第10話 デモンアバター
生徒たちの最後尾を歩く生徒のライダー。
ライダー自身は学校なんて通ったことがなかった。とりあえずそれっぽ態度を取り、学校の外に抜けようと考えた。ところが、先頭の生徒たちは、校舎を移動しただけで、別の教室に入っていく。
生徒のライダーは心の中でチッと、舌打ちして、さりげなく生徒たちとは別の廊下を曲がった。
そこには窓が付いている。
生徒のライダーは首を振って左右を確認した。
誰も見ていない。
窓の縁に足をかける。
ここは、学校の三階だ。落ちよう物なら、ただじゃすまないだろう。先に見えるのは教会だ。そこはちょうど、学校三階と同じ高さだった。
「
生徒のライダーは猫に変化した。
タンッと勢いよく飛ぶ。
人間の姿でも飛べるが、下にいる人たちに見られるのが面倒だった。
スタッと教会の屋根に着地した。
ふぅと一息つく。
だが、次の瞬間、ぶわっと一陣の風が吹いた。猫のライダーは屋根から飛ばされる。
少し油断していたライダーは、教会の屋根から落ちた。
「
落ちながら猫から鷹へと変身する。
「
そこに雷が落ちて来た。
ビガッ!
鷹のライダーは冷や汗をかいた。すんだのところで、かわせたからだ。
「
ドスン!
今度は身長2メートルはある巨大な熊の姿に変身し、地面に着地した。
敵の数は1匹、2匹…そして後方にいる合計3匹だ。
「すごく立派な熊だな」
前方の1匹の魔族が言った。
「あくまでも素顔は晒さない気だね。でもこの国で、悪い侵入者は君。我々は国を救う善魔族。だから仕方ないね」
もう1匹、隣の魔族が言った。
3匹とも中級魔族の上位の実力はある。
そしてなぜか、職業:スパイの変装を見破っている。この3匹か、あるいは城内で追いかけて来た上級魔族の仕業だろう。
熊のライダーは周りの視線など気にしていられなくなった。
まさに
「闇を生みし悪霊 三途の川渡りて 夜を惑わせろ…
熊のライダーは10体に分身した。
「詠唱魔術の名を知っているのか…!」
「すごい数…。もしかして兄さん、こいつ強いの?」
「そうだとしても、ここにはアウリス様、ロンド様もいる。負けるはずが無い」
「それもそうだね」
10体に熊のライダーは一斉に動いた。一歩一歩がデカく迫力がある。
「
三兄弟のうち後方にいる魔族が、風属性の遠距離魔術をぶっ放してきた。
一方その頃、素の姿のライダーはフードを深く被り、暗闇の中を歩いていた。ここは教会の向かいにある修道院の天井裏だった。
闇属性の魔術の使い手であるライダーは、影を移動し、闇に紛れることができる。
今日は神への祈りが無いのか、シーンと静まり返っていた。
詠唱魔術を使うとどっと疲れが出てしまう。
分身たちはいまだに戦っていた。
ライダー自身はあまり戦いが好きではない。魔術を使った戦闘はどうしても目立ってしまう。それに魔術は人を殺めるためではなく、助けるために使うべきだとブレイドから教わっていた。
【城外・タカネの都】
イデアは走っていた。
侵入者を探すため、市民たちに聞き込みを行なっていた。そんな時、騎士団の善魔族たちが、謎の熊たちと戦闘しているという噂が流れてきたのだ。
最初は冗談だと思ったけど、とにかく行ってみることにした。
この熊が侵入者である可能性などあり得るのだろうか、あるいは誰かが操っているのか、それは進んだ先に答えがある。イデアはだから走った。
「
修道院を移動中、ライダーの耳に聞こえてきた。それはさっきの中級魔族の三兄弟とは違う声、違う質の魔術だ。
咄嗟に、こちらも魔術を発しようとしたが、遅かった。
修道院の天井にヒビが入る。
ピカリッ!
一筋の雷があたりをほと走る。
バキバキバキッ!
ライダーは屋根ごと電撃に押しつぶされた。
「やりすぎちゃったかしら♡。猛者だと聞いたけど弱いわね♡」
跡形もなく砕け散った修道院の天井を見上げて上級魔族のロンドは言った。
ロンドが瓦礫をどかすと、修道士の服を着たライダーが伸びてる。
「残念♡。バイバイね♡」
拳が雷を帯びる。
ロンドはトドメを刺した。
闇の幻影魔術。
それは対象に悟られることなく、幻覚を見せることができる。強そうな上級魔族がこちらに向かってくることを
かつてライダーの幻影魔術を破ったのは職業:勇者のブレイドのみ。
ロイドもまた、罠にハメることに成功した。
「城の中で出会ったやつとは魔力が違うな。ヨザクラ王国には複数人の上級魔族がいるのか。厄介だ」
素のライダーは独り言を呟いた。おそらくこちらの気配は何らかの方法で全て察知されているのだろう。ならば、変装などせず、裏路地を通って素早くこの国を出るのが最善策だと思いついた。幸いこのあたりにいるのは浮浪者や、のんだくれだ。職業:スパイの存在すら知っているか怪しい奴らばかりだった。
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