第23話 闘争の力

 ガンディアを倒して意識を失ってから、目覚めたのは数十分後だった。数日ぐらい意識が飛びそうな疲労感だったのだが、ぱっと目が覚めた。

 気が付いた時にはエレナさんに背負われて状態で、騎士の国ブルガントから離れた荒野の川近くまで来ていた。


「早かったな」

「本当ですね……なんででしょう」


 権能をあれだけ派手に使用したら、数日はぶっ倒れると思っていたんだが、思ったよりも反動が軽い。自らの身体の中に刻まれたものだからなのか、それとも俺が権能に適応してきたのか。もしくは……俺の中にのせいか。

 ガンディアを殺した時から、俺の中に新たな力が加わったことは本能的に察することができた。風の権能を使用する時に、自らの身体の中から風を取り出すイメージを俺は持っているがその隣に、淡く光るなにかが増えたような感じがするのだ。


「んー……」


 恐る恐る……その力に触れてみると、まだ少しだけしんどかった身体に電撃が走り、急に身体が軽くなった。


「へ?」


 試しにとエレナさんの背中から降りて思い切り大地を踏み込んだら、それだけで岩盤が破壊されて大きな足跡ができた。

 俺の背後にいたエレナさんと瑞樹さんは、唖然とした表情で俺を見つめている。


「な、なにが起きた?」

「さ、さぁ……なんでしょうか」


 間違いない……俺の身体の中に現れたもう一つの力は、ガンディアの持っていた闘争の権能だ。闘争の権能に触れた瞬間に、俺の肉体強度が跳ね上がったんだ。権能を2つ持つことに対して身体が変化したのか、あるいは闘争の権能を持つことへの副作用なのかわからないが……とにかく、俺の身体能力は今までの比ではないぐらいに上昇した。

 ちょっと思い付きでエレナさんの背後目掛けて全力疾走したら、瞬きする間にエレナさんを追い越して川の中へと突っ込んだ。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「ゆ、祐太郎さーん!?」

「……何をやっているんだ、あの馬鹿は」



 弁明をするのならば、俺は別に好きで川に飛び込んだ訳じゃない。ただ、風の権能と闘争の権能の重ね掛けによる身体能力の強化ではどこまでの速度が出るか試したかったのと、同時にエレナさんに対して少し意地悪してやろうみたいな気持ちが出ただけだ。結果として俺は川に飛び込むことになっただけで、別に好きで飛び込んだ訳ではない……絶対に違う!


「そうか、よかったな

「うぐ……」


 どっちにしろ馬鹿だろみたいな目を向けられたことで、俺は次の言葉が出てこなかった。まさか権能の制御ができずに川に突っ込むことになるなんて思いもしなかった。

 瑞樹さんが必死になって助けてくれたが、そこまで深い川でもなかったので気にしてくれなくて大丈夫なのに。

 濡れた服は風の権能を応用して、水分を周囲に散らす。犬がぶるぶると身体をふって水を飛ばすのと同じような感じだな。当然、その場でやったら今度こそエレナさんに殺されかねないので遠く離れてからやった。


「さて、戦争の神ガンディアを堕とした訳だが、次はどうする?」

「……この身体能力があっても、正直グリナドールとは戦いたくないって思ってしまいますね」


 そもそも、ガンディアに勝てたのだって神々の中で最強だからと言われたからの油断をついたからなのであって、真正面からこちらを嫌悪しながらぶち殺そうとしてくるグリナドールに油断など存在しない。

 リリヴィアは油断が生まれるかもしれないが……森の守護者が邪魔してくる可能性が高い。ガンディアが揃えていた騎士たちとは違い、森の守護者はリリヴィアが生み出し、認められた者にはその力が分け与えられるのだ。集団での戦いになると……キツイ可能性はある。


「なら、黄金の神イザベラというのはどうなんですか?」

「知らん」

「俺も全く知りませんね」


 事前にエレナさんから教えられてはいたが、黄金の神イザベラについては表面上のサラッとした部分しか教えてもらっていない。


「なんでも、イザベラは他の神々と違って人前に姿を現すことがないらしいからな。情報も全く出回っていない。唯一知っていることは、イザベラが持つ権能が「不滅」であることだけだ」


 不滅……永遠と言い換えてもいい。

 神に永遠不滅はないと、来訪者の末裔の男は言っていたが……イザベラの不滅に関しては……確か、繁栄の象徴であると語っていたはずだが。


「本当に権能が不滅なのかどうかもわからないしな……男か女なのかも知らん。とにかくイザベラに関しては秘匿された情報が多すぎる」

「黄金の都ゴルドーナは?」

「騎士の王国ブルガントを超えた先にあるとだけ聞いたことがあるが……」

「じゃあ、こっちですよね」


 川の上流を目指して進めばいいのかな?


「とりあえず、会ってみないとなにもわかりませんから……行ってみましょうか」

「そう、だな」

「はい、祐太郎さんから受け取った権能も練習したいですし」


 あぁ……俺がガンディアと戦っている間に、瑞樹さんとエレナさんも騎士たちを相手に権能を使っていたな。俺が分け与えた風の権能、エレナさんは攻撃的に使っていたし、瑞樹さんは守備的な使い方をしていた。それは性格の差なのか知らないけど……センスは瑞樹さんの方が上なんだよな。

 俺の中には新たな権能として、闘争の権能が加わった訳だが……これは2人に分け与えるべきじゃないと思う。と言うのも、なんとなく本能的に察してしまったのだが……触れた瞬間に全身に走った電撃は、多分人間の身体では耐えることができないと思う。風の力は流浪の力……人間でも感じることはできるが捉えることはできない。しかし、闘争本能は人間であれば誰でも持っているもの。多分……制御できない人が触れると、その闘争本能を暴走させて死ぬまで戦い続けるんじゃないかな。それだけの力を、俺は身体の中にある闘争から感じ取った。

 俺の場合は、すぐ隣に風の力があるからそこまで大事になっていないが……この力は正しく人間には過ぎた力だ。なんて、まるで自分が人間ではなくなったようなことを考えながら、俺は身体の中にある力に意識を向ける。


「……よし、次の目的地は黄金の都ゴルドーナですね!」

「急にどうした」

「男の人は旅をするのが好きだと聞きましたから、きっとそれですね」


 違うんだけどね……なんとなく、テンションが上げてきたいじゃん。もしかしたら……全ての権能を束ねた時、俺は人間じゃなくなっているかもしれないから、さ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る