第32話 新たな権能
周囲の地面から植物が大量に生えてきて、襲い掛かってくる。生命の権能を使って周囲の植物を操っているのだろうが、俺が展開している風に阻まれているので今は脅威ではない。ただ、俺がどれだけ権能という最強の力を手にしたとしても、生命という輪廻から逃れられない命なことには変わりがないので、危険な相手であることは間違いない。
森の中にいた時はひたすらに矢を撃ってきたものだが、今はそれを控えて植物でちまちまとした攻撃を重ねている。やはり、神域の中にいた時は魔力が無限に回復していたのだろうが、今になって魔力を節約し始めたのだろう。
「死になさい!」
隙間を狙って重そうな一撃となる矢を放ってきてはいるのだが、あんまり近寄ってくる様子はない。やっぱり、あくまでも俺に接近するのは危険だって判断なのだろうか。飛んできた矢は普通に風で逸らして、闘争の権能によって引き上げられた身体能力にものを言わせて一気に接近して風の刃を手に取ってみるが、ものすごい勢いで逃げていった。
うーむ……なにかしらの方法で、リリヴィアの動きを止めない限りは無理か?
「……妾に期待の視線を向けるな。援護が欲しければもう少し待っていろ」
イザベラはリリヴィアを外に放り出したことで完全にすっからかんみたいだし、エレナさんと瑞樹さんはこの戦いに入り込むことができないと思うから、俺がなんとかするしかないか。とは言え、俺の持っている風の権能に、ガンディアから簒奪した闘争の権能、そしてイザベラから分け与えて貰った不滅の権能。リリヴィアの動きを止める手段は……あんまり思いつかない。
次々と襲い掛かってくる植物を避けながら、色々と手段を考えてみるが……そこまで器用なことができるような方法なんて思いつかない。
「仕方ないか」
「っ!」
風の権能を一気に解放して、爆発を起こす。俺の権能に反応して一気に距離を取りながら逃げ出したリリヴィアを追いかけるように、風の弾丸を幾つか放ってから……俺はエレナさんと瑞樹さんの前に降り立つ。
「手伝ってもらっていいですか?」
「……なにをすればいい? 正直、役に立てると思えないが」
「ちょっとの間でいいんです。動きを止める方法を考えて欲しくて……追い込む方法はあるので、罠みたいな形でも全然大丈夫です」
「罠、か……わかった」
助かる。
リリヴィアは今、とにかく俺が力を解放したら逃げる。解放していなかったら適当に遠くから攻撃して俺の時間切れを狙っている。もしくは、イザベラを突破してなんとか神域の中に戻れないかとも考えているだろう。だから……追い込むことは簡単だ。
エレナさんに簡潔に追い込む方法を伝えてから、俺は再びリリヴィアに向かって風を放ちながら接近する。
「私のことを、逃げていると思っていますね?」
「だとしたら?」
「不敬な……私を生命の神と知りながら、そんな不遜な態度をとっているのですか?」
こいつ、そればっかりだな。
事実として、リリヴィアはひたすらに俺から逃げている訳だが……なんでそこを認めたがらないのか、不思議でしょうがない。
不可視の刃を片手に俺は空を飛ぶリリヴィアを追いかけると、当然のようにリリヴィアは後ろに移動しながら俺に矢をちまちまと放ってくる。放ってくると言っても、牽制のために2、3発当たらないようなものを放ってくるだけだ。
これだけずっと逃げられていると、馬鹿でもその法則性というか……癖と言うものが見えてくる。まず、俺が風の権能を発動すると、遠距離からの攻撃を警戒しながら矢を放ってくる。そして、闘争の権能を発動すると、近距離からの攻撃を警戒しながら一気に距離を取って逃げようとする。同時に発動すると、矢を放ちながらかなりの距離を逃げる。
共通してある程度の距離を逃げるのだが……必ず、神域の方に逃げようとする。神域から離れるように逃げようとすると、ある程度の距離で止まってこちらを攻撃しながら高度を上げて頭を越し、必ず神域を背中にしようとする。
この神域を背中にするという特性……これがわかれば、はっきり言って追い込むのは楽だ。
「このっ!」
「……さて」
足元から植物の蔓が生えてきてこちらを狙ってくるが、それを風の刃で切り裂いてから構えを見せると、遠距離攻撃を気にして一気に背後に逃げる。それを追いかけるように闘争の権能も同時に発動すれば、更に距離を取ろうと逃げていき……途中でイザベラの存在に気が付いて横に逸れる。
「がっ!?」
イザベラと俺に挟み撃ちにされるのを嫌って、横に逃げたところで……エレナさんが仕掛けたのであろう鎖のような魔法が伸びてきて、リリヴィアの身体を貫いた。
少しだけ動きを止めてくれって言ったんだけど……ちょと殺意が高い魔法使ってきたな。多分、リリヴィア的にはあの程度の傷、神域から出たとしてもすぐに治るんだろうけど、鎖によって身体を貫通されながら動きを止められたのは致命的なはず。その証拠に、動きが止まって俺が近づいてくることで顔が焦っている。
「来るなぁっ!」
「……お前相手なら、悪いとも思わないな」
放たれた生命の権能を俺の中に追加された不滅の権能で相殺しながら、風の刃で首を貫く。大量の血が流れ出て、苦痛に顔を歪めたリリヴィアが手を動かして俺を攻撃しようとしたので、追加で腕を握りつぶしてから手刀で腹を刺し貫く。闘争の権能がなかったらこんなことはできなかったと思うが……どちらにせよ、これでリリヴィアは終わりだ。
「ふー……やっと終わったか。魔力もかなり消耗して本当に辛かったんだがな」
「……まぁ、なんだかんだ助けられたよ、イザベラ」
「だろう? 妾のこと、少しは信用できるようになったか?」
「言葉よりはね」
一緒に戦ってくれたからもう絶対に仲間だ、なんて言えないが……少なくとも俺を後ろから刺してくるんじゃないかってことは心配しなくてよさそうだ。
地面に転がっていたリリヴィアの死体がゆっくりと消えていくのと同時に、俺の身体の中に力が流れて込んでくる。リリヴィアを弑逆したことで、その権能である生命の力が流れ込んできている訳だ。これで、俺の身体の中には風、闘争、生命の権能が十全な力で残っていることになる。
人間らしくなくなってきてしまったが……まぁ、惚れた女の世界を守るためだから、仕方ないか。
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