第20話 戦争の神ガンディア

「歓迎しよう! 我が父、創世神に選ばれし異界の戦士よ!」

「……」


 テンションたっか。

 アインと名乗った男に案内されるままについていった先は闘技場の特等席ではなく、騎士の王国ブルガントの王宮だった。

 数メートルの巨人が座るに相応しい超巨大な王座に座る戦争の神ガンディアは、空気が震えるような大声で俺のことを歓迎してくれた。あまりにも他の神とテンションが違うので滅茶苦茶戸惑ってしまった。


「む? どうした異界の戦士よ」

「いや……リリヴィアとグリナドールとは偉い違いだと思って」

「おぉ! 我が姉リリヴィアと我が妹グリナドールに会ってきた後か! それでは驚いたであろう……なにせあの姉妹はいつだって考え方も生き方も暗いからな!」


 それはそうだと思うけど……お前みたいにあまりにも脳筋が過ぎるのも考え物だと思うよ。


「創世神に認められし異界の戦士よ、名前を聞かせてくれないか?」

「ゼフィルス……ゼフィルス・ユータウロだ」

「それは偽名だろう」

「悪いが、本当の名前は教えてやれない」

「うむ、その警戒心は正しい。ただし」


 咄嗟に風の権能を発動して背後の瑞樹さんとエレナさんを守る。


「立場が対等なら、の話だ」

「悪いが、俺とアンタの立場は対等だ。同じ権能を持つ存在だからな」

「ふぅむ……権能を持つ者はやはり厄介だな」


 神が放つ特有の威圧感……3度目ともなると大分慣れてきたな。俺の権能によって守られていた瑞樹さんとエレナさんも、俺の加護を受けているからなのか前のように立ち上がれないようなことにはなっていない。冷や汗を流すぐらいで済んでいるみたいだ。それが余計に……ガンディアには面白く見えたようだ。


「よかろう……異界の戦士ゼフィルス、お前の目的は我が権能を簒奪して世界の崩壊を止めることだな?

「そうだ」

「何故?」


 何故、か……創世神の為、って言えればかっこいいんだけどな。


「惚れた女を守るためだ」

「その意気やよし! ならば存分に死合おうとも!」


 ガンディアが立ち上がると同時に、周囲の騎士たちが一斉に剣を抜いてこちらに向けてきた。まぁ……ガンディアの王宮に入った時点でこうなることは理解していたが……まさかこんなに早く戦闘になるとは。


「行け! 神に認められし最強の騎士たちよ!」


 同時に、俺を中心に発生した暴風が騎士たちを塵クズのように吹き飛ばしていき、ガンディアの側近らしきアインは俺が発生させた権能の余波を受けて片膝をついていた。その姿は……グリナドールを前にして立ち上がることができなかったエレナさんを思い起こさせる。


「……流石だな、戦士ゼフィルスよ。これほどに権能を仕上げているとは思わなかったぞ」

「あん?」

「お前がこの世界に来てそれほどの時間は経っていない。仮にも世界の秩序を担う神だ……お前のような権能を持った来訪者が世界にやってくれば嫌でも気が付く」


 グリナドールとリリヴィアの対応がやけに早かったのは、そういうことかよ。


「だが、お前はこの世界にやってきて数日で権能の使い方を熟知し、我が眷属たる騎士団を容易く蹴散らした。所詮は権能を与えられただけの人間だと侮っていたぞ」

「俺として侮ってくれていた方が嬉しかったんだが」

「勝ちに貪欲なその姿勢も、権能を持つ者らしい……だが、戦争の神である我にとってこの程度は些事! むしろ楽しみが増えると言うものよ!」


 立ち上がっただけで未だに武器を構える素振りを見せないのはすごい不気味なんだが……ガンディアはどんな武器を使うのだろうか。


「では、ゆくぞ」

「はっ!?」


 突然、姿勢を低くしたと思ったら一瞬で間合いを詰められた。周囲を渦巻く暴風は素手で突っ込んでこれるものじゃないはずなのに、気が付いたら目と鼻の先にガンディアの拳が見えた。

 奇跡的に反応して拳を避けたが、同時にガンディアはもう片方の腕で俺の首を掴もうとしてきた。当然、反発するように身体から暴風を放つのだが、全く関係ないと言わんばかりに手を伸ばしてくる。


「ん?」

「はぁっ!」


 初手で絶体絶命のピンチに陥ったが、エレナさんが剣を抜いてガンディアに突撃してくれたおかげで命拾いした。しかし、エレナさんが魔力を込めて突き立てた剣は……ガンディアに掠り傷を与えることもできていなかった。


「戦争とは、正々堂々とした戦いではない。勝者が全てを肯定され、敗者が全てを否定される、この世で最も原初的な取り決め。そして勝者とは生き残った者であり、敗者とは死んだ者のこと」


 自分に対して傷を一つ満足につけることができないエレナさんを前にしても、ガンディアの闘士は揺るがない。いや、むしろ敵が多くなったことで雰囲気が増している。


「戦争とは、究極はどちらが生き残るかの戦い。そこに卑怯も汚いも存在しない、純粋な生存本能によって繰り広げられるもの。故に、戦いの邪魔をするのも割り込むのも我は全てを認めるが……割り込んできたからには死ぬ覚悟もできていると考えていいな?」

「っ!」


 咄嗟にエレナさんの前に割り込んで風を最大出力で放出する。ガンディアがエレナさんを殺そうとして放った拳は、俺に当たる寸前で風に押されて止まり……逆にガンディアの肉体を吹き飛ばした。


「ぬぉっ!? 想像以上の出力! やはり権能使いとの戦いはいいな……血沸き肉躍るというものだ!」

「くそ!」


 さっきの風を受けても吹き飛ぶだけで全く傷つかない。マジで無敵に見えてくる……しかも、ガンディアは肝心の権能を使用せずに拳だけで戦っている。いくら瑞樹さんとエレナさんが眷属になって出力が上がったからと言って、こんな怪物に果たして勝てるのだろうか?

 巨体からは信じられない速度で距離を詰めてくるガンディアに、風を薄く伸ばして刃のように飛ばしてみても、拳だけで簡単に弾かれてしまった。


「いいぞ、今のはそのまま受けていたら傷ができていた」

「嘘だろ……まいったな」


 想像以上の、怪物。

 グリナドールと戦ったことで神と戦えるかもしれないと自信をつけたのだが、調子に乗っていたかもしれないな。このガンディア、神々の中で最強なのではないかと言われているぐらいの実力者だ……マジで桁が違う。しかし、このまま諦める訳にはいかないな……なにせ、俺の背中には2人の命がかかっているんだ。2人を眷属にしたのならば、主として格好悪いところは見せられないな!

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