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「……変な奴だな、貴様は」


 容姿を褒めると、魔法使いに呆れ顔をされた。


「話を戻すが、お前がわたしの前に現れた目的はなんだ?」

「ああ、それは……」


 コツコツ、と魔法使いがわたしにさっきよりも近付いて来る。

 わたしの目の前で跪くと、


「!!」

「綺麗な足だな」


 魔法使いは、わたしの着ているドレスのスカートを掴むと勢いよく捲った。

 車椅子に乗ったまま、わたしは両足を太股まで魔法使いに露出される形になる。

 言っておくが、スパッツなどを穿いているから下着は見えていない。


「……変態」

「勘違いをするな。確かめるだけだ」

「?」


 魔法使いが片手でスルスルと何かを触る音がする。

 場所からして、多分……。


「……わたしの生足に触るのが目的なのか?」

「オレにそんな趣味はない。触られていると分かるか?」

「……昔事故に遭って、下半身の感覚は無くした」


 視界に入らなければ、あたしは両足をつねられても叩かれても分からない。


「そうか……」

「嘘だと思うか?」

「いや。おい、姫君」

「何だよ」


「歩きたいか?」


「え……?」

「歩けるようになって、自分の両足を使ってここから逃げたいか?」

「な、に……?」

「姫君はカンワストン国の第一王子と政略結婚するんだろ?」

「っ!? 何で知って……!」

「街の話題になっている」

「……街ではわたしは婚約者と恋愛結婚だと伝えられているはずだ」


 直接会ったこともない、話したこともない、文通などの交流もしたこともない婚約者とどうやって恋愛なんて出来るんだろうな?

 全く嘘も良いところだ。


「……フッ、貴様のことでオレに知らないことはない」

「どうして?」

「魔法使いだからな」


 魔法使いは、勝ち誇ったように笑った。


「それじゃあ、お前は魔法使いだからわたしのことを何でも知ってるとしよう。でも、あたしがこの両足で歩くことはもう出来ない」

「何故、決め付ける?」

「……お父様が色んな名医をここに連れて来て、両足を診てもらっても誰も治せなかった。脊髄損傷……下半身不随だから、無理もない。車椅子生活になって今年で10年経つ」

「下半身不随……」

「だから、魔法使いと名乗るお前でもわたしの足を……」

「治せる、と言ったら?」

「えっ!?」


 魔法使いの言葉にあたしは目を見開いた。


「治せる……?」

「ああ」

「どんな名医でもさじを投げたこの両足を……?」

「ああ」

「本当!?」

「ただし」

「な、なんだ?」

「条件がある」


 魔法使いがその場で立ち上がり、わたしを見下ろすように見た。


「……条件? 報酬か?」

「金などそんなものはいらない。条件とは『代価を払うこと』だ」

「代価……?」

「貴様の足を治すには、貴様は身体の一部を失わなければならない」

「!」

「条件を飲むか飲まないかは貴様次第だ」

「それって……」

「?」

「わたしの身体の何処をお前にやれば良いんだ?」

「っ!?」


 なんで魔法使いは自分から言い出したくせに驚いているんだ?


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