第9話 ヨザクラ城内追いかけっこ

「グロースさん。今はヨザクラ王国の危機です。お母上様は侵入者を見つけるには職業:スパイの存在が不可欠だと言ったました。ですが、ヨザクラ王国にはいません。代わりに、元職業:剣士のわたしが侵入を見つけ、処分します!」

「お待ち下さい…! イデア様!」


 大文官グロースの静止を振り切って、イデアは【城内・本丸御展】を出て行った。


「ごめんなさい。グロース…!」


 イデアは場内の廊下を走りながら謝った。


【城内のどこか】

 随分と追ってくるな。

 天井裏から階段へと降りて来たライダーは思った。城内のできるだけ複雑なルートを移動しているつもりだった。


 会議の時、天井裏から覗いていて、数人の上級魔族がいることが分かった。


 ライダーのスパイとして簡単に発見できるほどのバカじゃない。一億人に一人しかなれないスパイのライダーは技術に相当な自信を持っいるはずだった。


 それでも振り切れない。

 魔術のたぐいだな。


 ライダーは気づいた時には、城内の最上階へに来ていた。まるで追い込み猟のようだとライダーは思った。それも追い込まれているのは魔族ではなく人間の方だ。

 最上階の天井裏へ潜り込んだライダーは、天守閣へと這い出た。

 上級魔族は迷わずまっすぐにこちらに向かってくる。


 アウリスは天守閣にあるライダーを捉えた。


「世にも珍しい職業:スパイね。悪いけど、城内への不法侵入は大罪なの。大人しく捕まってくれるかしら」


 アウリスは姿を見せずに声だけを反響させて、ライダーの耳に届けた。


「やなこった」


 ライダーはそう言ってポケットから丸い玉を取り出した。


「音を操る魔術だな! お前、善か悪。どっちだ⁉︎」


 ライダー大声をあげてアウリスに聞こえるように言った。

 だが反応は返ってこない。


「まぁ俺はどちらにせよ逃げるがな。煙幕カプノーズ


 ライダーは手を振った。丸い玉を地面に衝突させる。煙が出て来た。

 それは窓ガラスを割って、天守閣に上がろうとしていたアウリスの元に届いた。


「ふんッ…こんなもの」


 音感のアウリスという異名の通り、アウリスの反射で物体をイメージできる。目眩しなど無用のはずだった。


 だが、音が反響しない。

 音が返ってこないと、ライダーの場所をイメージできない。


「しまった…複合魔術か!」


 複合魔術とは人間が発明した、魔術を応用した技術のことだ。煙幕カプノーズの場合、煙が入ったボールに特定の魔力を流し込むことで、魔術として発動できる。


 煙幕カプノーズは、煙による視覚と魔力によるあらゆる探知を遮断することができる。その代わり、魔術を使用している本人にもその効果が及ぶ。そのため、ライダー自身もアウリスの場所が分からなくなった。

 ライダーは天守閣から飛び降りた。

 逆風が顔に当たる。被っているフードがめくれそうになり、手で押さえる。


変幻自在カメレオン


 目前にには城を囲む池が見える。ライダーは鯉に変身した。

 ボチョンと水飛沫が上がり、住民の何人かが振り向いた。だが、すでに鯉のライダーは水中深くに潜っていた。


 アウリスは、煙をかわすため屋根伝いに天守閣を降りた。ライダーが潜った池の水面を確認する。


「チッ、音じゃ判断できない。逃げるのが上手いな」


 魔族は基本的に泳げなかった。


『アウリスちゃ〜ん♡』

 突然脳内に響き渡るオカマ声。

『ロイドか、どうした?』

 アウリスも脳内で返事した。

『どうしたも、こうしたも、イデア王女が城の外に出ていっちゃったわ♡。どうやら侵入を捕まえるとか言って、いきごんでたけど、これ問題だわよね♡」

『こんな時に職業:女剣士の血が騒いだか。大文官グロースは何をやっているんだか』

『グロースも頑張って止めてたわよ♡。でも、イデア王女がそれを振り切って出ていっちゃったの♡』

『チッ…もう良い』


 アウリスの目つきが鋭くなる。王女であるイデアに、顔がバレる訳にはいかない。

 一方的にロイドとの脳内会話を終わらせた。


強制招集アインバルフォーム


 アウリスの足元に三つの魔法陣が出現した。それは、青白い光りを放ち、魔力を放出した。


「これは…これは…お久しぶりですな。オシリス様」

「バカ兄貴、アウリス様だよ!」

「オシリス様は、魔王様が崇拝している神の名前ですね」


 魔法陣から現れたのは、魔族の三兄弟だった。それぞれ三人とも中級魔族だ。


「プロトン、デウロン、トレトン、早速で悪いが追いかけっこだ。私が音をお前たちの頭の中に運ぶ。あとは、分かっているな」

「ええ…対象は皆殺しですね」


 三兄弟の長男である、プロトンがニヤリと笑った。


【城下町・タカネ町】

 ライダーは猫に変装し、学校らしき場所の屋根裏部屋で体をブルブル震わせて、水滴を落としていた。城の下の池は、川になって学校の校庭に通じていたのだ。

 天井裏の木と木の間のわずかな隙間から、下が見える。ちょうど廊下になっていた。たくさんの10代の生徒たちが移動している。

 ベストタイミングだ。


変幻自在カメレオン


 素の姿ではなく、ありきたりな生徒の姿に変装した。天井裏から点検口を伝って降り、さりげなく生徒達の最後尾についた。

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