第30話 生命

 リリヴィアの腕が飛び、即座に再生する。リリヴィアの腹が抉れ、即座に再生する。リリヴィアの下半身が消し飛び、即座に再生する。リリヴィアの胸に穴が開き、即座に再生する。


「無限にやるのかよこれをっ!」

「それ以外に方法は知らないっ! 再生する前に押し切るしかあるまい!」

「無駄なことを……生命ある限り私に逆らうことがどれほど愚かなことか、その身で存分に味わうことですね」


 いや、滅茶苦茶ドヤ顔でそんなこと言ってるけど、2対1でボコボコにされているのに再生しているだけだからね。そこでドヤ顔して格好良く決めるのはちがうんじゃないかなって思うんだけど……リリヴィアとしてはそこは格好いい場面なのか、平然とドヤ顔のまま弓矢を連射してきた。

 生命の権能はイザベラの持つ不滅の権能で相殺しているから問題ないが、無限の如く降り注いでくる矢は厄介だな。こちらも風によって生み出された不可視の弓矢で応戦しているが、リリヴィアの方がやや優勢……まぁ、矢に関してだけで言えば。

 イザベラも当然ながら権能を放ちながら最低限のことはしてくれているので、やはり戦いはこっちが有利に進んでいるんだけど……どうにも決着がつかない。


「なんか……再生不可能な部位とか?」

「知らないな。妾が以前に戦っときは、頭を5回ぐらい吹き飛ばしてもいつの間にか生えていたな」

「それ、もう不死身なんじゃないか?」

「あほ、そんなこと言ったら妾の持つ不滅の権能の方が不死身に近いだろ」

「じゃあ、イザベラは不死身なのか?」

「いやぁ?」

「なら勝てるな」


 頭悪いことを言っている自覚はある。しかし、神と神の戦いはこれくらい、概念の押し付け合いみたいな千日手になるのはわかりきっていたことだ。ガンディアのように油断してくれたりすればまだなんとかなるのだが、リリヴィアみたいにこうも逃げに徹されるとどうしようもない。ただ、死ぬなら勝てる、死なないなら勝てない、それだけのことだ。


「1つだけ、方法はあるぞ」

「なにが?」

「このリリヴィアの神域から、奴を引きずり出す」

「……そうすると、あの不死身の身体もなんとかなるって? 神域に引きこもっているだけでそんな不死性を獲得できるんだったら、そもそも外に出られないようになってるものじゃないの?」

「リリヴィアの不死性はあくまでも超速再生によるものでしかないのだから、奴にとって有利な場所から引きずり出せれば、何とかなる可能性はある。妾も、ゴルドーナから出て少し身体の動きが鈍いからな」


 そんな感じなんだ……神様ってなんか、適当だな。でも、勝つ可能性があるのならばなんだってやるべきだろう。

 俺が放った矢がリリヴィアの守りを貫通して足を切断する。空中でバランスを失って少しぐらついたリリヴィアに、追撃の矢を放つが全てリリヴィアの放った矢に相殺され、今の数秒で足も再生している。

 あの再生、最初は切断された部位がくっついているぐらいだと思ったのに、今のは明らかに生えていたぞ。マジで気持ち悪いぐらいの生命力……魔獣よりもよほど生物らしくない姿は、はっきり言って異常だ。


 遠くではエレナさんと瑞樹さんが必死になって逃げているのが見える。既に周囲にいた森の守護者たちは、リリヴィアの矢の雨と俺の放つ風で殆どが死に絶えたらしい。リリヴィアからすれば仲間のはずだが……多分、彼女は自らの権能で生み出した生命に対してなんらかの情を抱いていることはないのだろう。そうでなければ、広範囲を攻撃する前に逃がしているはずだ。

 それを知っているからこそ……逃げている最中のエレナさんが、怒りの形相を浮かべているのだろう。彼女は自分がリリヴィアによって騙されたと言っていたが、別にそれを同族である森の守護者たちに強制しようとはしていなかった。それは多分、同族に対する同情心を持っていたからだろう。だからこそ、自分で生み出しておいて平然と切り捨てて駒のように扱う造物主であるリリヴィアが許せない。


「……森の守護者、惜しくないのか?」

「この程度で死ぬのならば、確かに私の調整間違いかもしれないですね」

「そういうこと、ね」

「あー……ゼフィルス、妾たちにその手の情を理解させようとするのが無駄だぞ。そんな情があるのならば、世界の覇権を目当てに姉妹で殺し合ったりしていない」

「創世神の雑な仕事だな」


 これに関しては、創世神が悪いのだろう。実際にあった訳ではないから、世界の滅びを憂いているだけで、創世神も神々に対して情なんて持っていなかったのかもしれない。それなら、神々の非情さにも納得できる……創造主が持っていない感情を、被造物が持っている訳がないのだから。


「悪いけど、かなり腹立ってるから」

「ふむ……貴様は森の守護者たちに命を狙われていたのに、か?」

「理解できません。あれらはまた簡単に作り出せる。そこに情を抱くとは……人間とは何故こうも不完全な生命なのか……」

「お前そのものを叩き壊してやる」


 ちょっと横で意味の分からないことを言ったイザベラにもイラっとしたが、それ以上に自分で想像した生命を「あれ」と呼んで見下す姿に、かなりムカついた。


「自分の都合で生み出しておきながら、役に立たなきゃゴミ扱いかよ」

「それ以外になにがあるのですか? 使えるから慈しみ、使えるから愛し、使えるから大事にされる。使えないゴミなど、慈しむ必要も愛する必要も大切にする必要もない……ゴミはゴミでしかないのです」

「流石にそこまでいくと妾も引くなぁ……生命の神、循環を司るがゆえに情が消えたか」


 森の守護者は、どれだけ敵対したってエレナさんにとっては同種だ。知らない人だったとしても、遠くの戦争で数万人が命を落としたと聞いて、いい気分になる訳ではない。それを……平然と使えないからと切り捨てるこいつは、もはや神とかそういう問題じゃない。


「生命の神リリヴィア、お前が一番、生命を侮辱している」

「生命の神を前にそのような世迷言を……消えなさい」

「おいおい、妾のことも忘れるなよ?」


 2柱の権能と同じだけ、俺の権能の出力を上げていく。神を殺すには……やはり自分の手でないと。

 風の権能と同時に、闘争の権能も最高レベルの状態まで一気に解放する。同時に全ての権能を解放するのは初めてのことだが……こいつだけは、何としても倒す!

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