第13話 ライダーからの情報

「いっただっきまーす!」

 大きな口を開けてスープに入っている肉を食べるロクサーヌ。

 ブレイド率いる勇者パーティーの食事は、ほとんどが三人一緒に食事をする。決まり事ではなく、いつもなんとなくそうなる。仲が良いのだ。

 そんな三人の元に、黒い犬がやってきた。

「あ、連絡犬ランプロスだ! よくここが分かったねぇ!」

 ロクサーヌが気づいてヨシヨシと頭を撫でる。

「ようやくライダーから情報が来たか。少し遅かったな。もう晩飯だ」

 お皿を置いたドミンクは何かを取り出そうと内ポケットを探った。

 一枚の折り畳まれた白紙の紙だった。

「戻れ、連絡犬ランプロス!」

 ドミンクが言うと連絡犬ランプロスはその紙に吸い込まれていく。黒い犬はインクとなって紙に文字を刻んだ。

「ちょっと〜まだ可愛がりたかったのに〜」

 ロクサーヌは撫でたりないと言った感じだった。

「重要な連絡だ。あまり時間をかけたくない」

 ドミンクが反論する。

「まぁまぁ、二人とも、ライダーがどうなってるか気になることだし、先に読んでみようよ」

 ブレイドが二人をなだめて、文字が刻まれた紙を手に取った。

 そこには、ライダーがヨザクラ王国に来てから起こった出来事が書かれてきた。

「これが、そうか」

 ブレイドは連絡犬ランプロスが首に下げていた包みを手に取った。

 ブレイド率いる勇者パーティーに出された正式な侵入者討伐の依頼だった。


 次の日の早朝。

 泊まっていた宿の主人が見送りに来てくれる中、手を振って小さな村を後にした。

「この道を1時間ほど歩くとヨザクラ王国だ」

「確か、今日が桜祭りなんだっけ?」

 ロクサーヌが思い出したように質問する。

「ライダーの情報ならね」

「もっとも、ライダーの情報が間違っている可能性など今まで旅してきて一度もないがな」

 ドミンクがドワーフ族の特有である髭をさすりながら答えた。

「職業:スパイは一億人に一人の才能だからな。世界一なるのが難しい職業だ」

「ほんとすごいよね、ライダー!」

 ロクサーヌがブレイドに合わせて言った。

 そんなことをしゃべっている間に、ヨザクラ王国が見えてきた。

 国を囲む城壁の上に咲いている桜は、遠くから見ると、まるで王冠のような形をしている。神秘的な国として、有名だった。

 ヨザクラ王国につながる道の最後の分岐点にくると、ブレイドたち勇者パーティー以外にもちらほらと観光客が来ていた。

「魔王軍がうろついているかもしれないと言うのに、人は来るものなのだな」

 ドミンクが小さな身体であたりを見渡した。

「まぁ、年に一度のお祭りだからな」

 ブレイドたちの耳にも賑わう声が聞こえてきた。舞い散る桜がここまで届いている。

「あそこが関所か…おや…?」

 ブレイドは目を凝らした。観光客が並んで入国審査をする関所。石造りのその建物の手前にうっすらと水色の線が敷いてある。

「なんだあれ…まさか…結界⁉︎」

「結界だとしたら広すぎるしデカすぎるな」

「そーだね」

 ドミンクとロクサーヌにも見えたようだ。

 円形で曲がっている城壁が、視界から外れる水平線上にまで見ることができる。一本線は美しく、コンパスで描いたような、綺麗な湾曲だった。人間が作った結界だったら、ブレイドたちは喜んで褒めただろう。だが実際はそうでは無さそうだ。

「ロクサーヌ、あの結界の能力を解析たのんだ」

「任せときな」

 そう言ってロクサーヌは水色の線に近づいた。手をかざすと、バチバチと電撃が流れる。結界の全貌が明らかになった。

「やっぱり国を覆っているのか。でもその分、情報の隠蔽には力を入れてないみたい」

 ロクサーヌはそう言ってかざしていた手を引っこ抜いた。電撃の一部のがロクサーヌについてくる。

「なるほど……!」

「分かったか?」

「結界名:音感の結界。能力は、結界内のあらゆる音を聞き分けることができる…だってさ」

 ロクサーヌは読み取った情報を言葉にして言った。

「音感の結界…」

 連絡犬ランプロスの紙の情報によると、ライダーは相手の気配を何か的確に察知できる魔術を使うと書いてあった。

 “音”を聞き分けることができるなら、ライダーの居場所を突き止めることも可能だ。

「魔族の魔術はいつの世も厄介だな」

 ブレイドは一人つぶやいた。


【城内・地下武器庫】

「はぁはぁ…あなたが…侵入者だったのね」

 片腕を押さえたピティエが壁に追い詰められている。目の前には二人の魔族。魔王軍の音感のアウリスとその部下だ。

「人間に協力する愚かなピティエ。終わりだ」

「待って…! 同族殺しをする気?」

「それはやらない。同族殺しは魔族の誇りに反するからな。だけど魔王様から邪魔する同族には、手を挙げることが許可されている」

 アウリスの隣にいた魔族が前に出る。

「やれ」

催眠術イプノーズ

 アウリスの命令によって、その魔族は目からビームを発射した。

「……!」

 身体のあちこちを負傷したピティエは、避けることができなかった。

 ピティエの目の色が変わった。

 催眠術イプノーズによって操られた時にでる表情だ。

「よし、これでイデア王女の元に行こう。お前はピティエを操るために必要だ。着いてこい」

 アウリスは自分の部下の魔族にそう言って、先頭を歩いた。

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