第3章 眠り姫を起こせ
第23話 コクロとプルーロのミルク粥
王都に戻った俺は、王宮の厨房を借りて早速食材の調理に取りかかる。
料理と言っても、フレイヤ様は昏睡状態だ。とろみのついた水分の多いメニューしか口に入れて呑み込むことが出来ないだろう。となると、粥かジュースくらいしか選択肢はない。
コクロもプルーロも甘みがある。ミノタウロスは肉食なので乳は脂肪分がとても多くて濃厚な味わい。これを柔らかく煮込んだら、デザート風の粥になるだろう。女子受けよさそう。
食材にジュールを施したら、コクロを柔らかく煮込む。乳に長く火を通すと分離してしまうから、コクロだけをコトコト煮込むのだ。その間に、プルーロの処理をする。
焦げ付かないように鍋をかき混ぜるのはジローの役目だ。厨房のメイドさんがエプロンを貸してくれた。白くてフリフリした飾りが付いているやつ。髪の毛が落ちないようにと被せて貰った頭巾にもフリルが付いている。
「エプロンの結び目と尻尾が可愛い」とか、「頭巾から除いているお耳がキュート」とか、メイドさんがキャアキャア言いながらジローにエプロンと頭巾を着させてくれた。見た目厳ついお兄さんなのに、なぜジローだけがモテるんだ?
腑に落ちなくて首を傾げながらプルーロの皮をすりおろし、果肉を細かく刻む。皮はちょっと口に残るけれど、一番栄養価が高い部分だ。捨てるのは勿体ない。
コクロが柔らかくなったらプルーロを加えて更にコトコト煮込む。果肉がグズグズに煮崩れたらすり鉢でなめらかになるまで潰し、ミノタウロスの乳を加えて一煮立ち。
厨房に甘ーい香りが充満する。調理員やメイド達がドアの隙間から中を覗いている。
残念ながら健康な人がこれを食べたら、滋養ありすぎて鼻血出しちゃうんだよ。
できたての粥を少し冷ましてから器に盛り付け、フレイヤ様の部屋に運ぶ。フレイヤ様の食器は繊細な磁器で出来ていて、庭の一部を切り取ったみたいに、薔薇が華やかに描かれていた。
侍女が二人がかりでフレイヤ様の身体を起こし、背中にクッションを入れて斜めに身体を固定する。更に首にクッションを足し、首が前に傾くように調整する。この姿勢を取れば、流動食をむせないよう胃に流し込む事が出来る。
国王陛下が、枕元で不安気に眉を寄せている。
初めて見た時よりもフレイヤ様は格段に痩せ細り、皮膚に張りがなかった。この態勢を取り水分やスープを摂取させるように伝えていたが、やはりそれだけで命を繋ぐのは難しい。
「フレイヤ様。これは身体に力が沸き起こる粥です。どうかお召し上がりになってください」
俺は一歩近付き、跪いた。国王陛下が白い手を両手で包む。
「さあ、フレイヤ。しっかり食べるのだ。メディシアンの作った粥だ。これを食べて元気になっておくれ」
静かに目を閉じ、細い呼吸をしているフレイヤ様に向かって、俺は一つ頷いた。
どうか、目を覚ましてくださいますように。
口元に匙を運ぶ。薄く開いた唇の隙間に匙を差し込み舌の上に粥を流す。器を侍女に渡した後、顎と後頭部にそっと手を添えて顎先を上げる。しばらくして、小さな喉仏が上下に動いた。そこに白い光が灯る。喉の内側で生まれた光はキラキラ瞬く強い輝きに変わっていく。
輝きは胸元に広がり、静かに消えた。
俺はフレイヤ様から手を離す。
部屋がシンと静まりかえる。思わず唾を呑み込んだ。ゴクリという音が部屋中に響いてしまっていないか不安に感じるほど、静かな空気が広がっていた。
フレイヤ様の瞼が震える。そして、ゆっくりとその瞼が開いた。
「ふ、フレイヤ!」
国王陛下がフレイヤ様を抱き寄せる。フレイヤ様は両目をしっかりと開けた。
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