第17話 悪魔化(デモーニオ)
「なっ……!」
驚くイデア。
そんなことはお構いなく、魔術を発動するアウリス。
アウリスの手のひらから放たれた魔力を乗せた音波がイデアにヒットした。
「………!!」
ドサっと倒れるイデア。
「悪く思いわないでよね。魔王様の思想に反対する者は全員排除するのが、私たちの使命なのよ」
倒れたイデアにそう話しかけるアウリス。だが、イデアは反応しない。
「作戦成功ですね! アウリスさま!」
ピティエを操るために同行していた魔族が歓喜の声を上げた。
「戦闘をすると騎士団の連中が駆けつけて、私が包囲されるからな。イデアは戦闘経験がある分こういう回りくどいやり方をしたが、それが功を制したようだ……」
アウリスはしゃべっている後半から、どこか違和感を感じ取っていた。音感のアウリスにしか分からない、音の違和感だ。
ハッと後ろを振り返った。
居ない。
イデアと共に迎えにきたメイドの姿がどこにも見えない。
「メイドはどこに行った?」
ピティエを操っている魔族に、アウリスは問いただした。
「………」
分からない。そう返答を返す前に、ピティエを操っていた魔族は縦に真っ二つになった。
「
素のライダーが姿をあらわした。
深くフードを被り、顔をなるべく見られないようにしている。
「…!!」
いち早く危機を感じたアウリスは、後ろに飛び跳ねて退く。
アウリスに構わず、操りから解放されたピティエを抱き止めるライダー。そっと地面にピティエを下ろす。
「イデア王女…こいつが、侵入者の正体の一人だ。魔王軍所属の上級魔族。人類の敵だ」
ライダーがそう言うと、倒れているイデアの姿が消えた。そして、天井の点検口が開き、本物のイデアが顔を出した。
「貴様…!」
「
魔術同士の合わせ技ができるのは、魔術を極めた者だけだ。アウリスは額に汗をかいていた。
「
音は一秒間に340メートル進む。
音速の衝撃波がライダーを襲う。
だが、ほぼ同時に剣払い、音波を弾き飛ばした。
ドゴオオオン!!
イデアの住む王の間の壁に穴が開く。
「
「詠唱の後出し⁉︎ 始めて見た…!」
「ふん。速いと言っても対象できないレベルじゃないな。せっかく素の俺の姿を見せたんだ。まさか詠唱の後出しが初見なんて、残念なこと言わないでまくれよな!」
勢いに乗ったライダーはアウリスに切り込んでいく。職業:スパイは本来、人に見られないように戦わなければならないと言うハンデを背負っている。その為、剣士や魔導士、戦士のように戦闘だけに集中することができないのだ。しかし、ライダーの場合は違った。ライダーはかつてブレイドとの修行によって、姿を見せられないと言うハンデを背負いながら、誰よりも強くなれた。
故にそのハンデを解放した素のライダーは、変装している時や、姿を見られたくなくて、隠している時の数倍強い。
ライダーの剣をアウリスは交わすだけで精一杯だった。
「クソ…ここままで終われるか!
アウリスはしゃがんで両手を地面についた。
「陰気くさいスパイめ! 音感のアウリスさまに逆らったことを後悔させてやる」
アウリスから禍々しい魔力が溢れ出ている。
「思いは音に乗り、音は全てを鼓舞し、波動として伝わる。音の結界!」
アウリス魔術詠唱。その瞬間からアウリスを中心に結界が伸びていく。それは王の間を大覆い尽くした。
-これは…音がいっさいならない…! 詠唱をさせない気か!
全ての魔術は口に出して言わなければ発動できない。音の結界の中では全ての音をアウリスがコントロールできる。故に音を消すことも可能だった。
【ヨザクラ王国・川辺】
水面に上がってこないブレイドを見て、首を傾げたロンド。
「うーん、もしかして今ので終わちゃったかしら♡。百万人に一人の才能の勇者だって聞いたから、最初から本気だったのに。思ったより弱かったわね♡」
ロンドはぶつぶつと独り言を言いながら、川を背に歩き出した。
「さて…どこに行こうかしら♡。ここからアウリスちゃんのところはちょっと遠いし♡。三兄弟の応援にでも行ってこようかしら?」
ロンドは気配を探った。
ロンドが探知できるギリギリの範囲で戦っている三兄弟を見つけた。
「うーん、敵さん強いわね♡」
三兄弟と戦っているロクサーヌとドレイクの魔力を計測した。
「おーい」
「…⁉︎」
ロンドは後ろを振り返った。
びしょ濡れのブレイドが立っている。
「よそ見していいのかよ」
「しまっ♡」
「
ブレイドは剣を振った。
衝撃波はが光属性の魔力となり、ロンドを襲う。
飛ぶ斬撃はロンドの身体を切りつけた。
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