第21話 お買い物!

「しょっ、職業:勇者⁉︎ うそだろ、本物!」

「やっぱりそうだぜ。出会った時から、異様な魔力を感じたんだよ」

 子供たちは驚いてブレイドを見つめた。そこには、どこか憧れが混じっていた。

「そんな人だったなんて、分からなかったんだ。ごめんなさい」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

 子供たちが次々と謝ってくる。

「いやいや、そんなに偉くはないよ。ただ単に、俺は今日暇だったから、君たちと遊びたかっただけだよ。窓ガラスが割れたのは、むしろ不幸中の幸いだった。元から窓ガラスのお金ぐらい払えたしね」

 ブレイドはその様子を見て、慌てて子供たちに弁明した。改めて見知らぬ人から情報を引き出す職業:スパイのライダーの凄さを改めて思い知った。自分には、ここから町の情報を引き出すなんてマネはできないだろう。


 子供たちと別れたブレイドは、宿の店主に謝ってボールをぶつけたと謝った。やはり少し怒っていたが、金塊を差し出したら、すぐにおとなしくなった。人間誰しも、お金をみせられると、安心する生き物らしい。

 窓が直るのはどうやら明日のようだ。宿の階段を上がる僅かな間、もしロクサーヌやドミンクが先に戻っていたら、なんと言うだろうか考えた。多分ロクサーヌはなら怒って、ドミンクなら、冗談を言いながら目は敵を警戒するモードに入っている筈だ。ライダーはそもそも窓ガラスが割れているぐらいじゃ無反応で、天井裏に潜るだろう。

 ブレイドが部屋に入ると、誰も戻ってきていなかった。魔力の気配もないし、天井裏にライダーがいることもない。

 ブレイドは二人が帰るまでに魔術書の続きを読もう。そう決めた。


 壁一面に武器が飾られていた。刀、斧、槍、そして再び刀。刀。

 ドミンクはその一つ一つをじっくりと見つめた。このあたりで取れるオリオン鉱石は、普通の鉄よりも、魔力を通しやすい。故に、それによって作られた武器も魔力の反応が良いはずだ。

「それで店主。どれも素晴らしいものばかりですが、妙に刀の数が多いのは理由がお有りですか?」

 ドミンクは等身に映った自分の姿を見つめながら質問を投げかけた。

「…ほう、そこに気付きましたか。腕のある戦士さま。理由は簡単です。オリオン鉱石を扱える鍛冶屋が、刀専門の職人なのです。だから、オリオン鉱石は刀にしか入っていません」

 白い顎髭を生やした店主が、ドミンクに答えた。

「……分かりました」

 ドミンクのメイン武器は斧だけだ。刀にも斧と同じように技があると言うが、あまり知らなかった。

 壁に飾ってある刀とは別に、ナイフのような短刀が棚に置いてあることに気づいた。

「これにもオリオン鉱石が?」

 短刀を指差しながら、ドミンクは聞いた。

「ええ、刀ですからね」

「では、これを一本買います」

「500ゴールドです」

 流石にオリオン鉱石が入っているだけあって、一般的な短刀よりも少し値段が高い。しかし、ヨザクラ王国で高額な報酬を貰っていたドミンクにとっては買えない値段ではなかった。500ゴールドを店主に差し出して、短刀を手に店を出た。

 向かう先は宿ではない。町の外れにある森のほうに向かった。どうせ夜までは時間がある。短刀でどこまで何が切れるのか。野生の魔物や自然の木を切ったりして切れ味を確かめるつもりだった。


 ツボミ町の小さな商店街の真ん中をロクサーヌは歩いていた。他のまちに比べれば、かなり良い商店街だった。

 八百屋には、ツボミ町で育てられた採れたて新鮮な野菜が並べられていた。それらを選んでは、購入して、鞄に入れていく。

 ブレイド率いる勇者パーティーでは、いつのまにか食料調達の役割になっていた。別に誰かが決めた訳じゃない。ロクサーヌ自身が買い物好きで、じゃあついでに、食料も買っておいてと言われることが多々あり、そこから自然の流れでそうなったのだ。

 八百屋の次は、肉屋に入り、その次は豆腐屋で豆腐をツボミ町限定の豆腐を買った。

さて…買い物も終わったことだし、ゆっくり少し休憩して帰ろうかしら」

 ロクサーヌが見上げた建物は、2階がカフェになっている。ツボミカフェと書かれたその場所はツボミ町唯一のカフェだった。

 中に入ってみるの、意外に人が多く混雑していた。ツボミ町の住人だけでなく、どこか荒くれな感じのどこかの騎士団を思わせるような人物も数人いた。商人のボディガードか国から命を受けたパーティーかもしれない。コーヒーを頼むと、素知らぬ顔で幾分か遠くの席に座った。

「でさでさ! 聞いたかあの噂!」

 近くの荒くれの声が大きくてここまで聞こえてくる。

「ああ、アレだろ? 妖精族がお高く売られるって噂だろ?」

「そうそう! 金塊3つ分だって。確かに世間一般からしたら高えよ。でも、魔族殺しのパーティーとして戦果を上げてきた俺たちなら訳ねぇよな⁉︎」

「間違いねぇ。こいつだよこいつ!」

 荒くれの一人が広告を一枚、もう一人に渡した。

「名前はロクサーヌ・ミルジェラトゥム。羽に多数の傷あり。しかし白い羽なのは間違いないか。傷ありでこの値段かよ」

 荒くれが驚いている。

 一方のロクサーヌは、妖精族の名前を聞いた瞬間、殺気が溢れていた。

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