第12話 戦いに備えて
イデアの後ろをついて行き、『王の間』と書かれた部屋に案内された。
「ここはわたくしが普段暮らしている部屋なの。代々この国のトップの人が生活してきた。私もちょうど一年前にお母上様からこの部屋を引き継いだの」
天井のシャンデリアから、机の上の置物まで、どこを見てもお金がかかってそうなものばかりが目についた。
「あなた名前は?」
「ライダーだ」
「分かった。ライダー。スパイとしての雇い入れは、一旦諦めるは。その代わり、勇者パーティーの職業:スパイとして、正式に依頼状を出すわ」
話が早い。このイデアとかいう王女は、ライダーがブレイドたちと旅を始めて、途中で出会った人物の中でもかなりの切れ者だ。
イデアは高級な椅子に座り、これまた、高級なペン立てからペンを取り出した。
「紙はある?」
「
ライダーの人差し指と中指の間に一枚の紙が生まれた。
「すごい…貴重な紙を魔術で作るなんて…」
イデアはそれを大事に受け取る。
綺麗に文字を書いていく。
最後に、桜のマークがついた印鑑を押した。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。これで、俺もこの国で狙われることはないな」
「ええ、勘違いして襲っていた善魔族たちには、ヨザクラ王国のほうから言っておくわ。彼らに伝わるまでは、王の間にいた方がいいね。あなたなら、自由にここに座ってもいいわよ」
「ありがたい。そうすることにするよ」
イデアはそう言って、部屋にあった金色の呼び鈴を押した。
「大文官のグロースを呼び出す時に使う呼び鈴よ。グロースはお母上様の時から側近として支え続けてきた。一番信頼できて、優秀な人よ。勇者パーティーへの正式な依頼になったんだから、今のところの状況説明をよろしくね」
「了解」
ライダー場そう言って近くにあったソファーに座った。ふかふかで心地良い。
ソファの正面にあるテーブルにイデアがマグカップを置いた。中にはお茶が入っていた。お茶はこの世界じゃ珍しい。茶葉の取れる地域は限られているし、今は魔王軍の動きが活発化していて、輸送ルートが潰されたりするのだ。
「上手い!」
お茶を口に運んだライダーは思わず声を出した。なんというか苦味と甘味が混じったライダーの好みの味だった。
「ヨザクラ王国で一番人気のお茶よ。これぐらいしなきゃ。だってあなた、めちゃくちゃ強いでしょ。元女剣士のわたくしの目は誤魔化せないわよ」
「へぇ、それが分かるのか」
マグカップを置いたライダーはニヤリと笑った。
【城内・騎士団練習場】
「なるほど、そういうことか」
アウリスに耳には王の間でイデアとライダーが喋っているセリフが全て丸聞こえだった。
聞き耳を立てていた訳ではない。
音感の結界。
アウリスはヨザクラ王国全土を覆い尽くすレベルの超巨大な結界を張ることができる。持続時間は一回12時間。その間は、結界の中のあらゆる物音や声を判別できる。そして、アウリスが結界内の特定の場所の音だけを耳に入れることもか可能だった。
『ロンド、プロトン、デウロン、トレトン、いつまで分身や幻覚の相手をしてるつもりだ? 戻ってこい』
『ちょっと、アウリスちゃんが言わなければ、全く気づかなかったわよ♡! 危なかった♡』
ロンドのオカマの声が脳内で響き渡る。
『作戦変更だロンド。ヨザクラ王国の北東の森の中に待機させていた私の部下500名。そこから催眠術が使える者を選べ。勇者パーティーが討伐にやってくる。ニコールの敵討ちと行こうか…』
アウリスのように魔族は人間同様か、それ以上に仲間意識が高い。荒くれ者の魔王軍が軍隊を作って人間と戦うのは、そういう協調性の高さがあるからだった。
「アウリス、ちょっと手伝ってくれる?」
後ろから話し声が聞こえた。
「ごめんない、ピティエ団長。ちょっとボーとしてましたわね」
「アウリス…まぁ、侵入者を取り逃したのは残念だったわね。相手は手だれだっだ見たいね。でも聞かれた会議も桜祭りのことしか喋ってないし対した内容じゃなくてよかったわ」
「その通りですわね。おほほほっ!」
アウリスはわざとらしく演技をする。ピティエは特に気にする様子もなく、来た道を戻って行った。
アウリスはその後ろ姿を静かに睨みつける。
人間側につく上級魔族のピティエ。
魔族も人間も公平な存在だと説く平和主義者として、有名な存在。
同族だが、魔王様とは相反する思考の持ち主。
彼女は処分すべきだ。アウリスはそう思った。
【ヨザクラ王国近辺の宿】
ブレイド率いる勇者パーティーは、ドミンクが調達してきた食材を使って料理をしていた。宿にある調理場には、包丁やまな板、鍋や皿など使えそうなものが一式揃っている。
「どうかしらブレイド、美味しそう?」
ロクサーヌが鍋をお玉でかき混ぜながら言った。
「うん、いい匂いがぷんぷんするなぁ」
ブレイドは野菜を切り刻みながら返答し、皿に盛り付けた。
「相変わらず手つきがいいなブレイド」
「ドミンクの薪割りの技術には負けるよ。たぶん…そんなに必要ないと思うけど」
ドミンクは自分の背丈の10倍は積み上げた薪を背に仁王立ちしていた。
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