第15話 桜祭りの曲芸師
飲み、食い、歌い、踊る。
桜祭りが始まって、数時間。
あちこちで市民たちは、シートを広げて、花見をしている。
誰もが思いっきり楽しんでいる。
市民たちは、まさか魔王軍が侵入してきているなんて微塵も思っては居なかった。
元々、善魔族と共同生活を送ってきた国のため、少し見知らぬ魔族がいても誰も気にしない。市民は魔族にも自分の商品を紹介した。
魔王軍も副隊長のロンドから市民には手を出さないように言われていた。だが、それは平和を考えてのことではない。ヨザクラ王国を乗っ取った後に、国を動かしてくれる都合のいい奴隷が必要だったからだ。
魔王軍たちは徐々にブレイドたち勇者パーティーに近づいていく。
桜舞い散るこのヨザクラ王国の水面下で、ゆっくりと、だが確実に戦闘の音頭が聞こえ始めていた。
【城下町・ソメイ町】
ズズズズー。あっちこっちで、人々がテーブルに座ってうどんを食べている。
一つの席に座っていたドミンクも、箸を止めずに、3杯目のうどんをおかわりしたところだった。
4杯目もいけるな。そう思って、財布のゴールドを確認する。だが、その手が止まった。
「なんのようだ」
ドミンクは自分の真後ろに立っている魔族に喋りかけた。
「アウリス様が言っていた、勇者パーティーってお前のことか? チビのくせにパーティーなんて組んでんじゃねぇよ」
魔王軍三兄弟のプロトンだ。
「…ふん、そんな言葉今ではもう聞き飽きたわい。だが…」
ドミンクは箸を置いて立ち上がった。
「お前みたいな雑魚に言われる筋合いはないわ!」
ドミンクは背中に背負っていた斧に手をかける。
ブンッ!
素早く、斧を振った。
「クッ!」
プロトンは切先を顔の近くギリギリでかわした。そして後方に回転しながら飛び跳ねる。
「おっ曲芸か?」
路地を歩いていた市民たちが、それに注目する。幸いまだ魔王軍と勇者パーティーのバトルだとは思われていないようだった。
『おい兄弟、こっち側を手伝ってくれ』
プロトンが
『はぁはぁ…すまん、兄貴。どうやら行けそうにない』
『なんでだよ』
『この女…強すぎる!』
デウロンは答えた。目の前には、魔法円地面に書いているロクサーヌがいる。
『…ならば、合流しよう。俺たちの力が真に発揮されるのは、三兄弟揃った時だけだ!」
プロトンはそう言いながらも、冷や汗をかいていた。
【城下町・広場】
「ふーむ、これはいい壺だな。何百年という魔力が込められているな」
「お兄さん、分かるのかい。これは魔術戦国時代に作られた雨中の壺だ。どうだい、買っていくかい?」
「うーん。路銀の問題がなぁ」
ブレイドは、ロクサーヌにお金管理のことをガミガミ言われた過去を思い出した。
「残念だが、辞めておくか…」
「そうか。じゃまた、お金が貯まったら待ってるぜ。お兄さん!」
「おう」
骨董品屋のおっさんの元を離れたブレイドは広場を見渡した。ここはヨザクラ王国の中で一番人が集まる場所らしい。そのため、屋台の数も多い。組織ではなく個人でやっているお店もたくさんあり、中には家のものを高額な値段で売っている人もいた。
「さっきの人は本物だったな」
そう呟きながら、歩いていた。
別の方角から魔族の一団がやってきた。
数は200、300…いやもっと多い。
『魔族の一人に侵入バレて国中を追われた』
それはライダーからの
さて、どうなるかお手なみ拝見だな…
ブレイドは祭りを楽しんでいるふりをすることにした。屋台でカステラを買う。美味しそうに食べる。幸い、ライダーから他人を演じることを習ったことがある。そのおかげでさりげなく、警戒しているとバレないように振る舞うことができた。
魔族たちは迷いなくブレイドに近づいていった。そしてある程度近づいたところで、狙いを済ましたかのように一斉に魔術を放出した。
ボボボボボッ!
空中で放物線を描きながら落ちてくる炎属性の魔術だ。魔術を持たない市民からすれば、花火が飛んでいるようにしか見えない。だから、警戒したり驚いたりする人もいない。たった一人、ブレイドを除いては…だ。
ブレイドは、向かってくるたくさんの火の玉を見上げた。市民がたくさんいるところで、戦闘してしまうと、巻き込んでしまう可能性が高い。
いや…それが、奴らの狙いだ。
ブレイドは鞘に手をかけて、魔力を高めた。光属性の魔力を剣に込める。
「
それは切先を対象に向けることによる連続の突き。
市民たち祭りを楽しむ頭上で、炎と光がぶつかった。
火花を散らす。それを何事かと見つめる市民。すぐに火花は七色に変わった。
「なんじゃえ。花火かぇ」
「こんな近距離で花火が上がるなんて、さすが一年に一度の桜祭り」
「多少のご無礼は許されるぇ」
酔っ払っている市民の声がブレイドの耳に入ってくる。
とりあえず、ここに留まるのだけはまずい。
「
ブレイドは飛び上がった。
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