第19話 夜桜祭り
ライダーが紙に魔力を込める。
すると、紙書いてあったから文字が、青白い光を放つ。
「バカな…音なしで、魔術暗唱など、出来るわけない」
アウリスは鼻で笑った。そんなものがあるなら、とっくに使われているはずだ。
だけど、ライダーの瞳から感じられる余裕。それは、アウリスには想定不可能な自信だった。
そこに書かれていた文字。
『契約・解』
結界や契約と言った、概念が絡む魔術を解除する魔術だ。
青白い光が全てを包み込む。音感の結界にヒビが入る。そして破れた。
その瞬間、ライダーが放った鋭い闇属性の光線がアウリスを貫いた。
身体に穴が空いたアウリスは、静かに倒れた。
「終わりだな。もう大丈夫だよ。イデア王女。降りてきてよし」
ライダーは天井裏で隠れていたイデアにそう言った。
「何が降りてきてよしよ。危なかったじゃない」
元女剣士のイデアは軽く地面に着地して言った。
「一応作戦通りなんだけどね」
「音感のアウリス。まさかスパイだったなんて…」
イデアはぶるぶると身体を震わせた。
王の間の外ガラスタスタと歩く音が聞こえる。
「イデア王女、ライダー様、見事に侵入者を倒されたようですね。お疲れです! お怪我はありませんか?」
職業:メイドのカレンが救急箱を持って入ってきた。
「私たちは大丈夫だカレン。そこに倒れているピティエを医療室に運んでやってくれ。それから、魔族の死体処理を騎士団に頼みに行ってくれないか?」
「分かりました!」
カレンは早速ピティエを背負って出て行った。
「悪いなイデア。俺は残りの残党を狩ってくる」
カレンに続いてライダーは入り口から出ようとする。
「お気をつけて」
イデアはあえてそれを止めなかった。ライダーはこの国の住人じゃないし、ましてや、職業:スパイだ。あまり揉め事は避けたいのかもしれないと思った。
【城内・本丸御展】
太陽が沈み、月明かりがヨザクラ王国を照らす。人々のどんちゃん騒ぎがいよいよヒートアップし始め、屋台を営んでいた人たちも各々酒を持っては出かけて行った。桜祭り 第二部の夜桜祭りへと移行し始めていた。
夜桜祭りと被ったのにも関わらず、多くの文官や騎士団の中心人物たちが集まっていた。
魔王軍の低級魔族軍団を倒したドミンクとロクサーヌ。そして、ロンドを倒したブレイドはそのヨザクラ王国の人たちに囲まれている。
勇者パーティーというのは、あくまでも帝都が定めた魔王を倒すための一団に過ぎない。ある意味では、帝都の騎士団と変わらない。報酬を受け取り、帝都に報告する義務があった。
椅子に座っているイデアが立ち上がった。
「ブレイド率いる勇者パーティー様。この度は侵入者である魔王軍相手に手堅く勝利。さらに上級魔族も紛れていたのに、住人の被害ゼロ。とても素晴らしいです。この功績を讃え、ヨザクラ王国から貴公へ、報酬を与えてます。グロース前へ」
大文官グロースは、ブレイドに前で箱を開いた。そこには、金塊が10個ほど入っていた。金塊は一つあれば一ヶ月は生活に困らずに過ごせる。
「ありがたく頂戴いたします」
ブレイドが片膝を折って、金塊を受け取った。帝都の騎士団のやり方だ。
「ブレイド様たちがいなければ、イデア王女を含め、この国がどうなっていたことやら。本当にありがとうございます。お礼と言ってはなんですが、今、まさに夜桜祭りの真っ只中です。我が国自慢の祭りですので、終わりまで存分に楽しんでください!」
グロースが頭を下げた。
「ハハハ…そうだね。お祭りは楽しまなきゃ損だね。では、失礼します」
ブレイドはそう答えて、ドミンク、ロクサーヌと共に本丸御伝から出ていこうと後ろを向いた。
「あのー…」
イデアは少し照れながら、三人を止めた。
「どうしました?」
ブレイドだけが、こちらを向いて立ち止まる。
「ライダー様にもお伝えください。助けてくれてありがとうございますと!」
「心配しなくても伝えときますよ。イデア王女」
ブレイドはそう答えて、にこりと笑った。
その夜。ブレイド率いる勇者パーティーは、夜桜祭りを大いに楽しんだ。ロクサーヌとドミンクは、市民たちと共に酒を飲んでいる。市民の中には、踊り狂っている人もいた。
ブレイドはライトアップされた桜の木の下に座っていた。魔術本を読んでいる。ヨザクラ王国で買ったものだった。
そこにイデアがやってきた。私服を着ている。どうやら王女としてではなく、一市民として祭りに参加しているようだ。
「やはり、ライダー様はいつもパーティーとは別に行動しているのですか?」
どうやらイデアはまだ、自分を助けてくれたライダーの方が気になるらしい。ブレイドは読んでいた魔術本に付箋を挟んで、静かに閉じた。
「彼は闇に生きる者。明るい夜は居場所じゃないのですよ」
ブレイドはそう答えた。
イデアはあたりを見渡した。桜の木に吊るされたちょうちんから漏れ出る光は、ヨザクラ王国を昼のように照らしていた。夜風に当たって、桜の花びらが美しく舞う。
「そうですね。その通りです。表舞台は私みたいな王女が盛り上げないと」
イデアは決心した。
夜中になった。夜桜祭りが終わり、静まり返ったヨザクラ王国。城内では、踊り、飲み、疲れ果てて、みんな寝ていた。
イデアは通路を歩いた。王女として最後まで祭りを見届けたのだ。ようやくイデア自身も寝ることができる。
王の間に戻ってきたイデアはふと机の上に、一枚の紙が置かれていることに気付いた。魔力が込められている。すぐに気付いた。これは、ライダーの魔術、
手紙になっている。それが何を意味するのか、イデアは自分だけが分かれば良いと思い、丁寧に金庫にしまった。
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