3
二時限目の授業がようやく終わり、休み時間を知らせるチャイムが鳴り響いた。
まだ二時間しか経ってないと思うと、怠く感じる。
透はいつものようにとある一角にある小さな庭で休むことにした。
ここはあまり人がいないので静かでうるさい教室から離れられる唯一落ち着くことができる場所だ。
「あの…」
庭にある白いベンチに座ろうとしたら、急に声をかけられた。
声がした方を向くと、左目を前髪で隠しているひ弱そうな少年がいた。背丈は自分と同じくらいだった。
ふと、少年の肩を見ると、見たことのある白い柴犬の子犬がいた。
「もしかして宵が見えるの?」
透の視線を感じた少年は震える声で問いかけた。透は頷くと、いきなり子犬は別の姿に変化した。
尖った耳に額には丸い幾何学模様があり、尻尾はふさふさと生えていた。見た目は狐か狼のようだった。
「実は宵がお礼を言いたいという事で勝手についてきてしまって…僕は足が悪いけれど、必死に追いかけていたら君に行き着いて、その。ごめんなさい」
宵という狐はくんくんと透の匂いを嗅げば、じゃれ始めてきた。透は驚いたが、
「いや、全然気づかなかったよ。謝る必要は無いよ…! 僕はただ怪我が痛そうで可哀想だったから、つい治しただけだよ。
君、よいっていう名前なんだね。いい名前」
透はニコニコとしながら、宵を撫でた。
すると、突然右手の甲にある猫の文字の痣が疼き、痒くなってきた。
ふと、少年を見ると、右手首をいつの間にかつかんでいてなぜか小刻みに震えている様だった。
「大丈夫?」
と、透は少年に問いかけると、少年は戸惑いながら頷いた。
透はそのあとに何か言おうと思った途端、休み時間があと10分で終わることを知らせるチャイムが鳴った。
もっと聞きたいことがあったが、少年は黙ってそそくさと去ってしまった。足が痛そうにしていて歩みは覚束なかった。
宵は元の手乗りサイズの白い柴犬の子犬に戻ると、透の方をちらと見ながら少年の肩に器用に乗った。
(足、痛そうだったな、大丈夫かな…)
と、透は少年の足の心配をしていたが、ふと、名前を聞くのをすっかり忘れてしまったことに気が付いた。
だが、次の授業に遅れそうになっていたので、慌てて足早に教室へ戻ることにした。
お昼休み、食堂にて透は先程食堂で買ったパンを真と一緒に食べていた。
「真はいつもそれを買うよね、おいしいの?」
真はそうだねと言いながら、何味なのか分からないジャㇺが挟んでいるコッペパンを食べていた。
「それより、そのパン見たことないけれどおいしいの?」
と、真に自分が今日買ったパンを指摘しながら、聞いてきた。新商品とでかでかと宣伝していて気になってつい買ってしまったが、
「うーん。甘すぎて買って後悔している」
と言いながらクリームが塗っているパンを見て、なんていう名前のパンだったかド忘れしていた。
「それより、透。休み時間の時に話していた人って誰?」
「ああ。実は…」
と、透は真に休み時間のことを話し始めた。今朝助けた白い柴犬の子犬の名前、名前が分からない少年の左手首のこと。
真は静かに聞いていた。透が話し終えると、そうかと呟けば、残りのコッペパンをあっという間に食べてしまった。
真の顔を見ると、なんだかあまり興味なさそうなのか興味ありげなのかよくわからない表情をしていた。
ぼーっとまことの表情を見ていたら
「どうしたの? そんな変な顔して」
と、透に問いながら苦笑をした。透は何でもないよと言いながら、我に返った。
放課後。透は帰ろうとした時、渚さんと自分の名字で声をかけられた。声の方を見ると、内気そうな少女がおどおどとしながら、自分を見ていた。
隣の席の
透は何の用かと聞くと、来週の月曜日、黒板当番だという事を伝えると、スケッチブックを大事そうに抱えながらそそくさと去ってしまった。
言われなくても分かっていたが、当番という面倒くさい役割に少しうんざりをしていた。
鞄に必要な物を入れていたら、早く帰ろうと急かす真に声をかけられ、いつものように一緒に家へ帰った。
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