第25話 黄金の神殿
「あれがイザベラ神殿だ」
「自分の名前を神殿につけるとか、恥ずかしくないんですか?」
「妾が付けた名前ではないわっ!」
あ、そうなんだ。ガンディアとかグリナドールとかはそういうことしそうだなって思ったけど、イザベラはしないらしい。
「そもそもなんですけど」
「ん?」
「なんで封印されて権能を奪われるなんてことになるんですか?」
「それはとても深い事情があってだな」
その言い方して本当に深い事情があったの見たことも聞いたこともないんですけど。
「妾はとにかく面倒くさがりで、世界の安寧も神々の争いもどうでもよくてな? ただ黄金を振りまきながら「はいはい神様神様」ってやっておけば生きていけると思っていたら、その適当さ加減にムカついたのか、それとも妾の持っている絶対的な権力と力を欲したのか……人間に反逆されたのだ!」
「至極当たり前だな。神は偉大であると教えられた人間が、実際に神を目の前にして愚かであると悟ったら、反逆しようとするのは」
流石エレナさん……神の領域で神の僕として生まれながらも神に対して疑問を持ち、世界に対して疑問を持った女。一瞬でイザベラの言葉を両断したぞ。
「まぁ……そうなんだが、もう少しこう……神に対する尊敬とかないのか?」
「ない」
ある訳ないよなぁ……そもそも神々が不甲斐ないから世界はこんな混迷の時代に突入している訳で、そこら辺を協力してなんとかしてくれる神々なら、きっと人々も尊敬してくれたんだろうけど。それでも、自分の姉妹と平然と争っているような神々なんだから無理かもしれない。
「さ、あの神殿を破壊しろ」
「……は?」
何言ってんだこいつ。
「まさかチマチマ侵入して妾の封印を解くつもりか? そんな面倒くさいことを考える暇があったら普通に外から破壊してしまえばいい。どうせ、中にいるのは権力に魅入られたクズばかりなのだからな」
「どっちがクズかわかったもんじゃないな」
けど、神殿を外から破壊して全てをぱっと終わらせるってのはありかもしれない。
「却下です」
「常識がないのか?」
が、瑞樹さんとエレナさんにばっさりと却下されたので普通に侵入します。
神殿の裏側にあった扉から入り、金ぴかに輝く趣味の悪い廊下を歩く。
「本体はどこに?」
「神殿の最奥部、御神体として飾られている……ムカつくことにな!」
どうやら、本体は仏像のように神殿の最奥に飾られているらしい。本当に神様扱いされているのかされていないのか、よくわからない状態だな。
「ん? 貴様ら、どこから、ぐぁっ!?」
「な、敵襲かっ!?」
「悪いな!」
「うわぁっ!?」
御神体を守るために配備されていた警備員を殴り飛ばし、反応したもう一人に向けてかなり手加減した風の塊を放つ。身体を貫通しないだけの威力の留めたが、それでも風に直撃した男は壁まで吹き飛んでいった。骨が1、2本ぐらい折れていそうだが……多分死んではないと思う。
警備員を倒したところで、背後からドタドタと人が走る音が聞こえてきた。どうやら何かしらの方法でこの御神体がある場所を監視していたらしく、俺たちが現れたことに気が付いたらしい。
「おぉ! あれこそが妾の本体! どうだ、美しいだろう?」
まぁ……確かに滅茶苦茶綺麗である。
今の少女的な見た目とは違い、明らかに大人の色気を醸し出している身体は、エレナさんよりも人体の美しさを感じさせる造形だ。顔立ちも男が想像する理想の女性を更に発展させて現実に落とし込んだような造形で、あの顔と身体で誘惑されたら誰だって傾きそうと思うぐらいに、目を引いてしまう美貌だ。
それはそれとして、あんな美貌がありながら中身がこれなんだから残念だな。
「なんとか本体取り返してくださいよ」
「任せろ、と言いたいところだが助けが必要だ」
「私がやろう」
「私もやります!」
なら、残った俺は敵の排除か。
「止まれ貴様らっ! その御神体が黄金の神イザベラ様の肉体だと知っての──」
「退けっ!」
「う、うわぁぁぁぁ!?」
「身体が浮いてるっ!?」
扉を蹴破って入ってきた騎士のような人間たちは、俺が発生させた暴風によって宙に舞い上がる。相手の重さなんて関係なく、俺の暴風はそうであるという概念だけで相手を浮かせる。風をそのまま衝突させるより、よほど手加減がしやすい。
室内で風に飛ばされると言う怪奇現象に遭っている騎士たちは、状況が理解できていないようで困惑しきっている。その間に、イザベラの御神体をエレナさん瑞樹さんが攻撃する。
「くっ!? なんて封印だ、全くビクともしないぞ」
「わ、私たちの風じゃだめなの?」
「ちぃっ!? おいゼフィルスとやら、何とかしろ!」
「はぁっ!?」
いきなりなんだよ。
封印なんだから魔法的な何かだと思うんだが、俺が力でそのまま攻撃していいのか?
「妾の身体はお前のようなへなちょこな風では傷一つ付かんから、思い切りやれ」
「後悔するなよ!」
へなちょこな風って言いやがって。
クリスタルのような結晶に閉じ込められているイザベラの本体に向かって、闘争の権能を上乗せした風の弾丸を放つ。弾丸を放った余波だけで、周囲で嵐に巻き込まれていた騎士たちが壁に叩きつけられていたが、全力で放った風の弾丸はしっかりと結晶を粉砕した。
「よぉし、これで!」
「何事だ!? はっ!? い、イザベラ様の肉体が!?」
騎士みたいな奴ではなく、明らかに偉そうな人が慌てて入ってきた時には、既にイザベラの霊体が本体の中に入り込んでいた。
「きゃっ!?」
「眩しい……」
イザベラが本体に入り込んだ瞬間に、黄金の輝きを放った。同時に、周囲へと神特有の威圧感が放たれる。権能を持たない人間は立っていることすら許されないその圧倒的な存在感の前でも、偉そうな男は毅然と立っていた。
「な、なんということだ……まさかイザベラ様の肉体を取り戻されるなど!?」
「ふはははははっ! 妾、復活!」
黄金に光り輝く女神が復活したことで、周囲の黄金が光り輝き始めた。
「ふふふ……協力してくれたことに礼を言うぞ、ゼフィルス。妾のモノにしてやってもいいぐらいには、な」
「なら権能寄越せ」
元々、それ以外の用事なんてこの女神にない。
「そう焦るな。妾は元々、世界が崩壊することを許すつもりなどない……ただ、愚かな人間には減ってもらいたいと思っているがな!」
「は?」
意味わからん。
「勿論、世界の安寧の為には協力しよう……ガンディアを殺すほどの力だ。逆らうことなんてしないさ」
こいつ……自分が助かりたいだけか。
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