第37話 光

 グリナドールを倒したことで全ての権能が揃った……まぁ、イザベラの権能は俺が簒奪した訳じゃないので、全部が完璧に揃った訳じゃないけど、とにかく創世神が俺に期待していた力を集合させる役割に関してはなんとかできたと言えるだろう。


「それで、何をすればいいんだ?」

「さぁ?」

「イザベラも知らないのかよ」

「妾が知っている訳ないだろう。そもそも、妾はどちらかと言えばお前に殺される立場なんだから」

「……普通に、世界を安定させるために権能を使うとかじゃないのか?」


 エレナさんに言われた通り、俺の中にある風、闘争、生命、運命、そして与えられた不滅の権能を発動してみるが……特になにか世界が変わったようにも思えない。しかし、俺が5つの権能を同時に発動したことで、イザベラがエレナさんと瑞樹さんを抱えて大きく距離をとっていた。


「お前なぁ……人間がそんな権能を同時に発動されて、近くにいて生きていられる訳がないだろ!」

「……そう、なのか?」

「まぁ……すまない」

「わ、私は裕太郎さんのことを怖がってなんて……」


 イザベラの言葉にエレナさんに目を向けると、彼女は確かにイザベラに助けられた先でへたり込んでいた。瑞樹さんは気合でなんとか立ち上がろうとしていたようだが、俺が視線を向けたらペタンと地面に座り込んだ。

 2つ目の権能を手に入れた時から薄々感づいていたが、なんとなく俺の身体が人間の物ではなくなっている気がするんだよな。権能が複数身体の中にあることに適応しているのか、はたまた創世神が俺の肉体になにかしらの細工をしたのか。


 俺は取り敢えず権能を静めてから3人に近寄ろうと思った直前に、俺の背後に新たに現れた人間を超越した力に向かって風を放った。


「……そう警戒しないでください、私はあのお方の命令通りに貴方に接触しているだけなんですから」


 俺が放った風の刃は、後ろに立っていた女性の髪の毛を揺らすだけで……まともに傷なんて与えていなかった。同時に、その存在が権能を持つ存在……つまり、神であると理解した。

 4柱の神々、つまり俺が戦ってきた生命の神リリヴィア、戦争の神ガンディア、黄金の神イザベラ、星々の神グリナドール……それ以外の神がこの世界には存在している。それは創世神がこの世界を作り出した時に生まれたとされる「闇」と、それに対抗して生み出した「光」である。そして、俺の背後に立っていたこの女は……雰囲気からして間違いなく光の神だろう。


「一つだけ、訂正させてください。私はあくまでも光が具現化した存在であり、神という明確に定義された存在ではないのです。ですから……貴方が私のことを権能を持っていると認識ているのならば、それは改めて欲しいのです」

「そんなに大事? その話」

「はい、とても大切です。私は光の権能を持つ神なのではなく、光そのものなのですから」


 うーむ……わかったようなわからないような。そこら辺の感覚は神じゃないとわからないんじゃないかな。とにかく、この光を名乗る人物が神と言う存在をそれなりに嫌っていることは理解できた。


「それで、何のために俺の前に現れたのか聞いても?」

「貴方が4つの権能を束ねた……正確には完全に束ねた訳ではないようですが」


 光、と名乗った女はちらりとイザベラの方へと視線を向けてから、こちらに向き直った。


「創世神から、権能が束ねてその力を解放した者が現れた時、お前が全てを説明して世界を救えと言われているので、お迎えに来たまでのことです。貴方こそが創世神が送り込んだこの世界を救うための存在であり、実際に権能を束ねた新たな創世神となるべきお方なのですから」

「そのことなんだけど、俺は世界を救いたいだけで創世神になりたい訳じゃないんだ」

「……はい?」


 理解できないって感じの顔をされてしまった。しかし、俺は別に神になりたくて権能を束ねた訳でもないし、みんなに感謝されたくてやっていた訳でもない。俺は、ただエレナさんが住んでいる世界を壊したくなかっただけだし、俺が死にたくなかっただけだ。それ以外に高尚な理由なんてないので、世界さえ安定してしまえばいいので創世神になるつもりなんてさらさらない。


「困りましたね……創世神がいなければ世界は安定しません。たとえ権能を束ねたところで、世界の柱となる創世神がいなければ世界は不安定なままです」

「柱って……それ、4柱の神々が協力して結果的には誰が柱になるかで喧嘩してただけじゃないのか?」

「そう思いますか?」


 そうとしか思えないよ。


「柱、と言っても別に意思が無い訳でもなんの自由も無い訳ではないのですよ? 創世神は趣味でちらちらと下界を眺めていましたが、それに関しては特に問題が起きたことはありませんから」

「でも、世界の安定の為にある程度滅私奉公しなければならないのは事実なんだろ?」

「そうですね」


 なら、この世界そのものが欠陥だな。

 少なくとも、誰かが世界の為に犠牲になって柱とならないといけない世界なんて、存在していること自体が間違っている。


「そんなことを言われても、世界とはそういうものですので。ただ……嫌ならば変革してしまえばいいのです」

「変革するって」

「貴方が創世神になって、世界を創り直してしまえばいいんですよ。と言うか、解決するにはそれ以外にありません」


 なんだよそれ……どっちにしろ、俺が創世神になるしかないじゃないか。


「……妾が代わりになってやろうか?」

「絶対に嫌だ」

「私も反対ですね。貴女のような自らの欲望に穢れた薄汚い力の化身が、この世の柱になるなど考えるだけで恐ろしい」

「あたり強くないか? 妾、お前になにかした覚えはないんだが」

「なにもしてないからだと自覚したらどうですか?」


 それはそう。


「……問題の解決方法は後回しにして、世界を修復する方法を教えてくれ」

「そうですね。まずは、世界を修復するまえに闇を封印する必要があります。忘れてましたよね?」


 はい……最近、神様とばかり戦っていたせいで忘れてました。

 俺の目の前にいる光と対になる闇と言う存在、これを封印しなければ世界を創り直したってなんの解決にもならない。だから、先に闇を封印しなければんらないんだった。


「闇との対決は私にも協力させてください。一応、対になる存在ですので」


 助かるっちゃ助かるんだけど……なんとなく信用しきれないのは何故なんだろうか。

 胡散臭そうな笑顔を浮かべる光を前に、俺は溜息を吐いてしまった。

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