檻の中のあなたを守るために

三鹿ショート

檻の中のあなたを守るために

 私の仕事は、檻に入れられた人間たちの世話と、外部からの注文に相応しい人間を選んでは派遣することである。

 私のような人間は他にも存在しているが、それ以上に多いのは、檻に入れられた人間たちである。

 彼らは、生活が立ち行かなくなってしまい、関わってはならない人間に接触してしまった結果、檻の中で日々を過ごし、派遣先で客の欲望を満たさなければならなくなってしまったのだ。

 仕事の内容はともかく、食事などには困らないことを考えれば、以前よりも恵まれた生活だという人間も存在していることだろう。

 それでも、仕事を続けることに抵抗を覚えたためか、私を誘惑し、この場所から逃げ出そうと考えている人間が存在していたが、私が相手を受け入れることはなかった。

 何故なら、既に多くの人間によって、汚されているからである。

 そのような人間と身体を重ねることなど、考えただけでおぞましい。

 そんな中、新たに連れられてきた女性の姿を見て、私は驚いた。

 その女性とは、学生時代において、虐げられていた私に手を差し伸べてくれた彼女だったからだ。

 彼女は虚ろな目を私に向けたが、それ以上の反応を示すことなく、屈強な男性に促されるがままに、檻の中へと入っていった。

 男性が消えてから、私は声をかけたが、彼女は顔を上げることなく、何かを呟くばかりだった。

 その姿を見て、私は胸が痛んだ。

 かつては多くの友人に囲まれ、快活な姿を見せていた彼女がこのような状態に至ったのは、もしかすると、私が原因なのではないか。


***


 彼女が間に入ってくれたことで、私は粗悪な男子生徒たちから解放された。

 だが、その代わりに、彼女が男子生徒たちの標的と化してしまったのだ。

 顔面に痣が存在していることを確認したとき、私は彼女に謝罪したが、彼女は笑みを浮かべながら首を左右に振った。

「彼らが飽きる日は、何時か来ることでしょう。それまでの辛抱です」

 それが強がりであるということは、身体の震えから分かっていたはずだった。

 しかし、私が彼女に手を差し伸べることはなかった。

 私が一人で立ち向かったとしても、問題が解決するとは考えられなかったという理由だったのだが、それは建前である。

 実際は、再び標的と化すことを恐れていただけだった。

 だからこそ、彼女の言葉を信じる振りをしたのだ。

 一度だけ目撃した、彼女に対する男子生徒たちの仕打ちを思えば、然るべき機関に通報するべきだったのだろうが、それでも私は、己の身を可愛がるあまりに、何も行動することがなかった。

 それから彼女が男子生徒たちから解放されることなく、玩具として生き続けることを強要されていたのならば、このような場所に流れ着いたことにも、納得することができる。

 男子生徒たちが遊ぶための金銭を得たいがために売り飛ばしたのか、借金の形として売られてしまったのか、真相は不明である。

 だが、彼女が人生において躓く切っ掛けを作った原因は、間違いなく私だろう。

 今さら行動したところで意味は無いだろうが、それでも私は、少しでも罪滅ぼしになるのならばと、彼女のために動くことを決めた。

 それは、外部からの注文において、彼女が最も相応しかったとしても、他の人間を派遣するということである。

 外部の人間は、この場所にどのような人間が存在しているのかを見る機会が無いために、彼女の方が相応しいということに気が付くことはないのだ。

 それから私は、彼女以外の人間を派遣し続けた。

 この場所に来てから、彼女の肉体が汚されることはなくなったが、彼女の様子が変化することもなかった。


***


 ある日、常のように部屋に向かうと、其処は蛻の殻だった。

 何が起きたのか分からず、立ち尽くしていると、背後から屈強な男性が声をかけてきた。

 いわく、密かに実行される少子化対策のために、部屋の人間が丸ごと購入されたという話だった。

「社会では使い物にならなかったとしても、子どもを作り、産むことはできるだろう。新たな人間が一人誕生する度に、金銭を支払ってくれる上に、世話のための金銭を此方が支払う必要は無いと聞けば、喜んで渡すに決まっている」

 男性は私の肩に手を置くと、

「そろそろ、内部での作業も退屈してきただろう。これからは、外に出て、商売に必要な人間を捕らえる作業に変わってもらう。出張と称して旅行することもできることも思えば、これまでよりも精神的な負担が減ることは間違いない」

 男性の言葉は、私の耳には届いていなかった。

 再び彼女を救うことができなかったという罪悪感に支配されていたからだ。

 涙を流し始めた私に対して、男性は困惑していたが、私が理由を口にすることはなかった。

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