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「心配するな。カラーコンタクトレンズを入れただけだ」
「カラーコンタクトレンズ……?」
「いくら貴様が男のふりをしてもその金目を見れば、いずれ身分がバレてしまうだろう? ジョヴィル国の王族の血を濃く引いていて見事な金目を持っているのは、生存している王族の中で貴様だけだからな」
「あ……」
そうだ。
いくら王族の血を引いていても、お父様も弟のヘクターも誰も金目を持っている者はいない。
「だから、黒のカラーコンタクトレンズを貴様の左目に入れさせてもらった」
「だったら、最初から言ってくれ!」
魔法使いに色盲にされてしまったと思って、背筋が一瞬冷たくなっただろう!
「言って渡しても、貴様はすぐに入れることは出来ないだろ?」
「う……っ」
「一人の時は取っていても大丈夫だが、人前ではカラーコンタクトレンズを入れておけ。寝る時はきちんと外して付けっ放しで寝るなよ。手入れもちゃんとしないと、本当に失明する恐れがあるからな」
「怖いこと言うなよ!?」
代価として、右目の神経……視力を失ったんだから、左目が失明すれば本当にわたしは全盲になってしまう。
「魔法使いが親切なのか酷いのか分からなくなって来た……」
「オレには信用も信頼もするな。オレの要件は以上だ。早く行け」
「分かってる!」
わたしは抜け道へと歩き出す。
「魔法使い!」
「何だ」
抜け道へと数歩歩いて、わたしは魔法使いを呼んだ。
「わたし、魔法使いが助けてくれたこと一生忘れないから!」
「大袈裟だな。これから大変だと思うが、達者に生きろよ」
「うん。自分で選んだ道だ。後悔は絶対にしない!」
「じゃあな」
「さよなら」
わたしは魔法使いに手を振って、抜け道へ足を踏み入れた。
―――チリン……。
「ん?」
後ろで鈴の音がして振り替えるとそこにはもう―――魔法使いはいなかった。
空耳かもしれないけど、何故か聞き覚えのある鈴の音だった。
「……見えなくなるまで見送りぐらいしてくれたって良いのに……まぁ、いいか」
わたしは着替えてからずっと引きずっていたズボンの裾を両方数回大きく折る。
それは、ラシャドとわたしの身長差を表している。
服の裾も同じように折った。
「………ラシャド」
服の持ち主である、ラシャドを呼ぶ。
服の裾に鼻を押しあてると、大好きなラシャドの匂い。
行為が変態くさいけど、ラシャドの匂いを嗅いで安心する……。
「……ラシャド、この服もらうね。ずっと大好きだったよ……。ばいばい―――さようなら……」
聞こえるはずのないラシャドへ想いと別れを告げて。
今度は一度も振り返らずに、こうしてわたし・グレースは今まで生まれ育った生家を後にしたのだった。
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逃げる王女と追う執事、時々魔法使いの明けない心 かがみゆえ @kagamiyue
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