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「……ラシャド」
「はい」
「わたしがいなくなったら寂しい……?」
「何を今更」
「……わたしが他の男性と結婚しても平気か?」
「何が言いたいんですか?」
「わたしは嫌だ」
「何がです?」
「いつかラシャドがわたし以外の女性と結婚することも、わたしはラシャドと結婚出来ないことも」
「………」
ぴたり、とわたしの髪を梳かすラシャドの手が止まった。
「僕にどうしろと?」
「……好き。わたしはラシャドが好き。小さい頃から大好き」
「ありがとうございます」
「……っ、逃げたい」
「はい?」
「わたしはここから、逃げたい」
「………」
「わたしは結婚なんかしたくない! ずっとここにいたいっ! ラシャドに側にいて欲しいっ!」
「………」
「……連れ去って」
「………」
「ラシャド、わたしの執事だろう? お願いだ、わたしをここから連れ出して。一緒に逃げて、ずっとわたしの側にいて離れないで……っ」
「僕は……」
わたしはラシャドに一番言いたかったことを言った。
わたしは幼い頃からずっと、ラシャドが好きだった。
「僕は、この家に仕えるただの執事です。そして、あなたに仕えるだけの身だ。それ以上もそれ以下でもありません」
「っ」
「ジョヴィル国の顔となる王女たるもの、なに我儘を言っているんですか? ジョヴィル国の為に、カンワストン国へ嫁ぎ自分の役目を果たすのが第一王女であるあなたの役目でしょう。一体何を考えているんですか、―――迷惑極まりない」
「………」
わたしの髪を掬っていたラシャドの手が離れる。
わたしの後ろにいるから、ラシャドの表情は見えない。
きっと、見下しているのだろう。
「……それが、お前の答え?」
「姫様の間違いを正す、それ以外に何がありますか?」
「そ、っか……」
「作業が終わったので、失礼します」
「……うん、ありがとう」
ラシャドは櫛を引き出しへ仕舞うとわたしの顔を一度も見ることなく、わたしの部屋から出て行こうとする。
「っ、ラシャド!!」
「!」
部屋から出て行こうとするラシャドを、わたしは引き留める。
ラシャドが振り向いてわたしを見た。
ラシャドと目が合った。
「まだ何か?」
わたしを見るラシャドの目は冷たかった。
わたしが車椅子に乗ってるから多少は見下すように見えているのかもしれないけれど。
いつも冷たかったけど、今までで一番冷たい目でわたしを見ていた。
……いつからこうなってしまったんだろう。
「わっ、わたしはラシャドが大好きっ!」
「だから?」
「っ、わたしが生涯で想うのはラシャドだけだっ! だから―――……」
「失礼します」
「待っ……」
がちゃり、とドアが閉まる。
ラシャドに右手を伸ばしたけれど。
……その右手はラシャドを捉えることはなくて。
わたしの言葉を最後まで聞かずに、ラシャドは部屋から出て行った。
わたしは車椅子で、ラシャドの後を追い掛けなかった。
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