第27話 エピカリス王国の過去
ドクタールは恐ろしく強かった。いくら王都の騎士団が退去したとはいえ、エピカリス王国内の自衛団や、職業:戦士と言った、治安を守る人間はいた。しかし、ドクタールはその誰もを瞬殺した。さらに、中央の宮殿に侵入。抵抗する妖精族たちを一同に拘束した。
盗賊の二人に語ったように、たった1時間で国を侵略して見せた。
「君たちは殺しはしない。これからは俺のスペアとして生きてもらう」
集められた妖精族たちは、羽の色に分けられて、宮殿内にある牢獄へと入れられた。そこはドクタールの魔術で、妖精族程度の小さな身体でも、通り抜けられないよう、工夫されていた。
「白い羽のやつは、全て俺のところに持ってこい! 調教してやる。ケケケ…」
「はっ!」
ドクタールの命令を受けて、さっそく魔族たちは動いた。
連れてこられたのはロクサーヌ家の家族。その中でドクタールはロクサーヌとミルの姉妹では無く、両親を指名した。何が始まるのか、すぐに分かった。それと同時にロクサーヌ姉妹は恐怖を抱いた。
目の前で両親は気絶させられ、謎の液体の中に入れられたのだ。これが何を意味するのか、幼かったロクサーヌにもうっすらと分かった。
「羽の力があれば、お前の両親は、一生死なずに済む。だから、俺の実験に協力しろ」
「……いやだ!」
「ケケケ…残念ながら拒否権はない。ここの王はすでにガレンではなく、このドクタールだ」
「………!!」
「まずは口答えした、妹。お前からだ。姉の方だ。姉の方は牢獄に入れておけ」
「はっ!」
ドクタールの部下の魔族たちはそう言って、ミルを連れ去り、ロクサーヌの腕を引いて、牢獄へと連れ出した。
牢獄へと向かう途中。誰も人の気配がない、魔族4匹とロクサーヌだけになったタイミングを見計らって動いた。ロクサーヌは家系に代々に伝わる神術を使うことができる。この時代でできるのは、ロクサーヌとミルだけだ。そして、どちらかといえば、神術の腕はロクサーヌのほうが上だった。
「
突如、ロクサーヌを拘束していた鎖、そして、周囲にいた四人の魔族たちの表面が発火した。
「アチチチ!」
「なんだコレ!」
魔族たちが戸惑っている間に、鎖は炎で溶けて消えた。
今がチャンスだ。
ロクサーヌは白い羽を強く羽ばたかせた、初動で加速する。一気に燃えている四人の魔族から離れた。
「おい、待て!」
その言葉を振り切って、一気に上に上にと羽ばたいていく。
地上へ、宮殿の外へと出られる。
あのドクタールの魔力は相当なものだ。挑んでも勝てない。両親もミルも捕まって、白い羽を持つのはエピカリスでロクサーヌだけだ。ミルのことも心配だけど、今は脱出が優先だ。
次第に牢獄が見えた。ここにはたくさんの妖精族が捕まっている。
そして、その牢獄を監視するように魔族がざっと10匹。戦うかどうか迷った。しかし神術はそこまで連発できない。
今は生き延びことを優先しよう。そう決めた。だけど許した訳じゃない。いつかここに帰ってくる。強くなって。その時、ドクタールを倒して見せる。だから…決して諦めて逃げた訳じゃない。ごめん、お父さん、お母さん、ミル。でも、今の状況じゃ、言葉にして伝えることもできない。いったら必ず捕まってしまう。ごめんね。
窓の向こうに明かりが見える。地上からの明かりだ。ロクサーヌは一直線に向かった。金網がかけられていて、通気口になっていたが、内側から押すと簡単に開いた。
ロクサーヌは外に出ることができた。そして一気に空へと舞い上がった。
場所は決まっていない。だけど、とりあえず、近くツボミ町に行くとしよう。ロクサーヌはそう考えた。
エピカリス宮殿の地下深く。ドクタールは、さっそく捕まえた妖精族たちを実験に使っていた。目の前にいるのは鎖でぐるぐる巻きにされた、青い羽を持つ妖精族たちだ。
ドクタールの部下たちが、一匹一匹、奥の部屋へと連れてゆく。その部屋でなにが起きているのか、想像を絶する。悲鳴だけが待機している場所まで聞こえてくる。
時がたち、部屋から牢獄へと戻ってきた妖精族たちには、全て一つの共通点があった。それは、羽を失っていることだ。飛ぶことができなくなった妖精族たちは、そのまま地べたを歩くほかなくなった。青い羽を持つ妖精族たちはみんな揃って泣いた。
ドクタールにとって、妖精族がどうなろうが、知ったことではなかった。全ては計画のためだ。盗賊の二人から妖精族の情報を聞いた時から、とある計画を思いついていたのだ。それが妖精族の羽を媒介とした粉の開発だ。それぞれ羽の色に付いた能力をアレンジしたものが、粉の効果として現れるようにする。魔王軍の科学リーダーでもあるドクタールは特技を発揮して粉の開発を成功させた。
青い粉の効果は洗脳だ。
エピカリス王国の住人たちが食べるご飯の中に、青い粉を混ぜた。やり方は簡単だ。エピカリスで売られている全ての食品に青い粉を混入させるよう仕向けたのだ。おかげで住人たちは、魔王軍が国を支配していると知る頃には、洗脳され、誰一人逃げることもせず従った。
こうして、ドクタールは一滴の血も流さずに、エピカリス王国を手中に治めたのだった。
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