卒業

紅野素良

こんにちは

 卒業。



 それは別れの日。





そして





子どもから大人に変わる、分岐点。







 夢と希望を抱き、入学を果たしたあの日から、3年もの月日が経とうとしている。





 思い返せば、長かったような、短かったような、まさに夢のような日常だった。

 欠伸が出るほどに、時間は有り余っていたはずだ。長く、終わらない悪夢のように感じた時期もあった。しかし、それが一瞬として過ぎてゆく。

 覚えていることよりも、忘れてしまったことの方が多い。






 それでも、友との思い出。必死に勉強して得た知識。全力を尽くした部活動での記憶。毎日食べたお弁当の味。




 忘れられないものの方が遥かに多い。











 不思議と涙は零れない。


 もしかしたら、我慢しているだけなのかもしれない。

 これからへの『 期待 』と『 不安 』。卒業する『 寂しさ』。これらが入り交じった感情に、一体なんと名前をつければいいのか。

 友だちとふざけて混ぜて作ったドリンクバーのように、甘く苦い感情が口いっぱいに広がる。


この溢れだしそうな感情を、飲み込む。

喉元過ぎれば何とやらだ。




別れの寂しさから目を背け、私たちは、先を見据えなければならない。



 ここから先は果てしない。



 人生の夏休みに入る者。未知の世界に足を踏み入れ、世界の歯車を回す者。自分の欲望に忠実に従う者。多種多様な 先 が入り乱れる。


 そこに『 責任 』という重荷を担ぎ、私たちは進むしかない。



 そんな十人十色の一瞬が交わるのも、最後。


 もう二度と、全ての色が揃うことはない。








 それでも








 私たちは同じ空の下を進む。













 今日こんにちは、卒業の日。








『 また明日 』 はもうこない。








 だとしても











 振り返らずにはいられない。





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卒業 紅野素良 @ALsky

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