきと、木って温度変化で伸び縮みするから歪み朽ちる音とか、聞き慣れていないとかなり不穏で不気味に聞こえると思うよ。しかも夜ってとことん闇の中で蠢くから。


 本当に静かな場所に行きたいのなら、開けた場所、例えば大きな湖の畔とか乾燥し切った草原とか。


 だから・・・そう、結果論だけどあれは自然物では無かったのかも?というのが・・・・・・

 深夜、ふと目が覚めてしまう時ってあるでしょ?その時もたまたまそんなタイミングだった。本当は良くないんだけど、火を焚いたままテントの中で気が付いたら寝てしまっていて、消しに行こうとしたら


・・・ザッ・・・ザッ・・・ザッ・・・・・・


 って、足音がした。

 さっきも行ったけど、俺はあまり人が来ない場所で本当のになりたいから、獣の足音や気配はよくするけど人間はまぁ無い。しかし、その足音はで明らかに二足歩行だった。


 まず説明しておくと、実際の人間だった場合お互いの存在認識をし合っていた方が、遭難時や何かあった時のためにも挨拶程度はしておくのが暗黙のルールだ。普通の登山でもすれ違った人とは必ず挨拶をしなきゃいけないって聞いたことない?その理由はそういった事でもあって、まぁ・・・他の意味もあるんだけど。


 え?他って?


 んー・・・例えば簡単に言うけど

 一つ、お前は本当に人間か?  っていう確認と

 二つ、お前今から死にに行く? っていう意思確認。

 三つ目が、さっきのお互いその後の安全確認のための把握だ。


 何かがあった時の目撃証言や不審者だった場合の足取り調査とかな。


 だから、普通の人であれば周りをウロチョロしたりと不信な行動はせずに声を掛けてくるはずなんだ。


 そいつはずっとテントの周りを回っていて、焚火の前を通ったはずだが不思議と影が伸びてこないんだ。研ぎ澄ましていた神経だったから遠近感が狂い気のせいかもしれないが、足音は焚火の手前から聞こえていたと思う。しかし、影がテントまで伸びてこないってことは火の向こう側を歩いているということになる。


 そうしてこっちも黙って静かにしていたら、足音は遠くへ行って去って行った。俺はその後、外へでて確認する勇気はなかったよね。これは幽霊関係でも怖いけど、人だった場合の方が百倍怖い。


 数時間、とりあえず一人用の鍋を持ちながら警戒していた。とっくに火も消えて目を開けているのか瞑っているのか分からない暗闇の中で、いつの間にか俺は寝てしまっていた。



 翌朝。


 鍋じゃなく料理用の小さなナイフに持ち替えて、恐る恐るテントから出て行った。しかし燃え切った焚火痕があるだけでその他は何も異常は無かった。


 予定としてはもう後、二日はそこで泊まるはずだったが直ぐ切り上げて当然のように還ったよね。




 数日後。



 その山の管理者から連絡があって、そして警察から事情聴取を受けることになった。

 何故ならその山の、そして俺がキャンプしていた近くからが出てきたらしい。


 ・・・ってことで、あの足音の正体って・・・『どっち』だったんだろうね・・・・・・


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