第28話 生命の神リリヴィア

 リリヴィアの神域が目に見える範囲まで来た訳だが……既になんか殺気がびんびん伝わってくるな。

 ガンディアは俺がこの世界にやってきたことをどうやってか察していたらしいので、権能を持っている者同士はあやふやに感じ取れるのかもしれない。イザベラだって、俺がガンディアを弑逆したことには気が付いていたしな……でも、俺はあんまりわからないぞ。


「……明らかにこちらを意識しているな。リリヴィアは元々臆病な奴だが……ここまで警戒するとは、ずいぶんとやらかしたのか?」

「いや、逃げたことしかないけど」

「なに? なら、よほどガンディアを殺したことが奴の警戒心を上げているな。それか……妾のことを嫌っているかだな」

「なんにせよ、リリヴィアはあの森から出てくることはない……あの森の中にいればリリヴィアは好き勝手出来る訳だからな」


 なんとか外に引きずり出せれば、まだまともな戦い方もできるかもしれないんがだが……かと言って外から森を燃やすとか、そんな簡単なこともできなさそうだ。

 森の守護者に関しては……まぁ、俺とイザベラがいればなんとかなるだろうが、リリヴィアはどうしようか。


「リリヴィアの権能は「生命」という生きている者ならば、誰にも逆らうことができない絶対の力。はっきり言って、真正面から戦うのは危険だと思うが」

「妾の不滅ならなんとか対抗できないこともないが、それをするとそれ以外はなにもできなくなるぞ?」

「まぁ……問答無用で殺されるよりはマシ、なのか?」


 俺は多分、イザベラの力に頼らなくても普通に権能の力だけで対抗できると思うけど……正直それもどこまで信用できるかわからないし、リリヴィアが俺の想像よりも強い神だったら権能で対抗できないかもしれないしな……どうしようか。


「じゃあ、イザベラはリリヴィアの権能を頼む。裏切ったらヤルからな」

「ここまで来て裏切ると思われているのか?」

「当たり前だろ。リリヴィアを味方につけて裏切るかもしれないだろ」


 俺は基本的に瑞樹さんとエレナさんのことしか信用してないからな。少なくとも、イザベラのことは全く信用してないんだよ。神ってだけで全然信用できないんだから……ただでさえ、これから神と戦おうって言うのに。

 まぁ……戦力になるのなら、心強い味方ではあるんだけど……どうも今まで世界をまともに運営してこなかった神ってのが気になるんだよなぁ……そもそも君らに協調性があれば世界ももっとまともで、俺や瑞樹さんがこの世界に来ることもなかったんだからさ。



 警戒しながら森の中に足を踏み入れた瞬間、周囲から魔法と矢が大量に飛んできた。俺が事前に起動していた風のバリアによって全てが横に逸れていく。それを見てなのか、複数の気配が距離を詰めてきたが、それよりも先にエレナさんが動き出していた。


「っ! ハナマスのエレナか!」

「悪いが、通してもらうぞ」

「この裏切り者がっ!」

「私にとってはリリヴィアの方が裏切り者だがな」


 別にリリヴィアはエレナさんのこと裏切ってないと思うけどね……ただ、エレナさんからするとそう思えるってだけの話かな。

 複数人の森の守護者が襲い掛かってくるが、エレナさんは風の権能を使いながらそれを1人で退けている。普通に考えて、同じ森の守護者であるのならばよくても互角ぐらいだと思うんだが……エレナさんはそれを1人で相手にできている。

 森の守護者たちも、その異常な強さに面食らっているのか、積極的に攻めることができずに距離を置いて様子を見ている。


「……権能を、使っているのか?」

「まさか、エレナが神を殺したとでも?」

「違う……その男がエレナに力を与えているのだ!」


 正解。でも、それがわかったところで森の守護者にどうにかする手段はないはずだ。それだけ、神の加護を直接受けた人間というのは強い。

 そのまま進もうかとエレナさんが前に出ようとした瞬間に、俺は瑞樹さんの手を取りながらエレナさんを自分の方へと引き寄せ、イザベラが不滅の権能を開放した。


「……反応がいいですね、イザベラ」

「久しいな、リリヴィア……最後に会ったのは、2000年ぐらい前か?」

「そうですね……貴女と殺し合ったのもそんなにも前ですか」


 森の奥から出てきたリリヴィアの権能……生命を司る権能によって、周囲の植物が簡単に枯れていく。反応してイザベラが権能を発動したことで、俺たちの周囲は無事なままだが……ガンディアのように基礎能力が高い神ではなく、グリナドールのように権能が強力な神って訳だな。


「何故、貴女が来訪者の味方をするのかわかりませんが……その者は神々を弑逆してその力を奪い取ろうとする卑しき賊ですよ?」

「おいおい、それを言ったら世界が消滅するかもしれない状況で放置している妾たちもとんだクソじゃないか」

「……くだらない。世界が滅びるなど、貴女の妄想です」

「だが、創世神は死んだぞ」


 そうだ……世界が滅びるのは妄想なんて言っても、実際に創世神は消えた。ならば世界を安定させる者が必要になってくるはずなのだ……だが、実際に俺が会ってみて思うのは、リリヴィアやグリナドールでは世界の安定ができるなんて思えないということだ。


「いいでしょう……では、ここで貴女とその卑しき来訪者を殺し、その後にグリナドールを殺して私が世界の主となりましょう」

「それは無理だな……お前にそんな器はない」


 イザベラの馬鹿にしたような笑いを聞いて、リリヴィアは一気に威圧感を強めた。それは、挑発に対する怒りであるのと同時に、どの口で言ってんだっていう反論に感じる。

 一瞬で距離を開けたリリヴィアは手の中に弓を出現させて放つ。目で追うこともできない速度で放たれた矢を、イザベラは素手で掴んで笑う。リリヴィアが生命の、イザベラが不滅の権能を開放してぶつかりだした。


「ちょ、ちょっと予定と違いませんかっ!?」

「まぁ……戦ってくれるならなんでもいいんだけどな」


 元々の予定だとイザベラはリリヴィアの権能を相殺することだけに集中してもらって、俺がリリヴィアと戦う予定だったんだが……戦ってくれるならなんでもいいか。

 イザベラがあんなにリリヴィアに突っ込んでいくのは、性格的な相性が悪いのか……それともさっきの会話の中にイザベラの逆鱗となるなにかがあったのか。とりあえず……俺たちは森の守護者を相手にしていればいいか。


 

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