第24話 黄金の神イザベラ
「これが……黄金の都、ゴルドーナか」
想像していた黄金の都は、建物も道も全てが黄金で作られた都だったのだが、実際には装飾程度にしか黄金は使われていないようだ。ただし、それでも充分に眩しい。騎士の国ブルガントとは違い、そこまで人が大量にいるって感じではないのだが……ゴルドーナを歩いている人間はどうも金持ちそうな連中ばかりだ。
「……こんな派手で目立つ都市なのに全く情報が入ってこないと言うのもおかしな話だな」
「そうですね……なにか、事情があるのかもしれません」
俺たちはゴルドーナを外から眺めているだけで、まだ街の中に入った訳じゃない。と言うのも、どうやらゴルドーナは入ることができる人間が決まっているらしく、新しくゴルドーナに入りたい人間は金を払えってシステムみたいだ。
金さえ払えば入れるのだから楽だと思ったのだが……払わなければならない金額を見て、俺たち3人は固まってしまった。魔獣なんかを倒して金を稼いで手に入る金の、数百倍以上の金を要求されるらしい。外に看板として立てかけてあるのが、唯一の良心か。
「潜入できるか?」
「いやー……あの過剰に着飾った人間しか歩いていない街だと、速攻で不法侵入者だとバレると思いますよ」
「同意見です。そもそも、祐太郎さんと私は顔を見せろと言われただけで、すぐに来訪者だとバレちゃいますよ?」
「そう、だな……」
ブルガントは良くも悪くも警備が雑で、来る者拒まずって場所だから簡単に来訪者でも侵入できたけども、このゴルドーナはきつそうだ。
「……どうしましょうか?」
「妾が手を貸してやろうか?」
即座に振り向きながら風の刃を放つ。エレナさんと瑞樹さんが反応する前に、闘争の権能によって強化された身体能力が、背後から声をかけてきた相手が敵であると確信した瞬間に反応していた。しかし、俺が放った風の刃は簡単に避けられたらしい。
「危ないことをするものだな……妾を殺す気か?」
「……神か」
「え?」
エレナさんと瑞樹さんは何も感じないらしいが、俺の身体の中で権能が暴れ狂うような感覚がする。これは間違いなく……神が現れた時の感覚だ。
「ふむ、流石に気が付かれるか……確かに、妾は神だ」
「お前、黄金の神イザベラだな」
美しく流れるような金髪は、エレナさんの持つそれとは輝きが違う。エレナさんの金髪は普通に西洋人とかが持っている美しい金髪って感じだけど、目の前にいる存在の金髪は……人間を魅了して離さない、そんな魔性の金色だ。美女……と言うには少し幼い見た目だが、身体の造形は間違いなく美しい。ただし、どこからどう見ても人間ではない。では、黄金の都ゴルドーナの近くに現れる魔性の金とはなにか……答えは1つしかない。
「そっちから出てきてくれたなら話が早くて助かる。さっさと終わらせる!」
「あー、待て待て……妾を殺したところで権能なんぞ手に入らんぞ?」
俺が権能のスイッチを押して威圧を放ったところで、イザベラは変な表情でそれを止めた。ただ止めるだけだったら無視するんだが……権能なんぞ手に入らないと言う言葉が気になった。
「どういうことだ?」
「妾な? 困ったことに……権能を奪われてしまったのだ!」
「は?」
その言葉に気でも狂ったのかと思ったが……よくよく目を凝らしてみると、俺の権能を真正面から受けてイザベラはヘラヘラしているが、それ以上の何かがない。本能的にこれが神であるとは理解できるのだが、神特有の威圧感がないのだ。
「……そもそも、権能って奪われるものなのか?」
「何を言う、お前はガンディアから権能を奪ったのだろう? それと同じではないか」
「いや、それは俺が神を弑逆したからであって……お前も誰かに殺されたのか?」
「いや? 妾の持つ「不滅」の権能はそんなやっすいものではないからな。殺されたぐらいではなんともない……だが、本体を封印されてしまってな。今の妾は、意識だけを飛ばしている状態なのだ」
ほれ、と言いながらイザベラは俺の近くまでやってきて手を握ろうとして……すり抜けた。
「妾の神としての肉体は、ゴルドーナの中心にあるイザベラ神殿に封印されている。それを取り戻したいのだ……こんな貧相な身体でだらだらとゴルドーナを眺めるだけでは流石に飽きてな」
「貧相?」
充分に女性の魅力が詰まっているような気がするけど……いや、エレナさんのように現実離れしたスタイルって訳ではないが、俺が元々いた世界で言えば絶世の美女って感じだけど。
「疑っておるだろ? 妾の本体はそれはもう美しいぞ? なにせ黄金の神……肉体も人間が最も美しいと感じる黄金の比率によって造形された素晴らしきものだ。助けてくれたら味見ぐらいさせてやってもいいぞ?」
「いや、助けたら殺すし」
「なんでだ!? 権能が欲しいだけなら協力してもらうとかもあるだろ!?」
「え?」
あー……そう言えば、権能を4つ揃える必要があるだけで、別に神を必ず殺す必要はないのか。
「でもなぁ……俺はイザベラの性格とか全く知らないし、後で裏切られたら面倒だし」
「な、なんという冷めた考え方……やはり女を2人侍らせている者に、言葉だけで色仕掛けはキツイか?」
色仕掛けって言ってるんだよな。
「侍らせている……私は別にゼフィルスの女になった覚えはないが?」
「私は祐太郎さんのこと、ちゃんと愛してますよ?」
「はい……」
「なんなんだお前ら……まぁいい。とにかく、私の権能が欲しいなら妾の封印を解除する方法を考えるのだな。都の中には妾が入れてやろう」
「どうやって?」
権能も持ってないし、封印されてるってことは別にこのゴルドーナの中で権力を発揮できるわけでもないだろ。なのに入れてやるって……どうやるんだよ。
「ふふふ……権能がなくとも、魔法ぐらい使える」
イザベラが指を鳴らした瞬間に、俺たちの服装が変わっていた。
「こ、これは!?」
「お前たちを少し着飾っただけだ。あぁ、来訪者の2人は髪色と目の色が目立つから変えておいたぞ? 妾に感謝するといい」
「……いや、見た目だけ変えても入るための金は」
「そんなもの忍び込めばよいだろう」
うわー……都市の守り神であるはずのイザベラがそんなこと言っちゃうんだ。いや、この都市の人間によって封印されているのならば、もはや守り神ですらないのかもしれないけど。
「行くぞ、道案内ぐらいはしてやる……暇だからな!」
本当に、こいつについていって大丈夫なのだろうか。
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