第8話 ヨザクラ城内に侵入
路地裏へとやって来た雑貨商人のライダーは立ち止まった。
「
周辺に360度、誰の気配も感じない。
大丈夫そうだ。
「
雑貨商人のライダーの姿がみるみる変形していった。
鷹になったライダーは空へと羽ばたいた。狙いはヨザクラ城だ。上手く風にのり、城の周りをぐるりと一周した。
あそこだな。
城の内側から外へに続く排水口を見つけた。
鷹のライダーはそこに急降下した。
「
スピードに乗ったタイミングで鷹からネズミへと新たに変形した。
排水口に着地と同時にネズミの姿の姿を完成させ、そのまま奥へと進んだ。
暗い配管の中を伝ってしばらくすると、上で眩しい光が見えた。そこに向かって進むと台所に出た。
ネズミのライダーはシンクから上を見上げた。ちょうど天井に点検口があり、そこから天井裏に侵入できる。
ライダーはネズミの変装を解き、元のフードを被った姿に戻った。そして天井にジャンプする。
職業:スパイ特有の素早い動きで点検口を開けて天井裏に侵入した。
感じる。
職業:スパイとしての今までの経験上、魔力が集まるところに物事の発端がある。
そこに向かうのが吉だ。
できるだけ音を立てずに、ライダーは天井裏を移動した。
ライダーは魔力の集まる場所に着いた。下からは誰かの話し声が聞こえる。魔術を使う必要もない。どうやら天井の下で会議が行われているようだった。
ヨザクラ王国に来た目的は、この国に紛れ込んでいるはずの魔族を探し出すことだった。しかしそれ以外にも、ブレイドたちが上手く立ち回れるようできるだけ情報を集めるのも職業:スパイの仕事だ。
ライダーは天井裏に人差し指を置いた。
「
静かにゆっくりと人差し指に熱がこもっていく。やがて触れている天井部分に熱が伝達し、ゆっくりと蒸発した。
ヨザクラ王国に来た目的はこの国に紛れ込んでいるはずの魔族を探し出すことだが、ブレイドたちに上手く情報を渡してイベントを発生させるのも職業:スパイの仕事だ。
天井に人差し指よりも小さく穴が空いた。
ライダーはそこからゆっくりと下を覗きこんだ。
【城内・本丸御展】
イデアは今、王女として、たくさんの配下たちと向き合って座っていた。
魔術が使えないイデアには、一人一人顔を見て、侵入者なのか確かめるしかない。
もっとも本丸御展にまで来るメンバーは、ヨザクラ王国の重役ばかりだ。
イデアから向かって右には大文官グロースを筆頭に、ヨザクラ王国の政治を担当する文官が列になって座っている。
イデアから向かって左は、上級魔族で、善魔族のピティエを筆頭に、武官が列をになって座っている。武官の方は、いくらか魔族が混じっている。これはピティエが自分の信頼のおける魔族を選んで来ていた。
さらに文官と武官の後ろには、一列に並んだ、国の有権力を持った市民たち。その中にも善魔族がいる。
例えば、ロンドという青い肉体を持つ身長2メートルの魔族はヨザクラオカマバーの店長をしている。その横のピーアケーテという女魔族は、魔族セラピストとしてこの国では有名だった。
大文官のグロースが前に出て来て、ホワイトボードにプランを書いていく。そして周りを見渡した。
「今回の桜祭りのプランは、昼から夜までの間ということでよろしいですね」
誰も反対意見はない。決まりだった。
「では、イデア様。締めのお言葉をお願いしてもよろしいですか?」
「ええ」
イデアは口を開こうとした。
「少しお待ちください」
その時、ピティエの後ろにいた一人の魔族がさえぎってきた。
音感のアウリスだ。正体を隠してピティエの配下として潜り込んでいた。魔力を誤魔化す魔術を使い、旅の魔族だと偽って、ピティエに取り入った。
大隊長ともなれば、人間の中にも自身の姿を知っている者がいる。
正体がバレないために変装もしていた。
アウリスは音波を操る。
人が聞き取れない、わずかな音の違いを感じとっていた。
「イデア王女、失礼します」
アウリスは立ち上がると、アウリスの近くに来た。
耳に手を当てる。
風が皮膚に当たると音。
人間が呼吸する音。
音が壁にぶつかり反射するところさえ聞き取ることができる。
「どうしましたか?」
イデアはこちらに来た魔族に質問した。
この魔族と対面したのは初めてだ。ピティエが独断で連れて来た善魔族ということだけは知っていた。
「侵入者です。イデア王女」
「えっ…! それは大変だ!」
「わたしは先に追います」
アウリスはそう言って【城内・本丸御展】から出て行った。
イデアは考えていた。
侵入者がいる。
それはお母上様が言っていた悪い魔族に違いないだろう。
お職業:スパイなら侵入者を炙り出せる。お母上様はそうも言っていた。
だが、ヨザクラ王国には職業:スパイはいないから……。
「わたくしが直接対処します!」
束の間の沈黙。
「なりませんぞ。イデア様はもう王女の身。危険な行動はヨザクラ王国の危機につながります」
大文官グロースが慌てて、イデアを止めようとした。
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