第36話 星を砕く者

 空を舞うグリナドールに対して、スターゲイザーはレーザーと拳を使って対抗している。運命の権能による応用なのか、グリナドールは何度吹き飛ばされても大したダメージもなくひたすらにスターゲイザーに向かって攻撃を続けている。なんというか……自分の魔法から生み出されたモンスターってのが気に入らないのか、とにかく集中的にスターゲイザーを攻撃しているので、すごい執念を感じる。

 エレナさんたちが気になった少し目を離した隙に、グリナドールが一気に俺に近寄ってきてスターゲイザーに殴り飛ばされた。


「ふぅ……」

「あー……もうやめたら?」

「貴方は絶対に許さないわ」


 おぉ……俺に対するヘイト高いな。

 具体的にどうやって俺を攻撃するんだろうと思ったら、頭上から隕石が降ってきた。しかし……今までの数倍の大きさの隕石に、流石に俺も唖然としてしまった。


「スターゲイザー!」


 俺が何かするよりも早くスターゲイザーは、隕石に向かってレーザーを放っていた。圧倒的な熱量から察することができるスターゲイザーの放ったレーザーのエネルギーだが……隕石の一部を破壊することぐらいしかできていない。それでも、スターゲイザーはレーザーを放つことを止めることはなく、自らの身体が熱によって融解し始めてもその威力はどんどんと強くなっていく一方だった。

 そんな足の止まったスターゲイザーを狙って、グリナドールが飛んでくる。スターゲイザーを守るように俺が前に出て、グリナドールの手に握られていた槍を掴む。


「っ!」

「させるかっ!」


 今、スターゲイザーを破壊されてしまうと下にいるエレナさんと瑞樹さんが危ない。イザベラが2人を守ってくれているとは言え、流石のイザベラだってこんな大規模な魔法を相手に無傷でいられるとは思えない。

 そんなことを考えていたら、下から液体金属のように流体で動く金がグリナドールに襲い掛かってきた。


「イザベラ……貴女の魔法でこの私が倒せるとでも?」

「やらなきゃ、妾がやられるからな」


 グリナドールは心底冷たい眼差しでイザベラのことを見つめていたが、イザベラの放った金が隕石に向かっていることを察した瞬間、イザベラを殺そうと加速して……俺と衝突する。


「くっ!?」

「だから、させるかっての!」

「生意気なことを!」


 イザベラは本当にグリナドールと相性が悪いようだが、それでもなんとか懸命にスターゲイザーの手伝いをしてくれているのに、それを邪魔される訳には行かない。槍を手にしたグリナドールの近接戦闘能力がどれくらいか知らないけど、俺だって闘争の権能があるからそんな簡単には負けない。


「ゼフィルス!」

「ちっ!」


 地上からエレナさんが投げてきた剣を手に取り、グリナドールの槍を受け止める。剣に風を纏わせていなかったら、一瞬で砕け散っていたかもしれない……そう思えるほどの威力だったが、権能を持つ者同士がぶつかってそれぐらいで済むなら充分か。

 俺が剣を構えたまま空中を蹴ってグリナドールに向かって近寄ったら、グリナドールは指の動きだけで地上に落ちていた隕石の欠片をこちらに向けて飛ばしてきた。明らかに物理法則を無視したトリッキーな動きをしてこちらを狙ってくる隕石の欠片を、剣から飛ばした風で破壊する。

 これでグリナドールに集中できると思ったのに、煙の中から飛び出してきた石の破片が風の結界に突き刺さった。


「運命の権能だ……そいつは運命の権能を使ってお前に必ず当たるように仕向けているぞ」

「はぁ!? そんなのどうやって避ければっ!?」


 つまり、俺自身の運命は操れないから無機物に宿る運命を利用して動かしているってことか。この場合は、地上に落ちている隕石の欠片が絶対に俺に当たるように仕向けている。いや、そもそも当たるのが運命なのだから、当たるまでの過程は必要ないのか!

 とんだ変態機動で俺のことを追いかけてきていると思ったが、そもそも当たるまで過程がないのだからこういう動きになるってことね。と言うことは、さっきから俺に迫ってくるスピードが異様に速いのも、グリナドールが自分の運命を弄っているからか!

 大きな音がしたので反射的に見上げると、スターゲイザーとイザベラの黄金が隕石を必死に食い止めてくれていた。スターゲイザーは身体がボロボロになりながらも隕石を両手で食い止め、イザベラの黄金は地上との柱のようになっている。


「はぁ!」

「くそっ!」


 俺もあっちになんとか意識を向けたいが、さっきから高速で移動しながら迫ってくるグリナドールの相手で精一杯だ。イザベラはエレナさんと瑞樹さんを守っているから動けないし……生命の権能で今からなにかを生み出しても、時間もパワーも足りないはず。


「すまない、スターゲイザー!」


 生命の権能を発動して、スターゲイザーの命を暴走させる。両手で隕石を支えていたスターゲイザーが、片手を離して……巨大隕石に向かって拳を叩きつける。同時に、俺の生命の権能によって暴走させられた生命力を注ぎ込んで……隕石と共に爆散した。


「なっ!?」


 隕石の爆発を見て動揺したグリナドールの隙をつき、胸に剣を突き立てる。ずぶりと、身体を貫通したエレナさんの剣を見て、グリナドールは信じられないと言わんばかりの顔をしてから……地に落ちていった。


「勝った、のか?」


 なんというか……リリヴィアの時はかなりの長期戦になったし、グリナドールとの戦いはド派手すぎて一瞬だった気がしたな。しかし……初めて作り出した生命にしてはすごいいい出来だったのに……スターゲイザーは跡形もなく吹き飛んでしまった。


「あっさりと倒したな、ゼフィルス」

「まぁ……そう、かも?」


 なんとなく、俺の中でも釈然としない感じがあるのだが……確かに俺の中にはグリナドールの持っていた運命の権能が引き継がれている。最初の時のように、権能が増えたことによる反動とかは全くなくなったのだが……これで、イザベラの力を合わせて全ての権能が揃ったことになる。

 地上に降りてからエレナさんに剣を返し……グリナドールの死体に目を向ける。


「グリナドールは、結局何がしたかったんだ?」

「さぁな。ただ、あいつも結局はただ自分が可愛かっただけだと思うぞ……次の創世神であるゼフィルスは、最初から後継者をこいつだって決めておいてもらわないと困るな」


 次の創世神、ね。

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