第33話 生命力
俺が新たに得た権能は万物が逃れることのできぬ世界の定め、生命に対する絶対的な権限である。
ガンディアから簒奪した闘争の権能と同じように、リリヴィアとは違って俺の身体がそれ専用に作られている訳ではないので、彼女みたいになんでもかんでもできる便利な力ってことはないだろうけど……それでも、圧倒的な力であることには変わりない。
試しに発動した生命の権能で、地面から小さな芽を生えさせて……そこから大きな木になるまで成長させる。ズドドド、という音と共に俺の隣にはあっという間に大木が生え……そのまま枯れていく。生命の権能によって一気に成長して、寿命を迎えたことで枯れ始めたのだ。
「これで権能が3つ。圧倒的なまでの、生物としての格を手に入れた……いいや、もはや権能は生物が持っていいそれではないと考えると、既に神としての存在も怪しくなってくるところだ」
その様子をずっと見ていたイザベラからは、呆れられた。
「そんなこと言ったら、創世神はどうなるんですか? あれだって世界を生み出し、神々を生み出したとんでもない存在ですが、キッチリと滅んだじゃないですか」
「そうだな……だが、
果たしてそうだろうか。
確かに、力が分散した先で喧嘩するなんて明らかな失敗に思えるが……実はそれすらも計算通りだったとしたらどうだろう。自分で生み出した存在だ……なんにも理解していないなんてことはないだろう。
もし、神々が仲間割れして世界が危機に陥り、自分が消えることすらも想定内だったとしたら……なにが目的になるのだろうか。それは恐らく、俺という存在に創世神の後釜をさせることが、目的となる。つまり……創世神は自ら望んでその椅子を捨てたことになる。
ま、あくまでも全てが計算通りだった場合の仮定でしかないけど。
「小難しい話はいいが……次のグリナドールで最後か?」
エレナさんが俺とイザベラの話に割って入った。
まぁ、エレナさんからすれば、この世界を作った存在の話なんてどうでもいいよな。要は、世界がこのまま消滅するのか、安定して生き残るのかの違いしかないんだから。権能を持って生きてしまっている俺やイザベラからすると、世界の主とかに対してどうしても話が逸れてしまうのだが……エレナさんのようにこの世界に生きている人にとって大事なのは、世界が存続するかどうかでしかない。恐らく、瑞樹さんにとってもそれは同じだ。
世界を存続させるために必要な権能の力、その最後は星々の神グリナドールの持つ、運命の権能。星々を操り、他人の運命を平然と操る能力だが……俺はそれ以上に、平然と自分の利益になるかって理由だけで、人間の運命を好き勝手に捻じ曲げてしまえるグリナドールの精神性の方が恐ろしい。
イザベラはそこら辺の歪みはあれど、そこそこ常識的な人間に近しい感性を持っているが、グリナドールにはそれがない。
ガンディアは戦争の神として人間の闘争本能や争い合う醜さを理解していたし、リリヴィアは無情にに利用していただけだが、生命に対する想いは存在していた。しかし……グリナドールは全く別だ。他人の運命は、所詮自分が操れるもの程度にしか感じ取っていない。あの歪みが、俺は恐ろしい。だが、同時に他人の人生を平気で歪めてしまえるグリナドールに怒りを抱いてもいる。
「星々の神グリナドールは確かに危険な相手だけど、ここまで来れたなら大丈夫。絶対に勝って……権能を手に入れる。そうしたら世界はもう安定したも同然だ……イザベラが裏切らなければ」
「信用無いな、妾」
それは、今までの神々の行いを振り返ってもらえばいい。
少なくとも、俺は神に生まれた存在な時点で、イザベラのことを100%信用することはできなくなっている。勿論、リリヴィアと共に戦ってくれたことに対して感謝しているし、そのおかげで俺もある程度はイザベラのことを信用しているが……残念ながら背中を任せることができないぐらいにはあやしくも思っている。
「まぁ、もしゼフィルスが運命の権能を得て、妾が協力しても世界が安定できなかったら……権能の奪い合いでもするといいかもしれないな」
「勝てると思ってる?」
「いいや? 流石に権能を4つ、5つ持っている相手に勝てると思うほど愚かではないぞ」
だよね。俺だってイザベラがそんな数の権能を持っている相手だとしたら、絶対に戦いたくないし。
生命の権能を発動して、俺の身体に残っていた細かな傷を治していく。リリヴィアから直接攻撃によってつけられた傷はないが、地面を転がったりするとどうしても身体に掠り傷ができるから……それを治す。ついでに、エレナさんの身体についた傷も治していく。
急に魔力を向けられてびっくりしていたが、自分の傷が消えているのを見ると今度はちょっと恐怖の入った目を向けられた。まぁ、俺のやっていることは人間離れしたことではあるけど、怖がられるのはちょっと落ち込むと言うか。
「あ、ありがとう……そんな便利な使い方できるのか?」
「まぁ……ちょっと生命力を盛るだけですから」
リリヴィアは、周囲の生命を少しずつ吸収することで急速に回復していたみたいだけど、別にゆっくり回復させるんだったら本人の生命力を少しだけ盛ってやればいい。本来なら、そこに元々存在しなかったエネルギーを生み出すのは相当苦労すると思うが……権能ならそれが簡単にできてしまう。神の力ってのは、よくも悪くも理不尽なものだ。
「……さて、ならさっさとグリナドールのいるエクストーンまで行くか?」
「えぇ……流石に激戦だったので休ませてくださいよ。近くに街があるのは知っているので、そこで休んでいきましょう」
流石に、神と戦った直後に長距離を移動するのは疲れるので、もう少しだけ休憩させてほしい。
「金は?」
「……ない、ですね」
エレナさんに痛いところを突かれたので、ちらっと財布を預けていた瑞樹さんに視線を向けたが……苦笑いでないことを告げられた。
「仕方ないな、私が今回は奢ってやろう」
「どうやって……今、金を作っただろ!」
何が奢ってやろうだ! 自分だって持ってなかったのを作っただけじゃねーか!
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