第26話 神の力
昼間は妖精族と人間で賑わっていた路地も、夜になれば別の顔を見せ始める。ロクサーヌが通る左右の物陰から何かが飛び出てきそうな、そんな予感がする。
目の前に公園が見えてきた。
おや、と思った。
公園に誰かがいる。この時間になれば、皆んな帰るのがエピカリスでは普段の光景のはずだ。
「まさか、白い羽が手に入るとは思ってもみなかったな」
「ああ、俺たちは運が良い。後は売るだけだ。数十…いや…数百個の金塊が手に入るぞ。ようやく苦しい生活からおさらばだ!」
白い羽…。
ひっかかった。白い羽で連想されるのは、私たちロクサーヌ家に代々伝わる羽の色だ。白い羽から放たれる粉は、浴びると不老不死をもらたすことができると言い伝えられている。
ロクサーヌは、暗い公園に踏み入った。
ブーン。
妖精族が羽ばたくたびに羽は鳴る。羽の音が聞こえたのか、公園にいた二人がこちらに気づいた。
「この音、妖精族か?」
「おい、見ろよアレ…!」
「なっ! 白い羽がもう一体だと⁉︎」
二人が驚くも無理はない。
ロクサーヌ自身も白い羽を持つ妖精族だったからだ。そして、月の光が羽に当たり、反射した先にいたのはミルだ。寝ころばされて、羽に鎖を巻かれて飛べないようにされている。
ロクサーヌは心の底から怒りが湧き上がってきた。
「よくもお前ら、許さない!!」
「まさか、ここ妖精族の親族か? こりゃ俺たちついてるな」
「二体目もゲットできそうだ」
二人は盗賊のようだ。ロクサーヌめがけて鎖を振り回して襲ってきた。
「神炎ノ
ロクサーヌは高速で盗賊たちの周囲で羽ばたいた。この時のロクサーヌは幼かったので、魔術は使えなかった。神炎ノ舞は魔術では無く、ロクサーヌ一家に伝わる神術だった。炎が盗賊の二人包み込む。
「グアアアッ…!」
神術を喰らった二人の盗賊は、地面にばたりと倒れて動かなくなった。
「ミルッ…しっかりてよミル!」
ロクサーヌはミルを抱き起こした。
「大丈夫だよお姉ちゃん。それより鎖をなんとかしないと」
「この鎖…魔術が練られている。さっきの神術で壊せるかな?」
「もちろんだよ。神術は魔術の上位互換だってパパも言った。神が扱う力だって」
「うん。もう一度やってみる。神炎ノ舞」
鎖に炎が着火した。それはとんでもない速さで鎖を溶かしていく。しかし、ミルは暑さを感じなかった。さすがは神術。対象が感じる炎の温度さえコントロールできる。
鎖が溶けて、ミルは自由を取り戻した。
「ありがとうお姉ちゃん! やったね!」
「よかったミル! これで家に帰れるね!」
ロクサーヌとミルは嬉しさを共有するために抱き合って喜んだ。
ロクサーヌとミルはそのまま手を繋いで、家へ帰っていった。
公園には気絶した盗賊二人が放置された。そして5時間後。盗賊二人の目の前に一人…いや1匹の魔族が現れた。
ドクタールだ。
「盗賊が倒れているなんて、エピカリスに似つかないな。
ドクタールが手をかざすと、倒れていた盗賊の二人は気を取り戻した。
「ふはぁ! ここは?」
二人は状況がわからず、キョロキョロと周りを見渡した。
「ヨォお前ら! 少し聞きたいことがあってな」
「うわぁッ…」
「何、そんなに驚くこともないさ。質問に答えてくれれば良いだけだ。良いな?」
ドクタールの顔に驚きつつも、二人は頷いた。無理もない。エピカリス王国に魔族が現れただけでも、異常事態なのに、まして、上級魔族以上の魔力を持っているドクタールというのが大きいだろう。盗賊二人はびびって動け無くなった。
「まず、俺は魔王様からエピカリス王国を占領する任務を授かっててな。部下に職業:スパイもいなかったものだから、こうして自分の足で侵入して情報収集してるってわけ。その上でだが…この国にいるという妖精族に関して何か有益な情報が聞きたい。例えば…ビジネスアイデアに繋がりそうなものだ」
「ビジネスアイデア…⁉︎ 俺たちは盗賊だ。悪いがご期待には答えれそうにないぞ」
「その点は安心しろ。どうやらエピカリスは騎士団がいないらしいな。だからお前らみたいな雑魚でも国に侵入して悪いことできたのだろう。俺ならその上をいく。俺が本気をだせば、ものの1時間もかからず、この国を落とせる」
ドクタールは嘘をついているのではない。底知れぬ魔力を身体の内に秘めていて、それが遠くから感知されないように、絶妙に隠しているのだ。
盗賊の二人はこくりと頷いた。
「妖精族に付いている羽には特異な力が宿っている。そして、その羽の色によってその能力も変わる。青い羽。これが一番多くの妖精族がつけている。幸せにする力がある。次が黄色い羽。長寿の力がある。その次は赤い羽。受けた傷が全回復する力がある。そして最後に最も珍しい白い羽。なんでも不老不死の力があるという噂だ。俺たちはこれから白の羽の色をした妖精族を捉えて、売るつもりだったんだ。実際には羽を力に変えるには、薬や科学的な知識が必要らいしからな」
「なるほどなるほど。ケケケ…良いこと聞いた。では…」
そう言ってドクタールは手を軽く振った。盗賊二人の首が飛んだ。
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