霧崎探偵は、淡々
赤青黄
始まり初まり
昼下がり、木々の隙間から差し込む穏やかな日差しが地面に影を落としていた。その心地よい光景とは裏腹に、俺のスマホが小さな音を立てて震えた。何気なく届いた動画を再生すると、見知らぬ男と俺の妻が映っていた。内容が飲み込めず、手の震えが止まらない。画面に映るのは、笑顔で抱き合い、親密に過ごす二人。次の瞬間、俺の手からスマホが滑り落ち、アスファルトに激突して割れた。その画面には、まだその情景が残っていた。
「それでここに来たわけです、霧崎君。」目の前に立つ男は、割れたスマホを握りしめ、虚ろな目でぼんやりと宙を見つめている。彼の眼差しはどこにも焦点を合わせていない。正気を失いかけたその姿は、生気のない瞳と不自然な笑みが混じり合い、まるで人形のようだった。ボクはその顔を見るのが苦痛で、目を逸らしたくなったが、同時にこの男の苦悩を見て少しばかりの哀れみが湧いてきた。しかし、どこかその感情が薄く、冷ややかな自分に気づいていた。
「この動画のせいで、夜しか眠れなくなり、三時のおやつも喉を通らない。それに、仕事の効率が十倍にも増えて、悪いことばかりだよ…」彼は悲嘆に暮れているように話すが、その言葉はどうにも現実離れしていた。どう考えても良いことしかないのだ。彼の苦悩が、彼を異常に有能にしてしまったのは皮肉な話だ。
「それはむしろ、良いことばかりじゃないですか?」とボクが指摘すると、男は顔を引きつらせ、「そんな話はしていないよ、霧崎君!」と憤りを見せた。やれやれ、彼は相変わらず自分を客観視することができないようだ。彼の言葉を無視しているわけではないが、その執拗な主張には少し辟易としていた。
「霧崎くんは探偵だろ?これは誰かの悪戯だ、そう証明してほしいんだ。妻が浮気なんてしているはずがない。だから、素行調査を頼むよ。お金ならいくらでもある。この動画を見て自暴自棄になって買った宝くじが一等に当たったんだ。三倍でも五倍でも払うから、この悪夢を終わらせてくれ!」と、彼は震える手で宝くじを差し出した。
宝くじを見下ろすと、確かに一等に当選している。驚くべき幸運だが、何とも皮肉な状況に思えた。この男、いや、先輩はどこか歪んだ運命を持っているのだろう。彼の泥のように濁った目がボクを見つめているのを感じると、少しばかり意地悪をしたくなる衝動が抑えきれなかった。
「直接そも妻に聞けばいいじゃないですか。」と言うと、彼の顔が青ざめ、体が小刻みに震え出した。
「そ、それは…俺は臆病でヘタレだから無理だよ…霧崎君にしか頼めないんだ。霧崎様、お願いです。この感情を消し去りたいんだ‼︎」
「様付けはやめてください、気持ち悪いです。」とボクは冷ややかに言ったが、彼の必死な様子を見ると、どこか楽しんでいる自分がいることに気づいた。先輩は昔からボクに迷惑ばかりかけてきた。それに対する小さな復讐心のようなものが、今こうして満たされている気がした。
「頼む、霧崎様…いや、もう様はつけない。どうか、この悪夢を終わらせてくれ!」先輩の懇願が続く。
少しの間、ボクは考えるふりをしてから、「はぁ、分かりました。この宝くじを譲ってくれるのなら話を考えましょう。」
「どうぞ、どうぞ」
「欲は無いんですか……。はぁあ。これも何かの縁なのでその依頼受け取りましょう」と言い、宝くじを受け取った。先輩の顔は安堵に満ち、喜びを抑えきれない様子だった。
「本当か?本当に霧崎君がやってくれるのか!?」
「だから、様付けはやめてください!」と再度注意しながら、懐かしい気持ちと共に心の中で笑みを浮かべた。こうしてボク、霧崎淡は、先輩からの依頼を受けることになった。その依頼が、後にボクの人生を大きく左右するものになるとは、この時はまだ気づいていなかった。
霧崎探偵は、淡々 赤青黄 @kakikuke098
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。霧崎探偵は、淡々の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます