第14話 星々の神グリナドール

「ゼフィルス、防御だ」

「え、ちょっ!?」


 俺と瑞樹さんは上手く状況が飲み込めていない状態なのに、そんなことはお構いなしだとエレナさんが魔法を発動した。


「ぬぅっ!?」


 村長も同時に防御魔法のようなものを発動したようだが、エレナさんの放った光の矢は防御の魔法を貫いて村長の頭を貫いた。


「ひっ!?」

「瑞樹さん!」


 村長を殺すのと同時に、エレナさんはその場で全方位に向けて光の矢を放つ。建物を破壊しながら外へと飛び出していった光の矢は、外に待ち受けていたよくわからない大男達を容赦なく貫いている。


「なんですかあの大男!?」

星守ほしもりか……やはりここは既にグリナドールの支配下地域、と言う訳だな」

「星守?」

「星々の神グリナドールが支配するエクストーンに住まう人類種だ。あそこには星守という種族の人類種しか存在していない」


 この肌が青色で身長が2、3メートルありそうなのが星守!? どうみてもオークとかそんな感じのモンスターでしょ!? 角生えてるし目が3つあるよ!?


「グリナドールの支配地域には星守しか存在していない。何故ならば……グリナドールの権能である「運命」の力によって、人間を全て星守へと変えてしまうからだ」

「じゃ、じゃあこの人たちは元々は人間だったんですか!?」

「その通りだ。だが、情を抱くなんてやめておけ……グリナドールの権能によって運命を捻じ曲げられて根本から変えられた生物など、既に自我のない怪物と変わらない」


 エレナさんの言葉を肯定するように、星守は言語でもない雄叫びをあげながらエレナさんに向かって無骨な斧を振り下ろした。剣でその斧を受け止めたエレナさんだが、見た目通りとんでもない膂力を持っている星守によってエレナさんは冷や汗を浮かべていた。


「しまったな……もう少し考えてから魔法を発動させるべきだった。こうも囲まれては流石に魔法で殲滅するのはっ!?」

「エレナさん!」


 ここは仕方ないから、瑞樹さんを抱きしめながらエレナさんの手を取って抱き寄せる。両手に花って感じでちょっとドキっとしたけど、すぐに気持ちを切り替えて風を放出する。

 すぐに俺たちを囲んで一斉に叩こうとしていた星守たちが、塵クズのように吹き飛んでいく。その過程で明らかに絶命したなってぐらいに身体がへし折れている人もいたが、今は緊急事態なのでそんなことも言っていられない。


「星守には自我がないんですか!?」

「自我はある。一時的にグリナドールの力によって人間の身体に戻されれば、当然人の言葉を発することができる。ただ……グリナドールは人間のことを都合のいい駒程度にしか思っていないから、言葉を話させていないだけだ」

「じゃあさっきの村長と門番さんは、グリナドールの権能で一時的に人間に戻っていただけなんですか?」

「そうだ……人格は変わっていない」


 そうすると……あんな雄叫びだけの生物になっても、グリナドールに対する忠誠心のようなものがあるのだろうか。だって、そうでなければ俺たちを罠に嵌めようなんて考えないだろう。


「あいつらの誤算は、時間稼ぎによってゼフィルスが復活したことだな。村についた瞬間に私たちを襲っていれば、ゼフィルスはしばらく動けなかっただろうに」

「そうなったら逃げるだけじゃないですか」

「ま、最悪な」


 今の状況は最悪じゃないんですかね。


「この村に来てわかったことは2つ。4柱の神々は近々、馬鹿でかい戦争を起こすかもしれないと言うこと。そして……グリナドールはこちらの存在を感知して眺めているということだ」

「そうね、不愉快だけれど……創世神が送り込んできた使者とやらは無視できないもの」


 俺の風によって建物も星守も全て吹き飛んだはずなのに、いつの間にか目の前には小さな少女が立っていた。

 薄青色の肌に、星空を思い起こすような淡い輝きを放つ黒と白のローブ……流れる流星のような銀色の長髪に、こちらを射抜く青い瞳。身長からして小学生高学年ぐらいの年齢に見えなくもないが……明らかに空気が変わった。

 間違いない……目の前にいる存在こそが、星々の神グリナドールだ。生命の神リリヴィアに一度出会っているからわかる……この生物としての圧倒的な格の差、近くに立っているというだけで平伏したくなる圧倒的な恐怖。

 俺の腕の中にいる瑞樹さんとエレナさんは、同じように震えていた。神の前ではエレナさんと瑞樹さんに違いなんてない。人間が地を這う小さな虫の大きさを一々気にしないように、グリナドールにとって人間の個体差など些末なものでしかない。


「……気に入らないわね、その眼」


 ただ、俺だけは違う。

 震える瑞樹さんとエレナさんを強く抱きしめながら、真っ直ぐグリナドールを見つめ返す。初めてリリヴィアに出会った時は本当に死ぬかと思ったし、圧倒的な格の差を感じ取って過呼吸になりかけていたが……今の俺は内なる権能を解放した状態。力の差はあるだろうが……グリナドールと俺は同格。


「人間が本気で神に勝てると考えている。その眼が気に入らない」

「勝てると思ったのは、俺じゃなくてお前の父親創世神だろ?」

「死にたいなら最初からそう言いなさい」


 俺の挑発に対してノータイムで権能が発動する。挑発の言葉を発した時点でそのことは予測していたので、即座に俺も風の権能を発動させる。イメージするのは……誰にも掴むことができない流浪の風。

 グリナドールの持つ権能は星々に刻まれた「運命」を操るもの。だが、どれだけ運命を操ろうとも風を掴むことはできない……俺の権能は、そういうものだ。

 グリナドールは今、権能を使って俺たちの運命を操ろうとした。しかし……流浪の風に守られている俺たち3人の運命は、どうやっても触れることができない。


「本当に生意気……ここまで私の逆鱗に触れるのは、やはり権能を持っている者だけねっ!」


 急に激情を露わにしたグリナドールは、背後から大量の隕石を召喚してきた。


「マジっ!?」


 いきなり概念的な力ではなく、直接的な実力行使に驚いているのだが、彼女は運命を司ると同時に星々の運航を取り仕切る神でもあるのだから、そりゃあ隕石ぐらい降らせられるか。

 即座に自分の身を守るように風を展開するが、グリナドールの力は強力の一言。俺の持つ風の権能は神々の権能にも負けないものではあるだろうが……単純に生物としての格が違うぞ!

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