第8話 素敵なお子さんですよてっちんくんは
「うちの子をこれからよろしくお願いします」
「あーいえいえ、こちらこそ――」
「先生! うちの子もどうぞよろしく――」
LHRが終わり、古堅先生が保護者の人たちに囲まれているのを遠目に見ながら俺たちは家族の元に向かう。
あの後、割れんばかりの拍手が教室に鳴り響き何人かの保護者は化粧が崩れることも
そういう俺たち生徒も、内心親に対して思っていた「自分の好きにやらせてくれよ」という不満を代弁してくれた先生に拍手喝采だ。
自分の親だからこそ言いにくいことってあるよね。
「ただいま親父、オカン、小鐘」
「ガチガチに緊張してたおにぃ、マジ笑えた」
「うるせっ! しらけずに自己紹介終えれたんだから良いんだよ」
「哲俊、後で校門で写真撮ろうな」
デジカメ片手に親父がわくわくしながら俺にそう言っている横で、オカンが彩人のお母さんと彩人と話している。
「彩人君……よね?」
「は、はい」
「いやどう見ても女の子よね……実は女の子だったりした?」
「それがね
彩人のお母さんがオカンに説明しているのを眺めながら、そそっと彩人の方に近づく。
「てっちん……」
「そんな心配そうな顔すんなって。うちのオカン、大抵のことは『まぁいいんじゃない?』で受け入れるタイプだし」
「こら哲俊、そんなお母さんをお気楽主義みたいに言うんじゃありませんっ。まぁ『良いんじゃない?』って言おうとはしてたけど」
「言おうとしてたのなら、もうそれはお気楽主義だよオカン……ほらな?」
呆れながら笑って彩人の方を見ると、彩人もほっとしたように笑い返した。そしてオカンの方に一歩前に出る。
「あの、由里おばさん」
「ん? なぁに彩人君?」
「オレ……これからも、てっちん家にお邪魔しても良い……で、しょうか?」
「何不安な顔してるのよ、良いに決まってるじゃない。彩人君は彩人君なんでしょ? ねぇ哲俊」
オカンが俺の方を向いて同意を求めてきたので素直に頷く。彩人は彩人だ、性格も考え方も変わってない。
「ね? 哲俊がそう言うならお母さんは何も言わないわ。古堅先生も言ってらっしゃったでしょ? 『自主性を重んじろ』って」
「由里おばさん……っ!」
「いつでもいらっしゃいな。さ、無駄話してないで早く校門に行くわよみんな! 朝よりは混んでないとは思うけど、ボーっとしてたら並ぶ羽目になるわ!」
「そうだなオカン。彩人! 先に行って並んでおこうぜ!」
彩人の手を引いて、昇降口に向かう俺。彩人はいきなりのことに驚いていたが、すぐに笑顔になって『あぁっ!』と手をつないだままついてくる。
……彩人の手がすべすべで柔らかかったことに、内心ドキドキしたのは秘密だ。
◇◆◇
「……ありがとうございます由里さん~」
「いえいえ、愚息が迷惑をかけてなければ良かったです」
哲俊と彩人が出ていった扉の方を見ながら、彩人の母親は
哲俊の父親と小鐘が哲俊たちを追いかけるように急いで出ていったので、彼女たちも廊下に出て彼らを追うようにゆっくりと歩きはじめた。
その中で、彩人の母親は微笑みながら由里さんに話しかける。
「彩人ったらね~? 毎日のように、『てっちんがね』『てっちんがさ~』って嬉しそうに学校のことを話すんですよ~」
「あら、うちの哲俊もそんな感じですよ」
「うふふ~、ホント仲いいですよね彩人とてっちんくん……そんな彩人が女の子になった時、なんて言ったと思います?」
そんな彩人の母親の問いに由里さんが首をかしげると、おかしそうに手で口を隠しながら彩人の母親は言った。
「『てっちんに自分が誰か分かってもらえるか分かんないから会いたくない』って泣きついて来たんです。それなのに実際に会って帰ってきたら、『てっちんオレのこと大好きすぎかよ』ってニマニマしながら嬉しそうに話すもので……ふふっ、おかしいですよね~?」
「あら、そんなことが。哲俊ったら『いきなり彩人に呼ばれた』って出て行って、帰ってきたら『いつもの彩人だった』とだけ言ってましたので」
「……彩人は髪や目のせいで周りから遠ざけられてきましたから、それを気にせずに付き合ってくれているてっちんくんの存在が息子の中で大きいんだと思います」
『分かってもらえないのが怖くなってしまうぐらいに』と、少し寂しげな眼をしながら窓から見える校庭を覗く彼女。由里さんも釣られるように窓の外を見ると、すぐに校門近くにいる彩人の白い頭を見つけた。
「あ、今は娘でしたね」
「その……
「そりゃあ驚きましたよ~! ……でも、私たちは彩人が生まれてきたときに決めてましたから。白い髪や赤い目を持つ息子を見て、『何があっても受け入れて支えていこう』って~」
「……お強いですね」
由里さんがそう言うと、ぜんぜんそんなことないですよぉ~と遠慮がちに手を横に振る
「私たちの考えが甘かっただけですよ~……小学校に上がってしばらくしたころ、『学校に行きたくない』って彩人が布団を頭から被って部屋から出てこない時がありましてね」
「あぁ……それは」
「えぇ、いじめです。彩人の白い髪や赤い目が気持ち悪い――そんなことを言われて傷ついた彩人がふさぎ込んでいるのを見て、『もっと普通に生んであげていたら』~なんて連日私も泣いていました」
そんなときに、息子がある日『友達のところにマンガ読みに行ってくる!』って元気に言ってきたんですよ、と暗くしていた表情をパッと明るいものに変えて彼女は嬉しそうに由里さんに笑う。
「学校に行きたくない~って言ってた彩人が、『てっちんと一緒なら』って毎日学校に行くようになって。帰ってきては『今日てっちんとこんなことして~』って嬉しそうに学校のことを話すんですよ~……大人じゃなかなか気が付かなかったことを、てっちんくんが動いてくれて」
「いえいえ……うちの愚息がお役に立てたのなら良かったです」
「素敵なお子さんですよてっちんくんは。だから今日こうして、変わらず彩人とてっちんくんが仲良くしているのが見れて良かったです~。息子は娘になっちゃいましたけど、変わらず『親友』のままでいてくれてるな~って」
「どうでしょう? うちの息子抜けてるとこありますから、もしかしたら女の子になったことすら気が付いてないかもしれませんよ?」
おどけたように由里さんがそう言うと、ふふふっ……とおかしそうに身体をくの字に曲げながらお腹を抱える霞さん。
笑い過ぎて涙目になった彼女は指で目を軽くこすりながら、由里さんに言った。
「これからも、うちの彩人をよろしくお願いします~」
「それはもうこっちのセリフですよ……うちの哲俊はそそっかしいので、彩人くんにはこれからも見てもらわないと」
「ふふっ……さ、行きましょうか」
「えぇ、落ち着きのない哲俊を待たせたら変な注目を浴びてしまいそうですし」
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