第22話 急襲する敵

「ご来店ありがとうございました!」

 ロクサーヌは静かに追った。あえて荒くれ二人を泳がす。商店街のような目立たない場所で手を出すと、この町で全体的な問題になる。だから、彼らが裏道に通ったタイミングを狙う。

 ロクサーヌが壁に隠れて、角から様子を見ると、荒くれ二人は予測通り裏道に入って行った。

 二人ともパーティーを組んで旅をしているだけあって腕は立つ。だけど、ロクサーヌの敵ではなかった。

「なっ…なんだ!」

 荒くれも反応したが、それより早く、ロクサーヌは二人を地面に這いつくばらせた。

「クソ…なんなんだよお前は! グハッ…」

 声を上げた荒くれに魔術をぶち込む。

 ロクサーヌは二人を見下げた。

「何者でもない。今から黙って私の言うことを聞いてもらう。さっき言っていたロクサーヌ・ミルジェラトゥムののことだ。売られるとはどういう事だ?」

「なっ…なんだよ。そんなことか。お前も妖精族をペットにしたいやつかよ…グハッ!」

 ロクサーヌは荒くれに魔術をぶち込んだ。

「黙って質問に答えな! 次に命はないぞ」

「よ、妖精族が売られるのは昔からあったことだろ! 特に最近のエピカリスは、完全に魔族の手に落ちたと聞いている。中にいる妖精族はみんな売り飛ばされるに決まってるだろ。これから値が上がってな!」

「………」

 ロクサーヌは怒り魔術に変えて、荒くれ二人を睨んだ。話に出たエピカリス王国はロクサーヌの故郷でもある。思い出したくもない。だけど、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くのなら、通らざるを得ないことは分かっていた。それでも、考えたくなかった。考えれば、怒りがコントロールできなくなると恐れていたのだ。

「とにかく、お前らは死ね…!」

「お、おい待て…」

火弾イースクラ

 ロクサーヌの手から二発。放たれた炎が荒くれ二人を襲う。

 しかし、その瞬間、信じられないことが起こった。

 魔術の風が吹き、火弾イースクラは吹き飛んで消された。

「!!」

 巨大な魔力を感じたロクサーヌは、荒くれ二人の前から、後方に飛んだ。着地すると、元いた場所を睨んだ。

 風が砂を巻き上げ、視界が良くない。その中でも、はっきりと分かった。細身で銀髪。そして赤い目をした男がそこには立っていた。

「なんだ、お前は?」

 ロクサーヌは問いただした。

「それはコチラのセリフだと言いたいところだが、お前…妖精族だな?」

「なに? なぜバレた?」

「人間の変装術か。おおかたスパイにやってもらったのだろう。滑稽だ」

 一瞬で姿が消えた。いや、動いたのだ。ロクサーヌの目の前に赤い目が現れる。

シュラーフ

 ロクサーヌは反応しようとした。しかし、それよりも前に、身体が動かなくなっていた。睡眠を操る魔術だ。そして、魔術をかけるスピードも桁違いに速い。

 頭がクラクラして、意識が朦朧とした。どうやら、ここまでのようだ。油断した。この赤い目の男は上級魔族、あるいはそれ以上。将軍並みの強さだ。

 パタリと倒れたロクサーヌは変装術が解けて妖精族の姿に戻った。

「オウワさま。助かりましたぜ」

 荒くれ二人が身体を起こして立ち上がった。

「まさか、そいつが妖精族だったなんて。さすがはオウワさまですね」

「ふん。お前らの修行が足りないだけだ。あとは俺がやる。お前らは魔王城に帰れ」

「ケケケケ…了解しました」

 荒くれ二人の姿が徐々に魔族に変わった。そして目にも止まらぬ速さで消えていった。

 残ったオウワは、ロクサーヌの姿を見つめた。白い羽が生えている。

「やっと見つけた。レア者が」

 気絶したロクサーヌを抱えると、これまた一瞬で姿を消した。


 幾分か冷えてきた。このあたりの地方の夜はまだ寒さが残っている。山脈が近くにあり、その影響もあるとブレイドは思った。ドミンクはどこからか持ってきた木を、買ってきた短刀で切っている。短刀からは、ドミンクの魔力が感じられる。

「それにしても、ロクサーヌのやつ遅くないか?」

 ブレイドは魔術本を畳んでから言った。

「買い物がはかどっているのだろう。ツボミ町は町の中ではかなり当たりだからな」

「にしても、少し遅すぎるような…」

「ならば、俺が探してこようか?」

 天井裏から声がした。職業:スパイのライダーだ。

「頼むよ。何か嫌な予感がするからな」

 ブレイドが言葉を発し終えると同時にライダーの魔力と気配が天井裏から消えた。気持ちを落ち着かせるため、ブレイドは瞑想を始めた。一億人に一人の才能ですある、職業:スパイのライダーに任せたのだ。ロクサーヌはきっと見つかるはずだ。そう信じることにした。

 夜も時間が経ち、ツボミ町の外に出歩いている人も少なくなっていた。いかにもパーティーにいそうな戦士に変装していたライダーは、出会った人に片っ端からロクサーヌの似顔絵を見せていた。

「この子なら昼頃、うちの八百屋にきたよ」

 たまたま歩いていたおばあちゃんに話しかけると、情報を得ることに成功した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る