第34話 再戦

「あれが、以前にゼフィルスが襲われたって村か?」

「あぁ……酷いもんだけどな」


 リリヴィアの神域から大分歩いて、グリナドールと出会った村までやってきたのだが……俺とグリナドールが戦った影響で、周囲はとんでもないことになっていた。


「隕石か……妾、あいつの魔法だけは理解できないからな」

「俺だって意味わからなかったよ。でも、星々の神なんだから仕方ないだろ?」

「それで全部済ませられると思うのか? あれはそもそも魔法じゃないと、私は思うんだが」


 俺とイザベラの会話を聞いて、エレナさんはすごい呆れた感じで割って入ってきた。

 まぁ……この世界にやってきて魔法はそれなりの数を見てきたけど、あんなにぶっ飛んだ魔法を使う奴は他に見たことがないな。イザベラの黄金を操る魔法だって、操るんだなーぐらいなもんだし。


 くだらないことを言いながら滅茶苦茶ボコボコに消し飛んでいる村の中に入ると、星守の死体がそこら辺に散らばっている。確かに、グリナドールと戦っている最中にそれなりの数の星守を吹き飛ばした気はするが……これは、明らかに俺たちがいなくなった後に殺されている。


「グリナドールに殺されたな。お前たちを逃がしたから、その腹いせだろう」

「酷い……どうして、そのグリナドールはこんなことを?」

「さぁな……あいつの考えは妾もよくわからん」


 こいつ、さっきからよくわからんしか言ってないだろ。

 瑞樹さんは敵だった星守の死体を見て、なんとなく可哀そうだと思ったのか小さく手を合わせていた。元々は人間だった訳だし、流石に酷すぎるよな。


「リリヴィアは自らが生み出した……なんだっけ?」

「森の守護者?」

「そうそう、森の守護者。あれは有能な奴は有能だから傍に置いておこうぐらいの感覚だったと思うが、グリナドールは多分、星守のことを有能とか無能とか、そんな区分で考えていないぞ。生きているか死んでいるか、ただの数で見ている」


 運命の神だから、基本的に大局的で人間の情なんてないって感じなのかな。それにしては、俺と戦った時はかなり感情的だったと思うけど。


「エレナさん、エクストーンってどんな場所なんですか?」

「エクストーンか……常に夜で、星が瞬いていると言うことしか知らないんだが、それはどちらかと言えばエクストーンだからと言う訳ではなく、グリナドールがいるからだと思う」

「そう言えば、グリナドールが現れた時は夜になってましたね」


 夜にするような魔法でも使っているのか、それとも星々の神と言う名前の通りやってくれば強制的に夜になってしまうのか。どっちにしろ、グリナドールが弱体化することはなさそうだから困るんだけどね。

 以前のように、村の中を歩いていてもグリナドールが襲ってくることはないようだが……肌に纏わりつくような不快感がある。なんというか、見られているような感覚だ。


「グリナドールは、俺たちがここまで来ていることに気が付いていますかね」

「十中八九、気が付いているだろうな。そもそも、ここは端の方とは言えグリナドールの領域内なのだからな……リリヴィアのように狭い範囲を自らの領域としている訳ではないから、領域に内にいるからと言ってもリリヴィアの再生能力のような理不尽な効果はないと思うが、神の領域内でその神と戦うなんて普通に考えて自殺行為だぞ?」

「そんなこと言われても、俺はガンディアもリリヴィアも領域内で戦闘してましたし」


 そもそも、神々は領域から出ることで自分が弱体化するのを嫌うんだから、こっちから戦闘を仕掛けるんだったら領域内しかないでしょ。


「とは言えなぁ……リリヴィアは妾の権能が相性良かったからいいが、真正面から戦うのはお勧めしないぞ?」

「それでもいかなければならないから、私たちは戦っている」

「裕太郎さんなら大丈夫ですよ」

「そうは言ってもなぁ……勿論、妾だってついていくが」


 仕方ないことだからって割り切るしかないな。

 それにしても……グリナドールは以前、あんなに好戦的だったのに今回は全然だな。やっぱり、俺が3つの権能を完全な形で保有しているから、向こうも慎重になっているのだろうか。イザベラだっている訳だしな。

 今日は取り敢えずこの村跡で夜を過ごそうって言おうと思ったら、夜の空に急に星々が輝きだした。同時に、俺とイザベラは権能を発動してエレナさんと瑞樹さんを守る。


「私のことを、侮っているわね。脳筋の馬鹿と慢心したアホを殺したぐらいで……随分と見くびられたもね」

「……そっちから出て来るなんて思ってなかったよ、グリナドール」


 夜空から降臨した星々の神グリナドールの権能は、明らかに俺とイザベラの背後にいたエレナさんと瑞樹さんを狙っていた。2人は俺の権能を分け与えられた眷属な訳だから、ある程度は神の権能に対抗することもできるが、積極的に狙われるとやはり厳しいものがある。しかし、今回は俺とイザベラの反応が早かったので特に問題はない。


「随分な挨拶じゃないかグリナドール、妾のことを無視してゼフィルスに一直線か?」

「3つの権能を持ち、今度は私の「運命」の権能を狙おうとするなんて……やはり貴方は異世界からやってきた本物の簒奪者。生かしておくなんて、できる訳がないわ」

「無視してんじゃねーぞこらぁ!」


 イザベラ、うるさい。

 リリヴィアは簡単な挑発に乗ってくれるかもしれないけど、グリナドールはくだらない挑発には乗らないんだから黙ってろ。グリナドールを挑発するなら、もっと図星をついてやらないと駄目だろう。


「俺が権能3つ持ってるから、慎重になって出てこないと思ってたよ。権能を奪うことが目的の俺たちからすれば、逃げられたらどうしようもないからな」

「そうね。私もそうしようかと思っていたのだけれど……貴方如きに私が色々と考えるのが馬鹿らしくなってきたのよ」

「エクストーンで戦っても勝てないのがわかったから、命乞いでもしに来たのかと思った。だから、エレナさんと瑞樹さんから狙ったんだろ? 勝てそうな相手にはしっかりと威張らないといけないから神ってのも大変──」

「死ね」


 おっと、想像よりも沸点が低いぞ。

 隕石と共に、空からレーザーが飛んでくる。相も変わらず意味の分からない魔法だが……以前の権能を使い慣れていない俺とは違うって所を見せてやろう。

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