第16話 オカマ野郎降臨!

 光速移動ペレグリーナはブレイドを光属性最強の剣士の称号を得たきっかけになった魔術だった。

 地上50メートルあたりまでなら、ジャンプするだけで到達できてしまう。

 もっとも、ヨザクラ王国に、そんな高い建物は、ヨザクラ城しかなかったが。


 ボボボボボッ!!

 空中に飛び上がっても、魔族たちの炎属性の攻撃が続く。

 -迷惑なものだ。

 ブレイドはそれらを剣で薙ぎ払う。

 上空から辺りを見渡すと、人がいなさそうな川辺を見つけた。

 -どうせこちらの居場所は突き止められるのだろう。あそこに誘導して倒すか。

光速移動ペレグリーナ

 ブレイドはまたもや光を放ちながら、目的の場所に急降下した。


 ブレイドは川辺に着地すると、辺りを見渡した。

探索サーチ

 やはりダメだ。魔族たちはすぐにブレイドがいる場所まで、来ようとしている。

 そして、一つ。

 巨大な魔力がこちらに向かってきている。

 上級魔族か…。

 ズドオオオン!

 分析するのも束の間。その魔族は地上に降り立った。

「ちょっと〜。職業:勇者がやっくるなんて萌えるじゃない♡」

「うげっ…なんだこの、オカマ野郎!」

 ブレイドの目の前で身体をくねくねしながらも、こちらの様子を隙がなく伺うオカマの魔族。その姿にブレイドはドン引きした。

「オカマ野郎じゃなくて、私はロ・ン・ド♡よ。ヨザクラオカマバーの店長でもあるのよ♡。でも…それも今日でおしまい♡。よろしくね〜色男♡」

 ロンドはそう言って、挨拶をした。

「オカマバー? よく分からんが、お前、魔王軍だろ?」

「何よ、オカマバーも知らないなんて♡。そうよ、魔王軍よ。行けないかしら♡」

「魔王軍は人類の敵だ。勇者ブレイドの名の元に貴様を倒す」

 ブレイドはそう言って、ロンドに切り掛かった。

雷拳サンダーパンチ

 ロンドの拳が雷を纏った。

 ガキキキキンッ!

 ブレイドの剣とロンドの拳がぶつかる。

「おりゃー♡」

 ロンドが片足でブレイドのみぞおちを蹴った。

「ガハッ…!!」

 剣に意識を集中させていたブレイドは、隙をつかれた格好になった。ロンドの蹴りは強く、遠くに吹き飛ばされた。

 先には川がある。

 ジャバーン!

 ブクブクブク……。

 水面に浮かび上がってくる気配がない。

 ブレイドは川底に沈んでしまった。

『アウリスちゃん♡。こいつはヨザクラ城に侵入してきた奴とは違うわ♡。でも同じパーティーぽいわね♡。どこかに隠れているかも♡』

『了解ロンド。警戒を怠るな。私はイデア王女の抹殺に向かっている。侵入が音に引っ掛かったら場所を連絡する』

『ハーイ♡』

 アウリスはロンドとの通信を切った。


【城内・王の間】

 鏡の前に立ち、ドレスを着た自分の姿を見るイデア。

 前後左右オッケー。

 王女ともなれば、桜祭りに行く時も正装を求められる。かつて、お母上様からも王女が外に出る時は、いつも仕事だと思いなさいと言われていた。あの時はめんどくさいな、と思っていたが、自分が王女になって分かった。

 今やヨザクラ王国のどこに行っても、私はこの国の象徴として見られるのだ。

 化粧もバッチリ。ドレスも完璧。

 さて、あとは…。

 チーン!

 王の間にようがある人が鳴らすベルが鳴った。誰だろうと思いつつ、イデアはドアを開けた。

「ラ…!」

 イデアが発しようとした言葉はライダーによって口元を抑えれた。

 ライダーは紙を持っている。

 イデアはそれをチラリと見た。

『音で場所を感知できる能力者がいる。紙を使おう』

 そう紙には書かれてあった。

 冷や汗をかいたイデアは、こくりと頷いた。


王の間にたどり着いたアウリス、操られたピティエ、ピティエを操っている魔族の二匹と一人。扉の横に備え付けられているベルを押した。チーンという音が内部に響くのをアウリスは感じ取っていた。

「中には王女とメイドが一名か。できれば争わずに拘束したい。作戦開始だ」

「はい」

 ピティエを操っている魔族は緊張した面持ちで言った。

 王の間に続く扉が開いた。

 アウリスの読み通り、イデアといつも世話をしているメイドが一名で迎えてくれた。

「ピティエさん。どうかなさいましたか?」

「イデア王女! 今夏祭りに行かれるの危険です!」

 ピティエが迫真に迫る顔で言った。

「おっ…落ち着いてください。まずは扉を閉じさせてもらいます」

 その言葉と共に、メイドがサッと動く。

 扉は閉じられ、今や王の間は密室となった。

「これで大丈夫です。何があったかお話ください」

「例の城に侵入してきたやからを見つけたのです。それも夏祭りの市民に紛れています」

「なんと…それは大変ですね! 今すぐ私が行って…」

「イデア王女」

 アウリスがイデアの言葉を遮った。

「なんでしょう」

「このヨザクラ王国は今すでに侵入者の手に堕ちようとしています。あなたは、魔王をどう思いますか?」

「愚問ですね、アウリスさん。魔王は多くの人の命を奪い、世界を侵略しようとする悪の象徴。世界最悪の魔族ですよ!」

「………そうですよね」

 アウリスの雰囲気が変わった。イデアは元女剣士だ。それ故に、アウリスのか全身に魔力が込められているのが分かった。

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