第44話 光が見えた

 窓に茜の光が差し込み、俺の頬に当たった。俺は顔を上げ、オレンジ色の光に目を細める。


「ジロー、こっちに来て。ご来光だよ」

 

 手招きすると、ジローは桶をテーブルに置いて俺の横にやって来た。朝の光が、凹凸のしっかりしたジローの顔に影を作る。


「王都で迎える新年だ。まさか療養所で迎えるなんてな」


 それも、徹夜明けで。来る日も来る日も朱殷熱レグア患者の治療に明け暮れる日々。ジローの目の下に、黒々としたクマが見える。それを見たら、なんだか申し訳ない気持ちになってきた。


「俺の相棒になったばっかりに、ジローには苦労させるな」

「うう」


 ジローは笑みを浮かべてブンブンと首を横に振った。そして、大きな手を自分の胸に置き、頷く。


 幸せだ、と言ったように見えた。胸がジンと熱くなり、鼻の奥がツンと痛くなる。俺も自分の胸に手を置き、ジローに向かって頷いた。


 俺も、幸せだよ。


 心の中で呟く。


 それから、もう一度窓の外に視線を向けた。


「もうすぐだよ。もうひと頑張りなんだ」


 自分に言い聞かせるように、呟いた。


 ブルクロとコクロの粥は絶大な効果があった。軽傷者にはそのままの粥を、重傷者にはジュールを施した粥を提供し始めてから、患者の回復が早くなった。ジャスパーの療養所で症状が悪化し、俺の所へ送られて来る患者はめっきり減ったし、死亡者も二週間ばかり出ていない。


 それに、診療所へやってくる人は少なくなっている。朱殷熱レグアは一度罹れば二度と罹ることはない。恐らく王都の人々の半数以上が朱殷熱レグアに罹ったのだろうと、ゴンザが言っていた。


 正直、先の見えない洞窟を歩いているような日々だった。その先に、光が見え始めているんだ。


 俺は目を細めて、朝日を見つめる。


「もうひと頑張りなんだよ、ジロー」


 もう一度呟いた俺の手を、ジローが握った。

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