第18話 ソメイ町でのお祭り
【城下町・ソメイ町】
地面に魔王軍、音感のアウリスの手下の三兄弟が地面に倒れていた。
「市民が乗り気で助かった…本来の力をだせたな」
斧で斬られて、足元に倒れている三兄弟の一人、デウロンを見てドミンクは言った。
「そうね。お祭り好きすぎよね」
ロクサーヌが周りを見渡した。
市民たちはドミンクとロクサーヌが三兄弟と戦ったのを桜祭りの芝居だと思っている。
現に、ドミンクとロクサーヌのを囲むようにして市民たちが酒飲んで歌っている。
「さすがは、名役者! まるで本物の戦いのような演技!」
「そして、ソメイ町を全体を舞台にした体験型のお芝居!」
「こりゃ、名のある方に間違いない!」
「ところでお名前は?」
市民の一人が手に持っていたほうきを、マイク変わりにドミンクにつきつける。
「いや…名乗るほどのものじゃありゃせん」
ドミンクは勢いに任せて答えた。
「ウオ! なんと謙虚なお方だ! よっ名役者!」
市民たちははまた盛り上がる。酒飲む。歌い踊った。
「もう…なんでもありじゃん」
ロクサーヌが冷静にそんな様子を観ながらつぶやいた。
ボボボボボッ!
そんな二人めがけて、突如たくさんの炎の塊が降り注いできた。
「あの量。ロクサーヌ!」
「分かってるわよ。水の結界!」
ロクサーヌは天に片手を掲げた。そこから魔法陣が発生する。
魔法陣の中心から大量の水が飛び出し、それらはドーム状に広がっていく。やがて水のドームは市民たちやドミンク、ロクサーヌを包み込んだ。
ジュウウウウゥ……。
水は炎に弱い。
たくさんの炎の塊たちは、水の結界と衝突すると、消えていった。
「おお…芝居の第二幕か!」
「次も派手にやっちまってくだせぇ!」
市民たちの盛り上がりも増してきた。
「これはこれは…」
ドミンクは髭をさすった。
「あいつら隠れて見てるだけだったから、善魔族だと思ってだけど違うみたいね。ざっと500匹。どうやらこの国の魔族ってほとんど魔王軍なのかしら」
ロクサーヌは片手を天に掲げて、魔法陣を維持したまま魔族たちがいる方角を睨んだ。
「相手は強くない。低級魔族だ。数で押してくるつもりだな。だが市民たちが巻き添えを食わないよう考慮しないといけない。これがかなり手間だ」
「どうするドミンク。私の魔術でいく?」
「いや、それでも何人かの市民は犠牲になってしまう」
「じゃあいったい…?」
「俺に任せろ。相手の懐に飛び込んで魔王軍だけを正確に斬る」
ドミンクは斧を構えた。
「ふーん、意外に器用なのね」
「ロクサーヌも市民に当てないように援護を頼む。方法はまかす」
「その辺は雑なのね。まぁいいわ。やってやろうじゃないの」
そう言って天に掲げていた手をゆっくりと地面にまで降ろしていく。手についてくるようにして魔法陣も地面に降りた。
ロクサーヌは手を離す。すると魔法陣は地面に刻み込まれ、水の結界は維持された。
「結界の維持はこうやるのよ。これで外に出ても大丈夫!」
「持続時間は?」
「私を舐めないことね。音の結界と違って1年は持つわよ」
ロクサーヌは淡々とそう言ってドミンクより先に水の結界を出た。
「さ〜て、やるぞー!」
「援護だけだぞ、ロクサーヌ」
ドミンクもそう言いながら水の結界を出た。
「分かってるてば」
ロクサーヌはそう言いながら魔法陣を発動させた。
「
魔法陣の中から水の塊が出てくる。
数十匹の水で形取られた虎。
それらはドミンクの進む方向についていく。
ドミンクは魔王軍500匹がいる場所にたどり着いた。
「ドワーフ流演舞 風切り」
ドミンクは飛んだ。
一陣の風が吹く。
魔王軍が数匹、吹っ飛んだ。
ドミンクはさらに舞っていく。
その度に風が吹き、その度に魔王軍が数匹飛ぶ。
それを繰り返し、魔王軍の数を徐々に減らす。
「なんだ…この強さは⁉︎」
驚く魔王軍の魔族たち。
「落ち着け。数で押すんだ! 背後を狙うぞー!」
「オオ!」
掛け声と共に、ドミンクの背後にある隙を狙う、数匹の魔族。彼らは剣を突き刺そうとする。
ドミンクは、まるで後ろに目がついているかのように全てかわした。
「終わりにしよう。
ドミンクの周囲に無数の武器が出現した。
【城内・王の間】
無音の空間になった王の間の中で、素のライダーとアウリスは互角の戦いを繰り広げていた。互角と言っても、二人の間には差がある。魔術暗唱ができないライダーは、自分の肉体だけで戦い、一方の音を操れるアウリスは、魔術で攻撃しまくっていた。
「なんて奴だ…魔術を封じられて、尚そんなに強いとは。将軍にも匹敵するじゃないか」
「………」
音の無い空間で、ライダーはもはや、あえて口を開かない。魔術を繰り出すには技名を声に出す必要がある。それは同時にこちら側からも利用できた。
天井からヒラヒラと一枚の紙が落ちてきた。天井裏に避難していたイデアからの贈り物だ。それは戦闘が始まる前に、
「…紙? そんなもので、何ができるというのだ?」
ライダーは無言で紙に書いた文字を見せた。
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