第24話 エピカリス王国に到着

 ブレイド、ドミンク、ライダーの三人は、全速力で雲をも突き抜ける山脈を駆け上がった。途中で幾らかの魔物とも出会ったが、目が合った瞬間には、三人のうちの誰かにねじ伏せられて倒された。

 山脈の麓でドミンクが言ったように、半日後には、山脈の頂上を超えて、エピカリス王国が見えるところまで来ていた。

「来るぞ」

「ああ」

「準備はいつでも出来ている」

 山道を歩く三人のはるか上空から、魔物が突撃してきた。三人とも、それを軽くかわした。

光神斬ラヴィート

 ブレイドが剣を払う。

 魔物は真っ二つになった。

「このあたりの魔物はレベルの割には好戦的だな」

 雑貨商人のライダーが感想を述べた。

「魔物が人間を襲うように、人間も妖精族を襲ってきた歴史がある。我々の行いも正しくは無いのかもしれない。反省するべきところはある」

ブレイドが何かに思いふけるかのように呟いた。

「なんだ? 勇者というより僧侶みたいなこと言いやがって」

 ドミンクがツッコミを入れた。

「ふっ、旅の生活をしていたら、襲ってくるやつはみんな敵と認識してやってきたからな。彼らからしたら、勝手に踏み入ったのは人間の方なのかもと考える時もあるのさ」

「まぁ、そういう考えもあるか」

 ドミンクは納得したのか、納得していないのか、微妙な返事をした。


 山を降り、エピカリス王国の入り口きた。

 ここまでくるのに山脈を越えなければならないことから、一般の観光客などほぼ来ない。やってくるのは恐れ知らずの旅人か、勇者パーティーか、魔術を持った荒くれ者を雇った商人だけだろう。

「じゃあ、作戦通り頼む」

 ブレイドは、誰もいないはずの木に向かって話しかけた。

 よく見ると、木の枝と葉っぱに紛れて、ライダーが居た。


変幻自在カメレオン


 雑貨商人の姿がみるみる間に変わっていき、旅人へと変化した。同じように見えるかもしれないが、雑貨商人に変装していたのは、あくまでも山脈を超えるときに商人+勇者と戦士という雇われの構成にするためだった。その方がすれ違った時に誰からも疑われない。

 対してエピカリスのような世間から乖離された国の時は、興味本意で尋ねてきた旅人という体の方が、情報を引き出しやすい。

「了解」

 旅人に変装したライダーは一言そう言って姿を消した。


 エピカリス王国の手前の関所は、ヨザクラ王国の時のような人だかりはなく、閑散としていた。

 受け付けに行くと一人の男が立っていた。

「へい、お待ちしておりました! ようこそエピカリス王国へ!」

 普段人が通らないからだろうか。奇妙なハイテンションで、ブレイドとドミンクは話しかけられた。

「王都から命を帯びてやってきた勇者パーティーのブレイドです。そしてこちらがドミンク。この国に入りたくて入国申請をお願いしたいです」

「へいへいへい! ブレイドさんにドミンクさんですね! こちらに個人情報を記入してください!」

 そう言ってハイテンションの男は、紙を渡してきた。魔力もこもっていない。普通の紙だ。紙はこの世界では貴重だったが、どうやら、エピカリス王国のれべるになると、そうでもないのかもしれない。

 とにかく二人は個人情報を書いた紙をハイテンションな男に返して、それと引き換えに、入国を許可された。


 関所を通ると、まず目に飛び込んできたのは、老若男女。人が多い。大きな道路から狭い路地にまでわんさか人が歩いている。そして皆んな笑顔だ。それはもうおかしいぐらいに皆んなニコニコだった。

「思ったより平和な国だな」

 ブレイドはニコニコしたまま杖をついて、どこかへ歩いていくおじいちゃんの姿をまじまじと見つめた。

「人間は楽しく暮らしているようだな。妖精族の姿は見当たらんが」

「まぁ、そのうちわんさか出てくるだろう」

 ブレイドは呑気にそう答えた。

 魔術書売ってます。と書かれた本屋の前で立ち止まる。中に入ると光魔術の本が置いてあった。ブレイドは思わず手に取った。

「これは神術に近い光属性魔術のルーツが書かれた良書じゃないか。王都以外でも売ってるものなんだな」

「ふぉふぉふぉ…、その本に目を詰めるとは若者よ、お目が高い」

 白髭を蓄えた本屋の店主が、ブレイドに話しかけた。

「ええ、魔術書を読むのが趣味でして」

「素晴らしいのう…若者はこの国…ッ……が本当に最高だろう。本当に素晴らしく、楽しい国だよ、エピカリス王国は」

 店主のおじさんは、何か別のことを言いかけたようだ。しかし顔の様子は変わらずニコニコだった為、たいした事では無いだろう。

「ええ、パーティーの一員としてエピカリス王国にきましたが、みんな笑顔で素敵です。ところで妖精族ってどこに行ったら会えますか?」

「妖精族…ッ…ええ、そのような素晴らしい国になので、きっとどこかで楽しく暮らしているはずです」

「…? そうなんですね。探してみます!」

 ブレイドは言葉では言い表せない違和感を感じた。買おうと手になっていた魔術書を本棚に戻すと、本屋を後にした。

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