第17話 頼むてっちん、出来るだけ急いでくれると助かる……っ!

 とある休み時間のこと。


「あ、てっちんー」

「どうした彩人ー」

「一緒にトイレいこーぜー」

「いやダメだろ」


 少し内股になってくいくい俺の袖を引っ張ってくる彩人に俺がそう返すと、びっくりした表情を返す彩人。


「なんか用事でもあんのかてっちん?」

「用事云々の前に俺は女子トイレには行けん」

「何言って……あぁ」

「そうだ。分かってくれたか」


 状況を理解した彩人は俺を連れたって教室を出る……いやなんで結局俺同伴なんだよ。


「いや……オレまだ女子トイレに入る勇気ない……」

「今までどうしてたんだよ……」

「テストだったり入学式だったりで、昼で直帰だったろ? 必要なかったんだよ」

「で、普通の授業になってから問題が起こったと」


 涙目になりながらコクコクと俺に頷いてくる彩人。どこか人目のつかないところで……あぁ、彩人が目立ちやすすぎて人目がなくならない!


「どっ、どうしよてっちん」

「ちょっと待て彩人! なっ、なんか考える」

「頼むてっちん、出来るだけ急いでくれると助かる……っ!」


 割とギリギリな状況らしい。男子トイレに突撃――は流石に人目が有り過ぎるし、人目のつかないトイレまで行くにはあまりにも遠すぎる!

 ど、どうすれば……はっ!


「彩人、職員室横のバリアフリートイレだ。あそこなら……」

「男女共用だもんなあそこっ、早く……んくっ、行こうぜ……っ」

「行けるか?」

「ギ、ギリ……かも……」


 出来るだけ自然に歩きつつ、職員室横のトイレに付いた瞬間に彩人を放り込む。次の授業までの10分しかねぇ休憩時間に、わざわざここまで来るのは流石に疲れた。

 だが、この高校で男女共用でのトイレはここ一つだけ。ここが先に使われていたり故障してたりしてたらどこに行けばいいのだろうか?


「これはもう……相談だな」

「ふぅ~、間に合ったぜ……どしたてっちん?」

「今後のために古堅先生に相談しないとなーって」

「あー……でも信じる?」


 彩人のその言葉に俺は少し考えた後、ニヤリと笑う。


「『男が女になっちまった理由を考えるのもめんどくせぇ』で案外受け入れるかもよ?」

「ありそう。昼飯の時間にでも職員室行ってみるか」

「おう」


 教室に戻りながら今後の学校生活を快適に送るために何かいい方法が無いか話し合う。いきなり男から女の子になるって、意外と不便なところが多いんだよなぁ……



「あー、つまり。伊達は元々男で、今は女だから女子トイレや女子更衣室を使うのが恥ずかしいってことか?」

「……はい」

「んだそれ……まぁ男が女になっちまった理由を考えるのもめんどくせぇから一旦そこは飲み込むとして。扱い的には『女性の身体でありながら心が男のトランスジェンダー』っつー分類でいいな」

「ぶふっ……すみません」


 古堅先生の言葉に俺たちは思わず吹き出してしまう。昼休み、昼食もそこそこに職員室に向かった俺たちは先生に彩人のことを相談すると、予想していた言葉が一言一句そのまま古堅先生の口から飛び出してきたもんだから、あまりのおかしさに笑ってしまった。


「なんだ天童? 何がおかしい、怒らないから言ってみろ。返答次第ではお前だけ次の授業で集中砲火してやるが」

「怒ってるじゃないですか! いや、彩人と話してるときに先生の言いそうなことを予想してたら全く同じこと言ったのでつい……なぁ?」

「あぁ、てっちんが予想したセリフと一言一句同じでしたよ先生」

「なんだそれ」


 呆れながら古堅先生は俺たちの方にコーヒー片手に向き直る。椅子に座って飲みながら俺たちに話し始めた。


「まず、伊達1人のために学校の設備やルールを変えることは難しいのは分かってくれ。今のご時世トランスジェンダーに対しての理解や配慮は進んでいるが、それでもトランスジェンダー自体が少数派な存在のために大多数の普通の生徒たちをないがしろにすることはできない」

「確かに。中学生のころに保健で学びましたけど、『性的マイノリティー』って呼びますもんね」

「まいのりてぃー?」

「少数派って意味だぞ彩人」


 横文字に弱い彩人に説明をしつつ、俺は古堅先生の話を聞き続ける。


「現状考えられるのは体育の時間と、トイレ関係か? うちの学校は体育が男女で別だが、書類上では伊達は男子の方に入れられてんな……着替えに関しては、俺の権限で滅多に使わねぇ資料準備室のカギを貸してやる。失くすなよ? めんどくせぇことになるから、俺が」

「あ、そっか。更衣室も使えないもんな彩人」

「サポートは……天童でいっか」

「おい教師、そこは投げやりになるな」


 思わずツッコむと『だってさぁ……』とコーヒーを啜りながらダルそうに古堅先生はため息を吐く。


「現状、伊達のプライベート関係を任せられるやつお前しかいねーし。まだクラス委員も決めてないんだぞ? この問題は待っちゃくれないからな、今一番本人が信頼できるやつに頼むのが早くてめんどくさくない」

「まぁ……他の人と組むぐらいならてっちんと一緒の方がいい……」

「本人もそう言ってるし、やってくれ。というかやれ、他ならぬ友達の頼みだぞ? トイレに関しては職員室横の多目的トイレ――今は『バリアフリートイレ』だったか、それをしばらく使っててくれ。どうしても恥ずかしいのなら授業中に抜け出すのも俺の授業の時は目を瞑っててやる」


 そう言って昼休みの残り時間をチラッと確認した古堅先生は、彩人に向かって質問する。


「問題は体育の授業だ。伊達はどちらで授業を受けたい? 女子に囲まれて授業を受けたくないというのなら、俺から体育担当の先生にお前のことを伝えるだけにしておくが……実際の問題として男女の肉体的な差がある。それを踏まえて考えろ」

「…………やっぱり、女子と一緒に体育の授業を受けるのは違和感がすごいします」

「ん。なら最初は男子の方に混ざっとけ、天童と組めば体育の時間は乗り切れるだろ」

「俺の負担がすごくないっすか?」


 なんとも俺頼りな作戦を古堅先生は妙案とばかりに提案してきたので、ぶーぶー文句言うと古堅先生は彩人に聞こえないように俺に耳を貸すよう言ってきた。

 素直に従うと、先生はニヤリとしたあくどい顔をする。


「良いのか~? 女の子になった伊達が他の男とべたべたしてるのをただ見てるだけで?」

「…………べつに」

「おいおい素直になれよ、ただの友達のためにここまで協力する人はそんないない。体育の時間中、ずっと伊達と一緒にいれるんだぞ? 役得じゃねえか」

「……協力はしますけど、そーゆー考えは一切ないですからね」


 よし、と古堅先生は頷いて満足げにコーヒーを飲み干す。こんのエロ教師め……思わず想像して顔が熱くなったじゃないか。


「どうしたんだてっちん……?」

「だ、大丈夫だ! ちゃんとサポートしてやるから!」

「それなら安心だな!」

「まぁ、そうはいっても授業は授業だ。もしついていけないとか辛いとかあったらいつでも女子の方に変えれるようにはしておく……っと、資料準備室の鍵だ」


 銀色の鍵を引き出しから取り出した古堅先生は、彩人の方に放り投げた。慌ててキャッチした彩人に、『失くすなよ?』と念押しした先生は俺たちを職員室から追い出すのだった。


「まだ昼休み残ってるから、教室の連中どもと親交深めとけ」

「「はーい」」


――――――――――――――――――

【後書き】


 連続での後書き申し訳ございません!

 じつは用事で忙しくなるので毎日投稿が出来なくなります……週1でも投稿、出来たらいいなぁとは思ってるんですけど、ここは一旦不定期ということにさせてください!


もし週1でも投稿出来るのなら毎週日曜日に更新しようとは思ってます。明日は無いけどね!

 ここから盛り上がるというのに申し訳ございません!ご理解いただけると幸いです。

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