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「これを持っていけ」

「?」


 魔法使いがわたしに何かを渡して来た。


「スニーカーと帽子と……眼帯?」

「これからその女物の靴で移動するのは歩きづらいだろう。貴様が街の連中と交流がなくても、貴様の顔を知っている奴は知っているからな。少なくても、ジョヴィル国を出るまでは念のためその帽子を深く被って用心しておいた方が良い」

「成る程。それじゃあ、この眼帯は?」


 スニーカーと帽子は理解出来た。

 もう一つ気になった眼帯は、まだ封を切っていない真新しいものだった。


「真っ黒な眼球を持った人間などまずいない。珍しがる人間もいれば、気味悪がる人間もいる。それで覆って隠しとけ」

「……逃げ出したいわたしに手を貸してくれただけじゃなく、わたしに気を使ってくれてありがとう」

「単なる気紛れだ」


 わたしは魔法使いにお礼を言って、右目に眼帯を付けて帽子を深く被って、スニーカーに履き替えた。

 スニーカーはわたしの足のサイズにぴったりだった。


「靴もドレスと一緒に処分しておく」

「なぁ。わたし、変じゃないか?」

「大丈夫だ。これなら何処から見ても、貴様がジョヴィル国の第一王女だと誰も思わないだろう」

「それはどうも」

「姫君」


 魔法使いがわたしを呼んだ。


「わたしはもう姫じゃない」

「なら、グレース」

「何だ?」


 グレース。

 久しぶりに名前を呼び捨てにされた。


「あとはいくつか助言してやる。頭に入れておけ」

「何?」


 助言なのできちんと聞いておこう。


「まず、絶対に自分の身分は明かすな」

「明かしたら、すぐにここに連れ戻されるな」

「逃げている時は自分を『旅人』と名乗れ。そう言えば、これから出会う善良の人間たちは食料などを分け与えてくれる」

「人間を騙すのか……それは嫌だ」

「だから、本物の旅人になれ」

「え?」

「色んな地域を旅しろ。『旅人』として、ただで物を恵んでもらうのが嫌ならば農家などで手伝ったりして等価交換をしっかりとしろ」

「あ、うん……。それなら……」

「そして、最後に」

「?」


「男して生きろ」


「え……」

「正しくは、男のふりをしろ。自分の性別は隠せ」

「……何で?」

「自分で自分を守るためだ。自分から危険なリスクは最小限に少なくしろ。変な男どもに捕まって、身体を好き勝手にされるのは嫌だろ?」

「っ!?」


 そんなの嫌に決まってるっ!!


「まぁ、今オレが言ったことを実行するかは貴様の自由だがな」

「ううんっ。早速魔法使いの言う通りに実行してみる!」

「……そうか」

「魔法使い、本当にわたしに色々としてくれて、ありがとうっ。そろそろ本当にわたしは行くよ」

「ちょっと待て」

「まだあるのか?」


 魔法使いがスッとわたしの左目に右手を伸ばして来て。


「!?」


 わたしは左目に何かを入れられた。


「な、に……色が……」


 左目に何かを入れられた瞬間、わたしの視界は色が無くなった。


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