妖精族の国、エピカリス王国の陰謀編

第20話 ドッチボール対決する勇者

 みんなが寝静まっている早朝。ヨザクラ王国から旅立ったブレイド率いる勇者パーティーは、魔王城を目指して、再び旅にでた。

 森の中を進むこと十日。町が見えてきた。

「おー、ようやくだ。野宿の疲れを癒さないとね」

 ロクサーヌが見晴らしの良い崖の上から町の様子を眺めた。以前滞在した、スミレ町よりは大きそうだ。

「ふむ…あれがスミレ町だな。なんでも、ロクサーヌの故郷、エピカリス王国に行く関所のような役割も担っているようだ。ロクサーヌはよく知ってるんじゃないのか?」

 ドミンクが地図を広げながら尋ねた。

「全然知らなーい。確かに生まれはエピカリスだけど、王都バビロンにいた時のことの方が長かったからね。でも……あの国に妹のことは心配だな…」

 ロクサーヌは少しうつむきながら話した。

「妹? そんなのいたのかロクサーヌ。ならばせっかく近くに来たのだから、早く会いに行ったほうがいいとかあるのか?」

 ブレイドはロクサーヌの様子を不自然に思いながら聞いた。

「そうだね。これは誰にも話したことが無かった…。でも、大丈夫! さっ、この崖くだって早くツボミ町で宿を取ろうよ〜」

 ロクサーヌは妙に陽気な足取りで、先頭を進んだ。

「おいおい、いちばん浮かれてるじゃないなか?」

 ドミンクが地図を畳んで、後を追った。

「………」

 ブレイドは神妙な顔つきでロクサーヌを見つめた。


 ツボミ町には商人たちのための宿街が小さいながら存在していた。ヨザクラ王国で報酬として金塊をもらっていたブレイドたちは、その中で一番いい宿を取った。

「はい、こちらが鍵です」

 受け付けの人から差し出された鍵をそれぞれ受け取った。

 ブレイドが鍵に書かれた番号の部屋に入ると、そこは確かに普通の商人が泊まるというよりも、小貴族がたまるような部屋だった。

 コンコンと戸を叩く音がした。開けるとロクサーヌとドミンクが立っていた。

「わぁーブレイドの部屋もそんな感じなんだね」

「このレベルの部屋を3部屋も借りれる時が来るとはな。やはり勇者パーティーに加わるのも悪くない選択肢だったか」

「うーん。ドミンクが言うならそうかもね」

「どういう意味だロクサーヌ?」

「言葉通りの意味だよ〜」

 ロクサーヌは手に持った鞄を持ち直した。

「じゃ、私は買い物行ってくるよ」

 ロクサーヌはそう言って宿から出た。

「俺は武器を観に行く。この辺りは特殊な鉱石が使われているからな」

 ドミンクもそそくさと出て行った。

 一人残されたブレイドは部屋の中で何で、自分は何をやるかを考えた。ヨザクラ王国で買った読みかけの魔術書がある。それの続きを読もうと決めた。


 しばらく時がたち、太陽が真上から傾き始めた頃、魔術書を読んでいたブレイドの近くの窓にパリンと高い音が鳴り響いた。その直後、窓ガラスの破片が雨のようにブレイドに降り注ぐ。咄嗟に床をゴロリと転がって破片を避け、その転がっている間に魔術本の読んでいた部分に栞を挟み込んで異空間へと消した。

「敵襲……って訳じゃ無さそうだ…」

 ブレイドは戦闘態勢を解いて、窓の外に向かった。見下げると、そこには子供たちがこちらに向かって手を振っていた。

「ごめなさい。お兄さん、窓割っちゃった」

「だからボール返してください」

 ボールと言えば、さっき割れた時に、床に転がっていた物だろう。ブレイドは窓から離れて、ボールを手に取ると、ある考えが浮かび上がった。ロクサーヌの買い物も、ドミンクの武器散策も、一度始まればなかなか帰ってこない。ずっと同じパーティーになれば嫌でも知ることになる事実だった。

「よし、このボールを返して欲しいか?」

「えっ返してくれないのー?」

「そりゃ、このまま返しても、窓ガラスが割れた件で宿主から怒られるかもな」

「うわーん。それは嫌だー」

「ならば、このボールで勝負をしよう。みんな対俺一人だ。みんなが俺に勝てたら、窓ガラス代は俺が払うよ」

「なんだそれ、面白そうじゃん!」

「おいおい、本当にやるつもりかあの人強そうだぜ」

「だとしても、窓ガラスのことを請け負ってくれるなら、勝負するに越したことはないだろう」

 子供たちは少し話し合った後、ブレイドと勝負する決意を固めたようだ。

「じゃあ、ドッチボール対決だ! 俺にボールを掴まれずに当てれたら、君たちの勝ちだ!」

「よっしゃー」

 子供たちは、顔に血色が増して、元気よくなった。

 そして1時間が過ぎた。

 ツボミ町の広場では、ドッチボールをするために集まった子供たちが、ぜーぜーと息を切らしていた。

 地面に書かれた一本の線の向かい側にはブレイドがボールを抱えて立っていた。

「……よし、もう終わりだな」

 ブレイドは子供たちに寄り添って声をかけた。

「ま、まだだよ! もう一回戦…!」

「ダメだよ。これ以上やったら君たちの身体が壊れる」

ブレイドはそう言って金塊を取り出した。

「…! それは⁉︎」

「俺は魔王討伐の命を受けた職業:勇者だ。お金はある。遊んでしまって悪かったな。お金は俺が払う。君たちはもう責任を取る必要はないよ」

 ブレイドはそう言ってニコリと笑った。

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