第13話 集落にやってきた

「や、やっと人がいる場所まで来れた……」


 森で休憩してから復活した俺が再びグロッキー状態になるまでなって、ようやく人が住んでいそうな場所へとやってきた。ただ……リリヴィアの神域近くにあった街とは違い、今度は滅茶苦茶に小さい村だ。

 リリヴィアの神域から東にひたすら歩いてきた訳だが、エレナさんが言うにはこのまま進むとエクセリア山脈という山々があるらしい。そのエクセリア山脈の最高峰こそが「運命」を司る星々の神グリナドールが支配する、星々の故郷「エクストーン」なのだとか。なんでも、雲を突き抜けるほどの高さなんだとか言うが……普通に今いる場所からも視認できている。


「だ、大丈夫ですか!?」

「あ……大丈夫、です」


 俺が滅茶苦茶顔を青くしながら瑞樹さんに背中を撫でてもらっていると、村人らしき人が俺のことを心配しながら近づいてきた。この世界に来てからまっとうに人に優しくされたことが少ないので、普通に感動した。


「すまない、しばらくこの村に居させてくれないか。見ての通り……相方の気分が大変な状態でな」

「は、はぁ……大丈夫、だと思いますが」


 多分、俺の方に向かってきた女性と、エレナさんの言葉に対して首を傾げている男性はこの村の門番みたいな人なんだろう。


「……貴女は森の守護者、ですか?」

「ん?」


 門番さんがエレナさんの言葉にちょっと困惑しながらちらっと村の中へと視線を向けたら、いつの間にか白髪のおじいさんがエレナさんを見て目を見開いていた。展開が早いって……俺、マジでグロッキーなんだから。


「そうだが……元森の守護者だな。リリヴィアとは決別してきた」

「なんと……神域を脱走した森の守護者は殺されるのが掟では?」

「ご老人、詳しいな。確かに私は森の守護者たちから命を狙われる立場だが、随分と前に追手を撃退してから一度も襲われていないぞ」

「うーむ……丁度いいかも、しれぬな」


 俺と瑞樹さんを抜きにしてとんとん拍子に話が進んでいるような気がするんだけど、気のせい?


「そこの2人を連れて、村の中へ」

「助かる」


 休めるならなんでもいいか。



 村長の家だと言う建物まで案内されたので、エレナさんと共に家の中へと入る。


「横になっていて構いませんぞ」

「す、すいません……」


 ここは遠慮なく横にならせてもらおう。正直、立っているのも限界だったから助かる……瑞樹さん、そんなに心配しながら膝枕してくれなくていいから。もっと気分がいい時にしてくれたら、素直に楽しめるからそうしてくれないかな……今やられても全く楽しめないよ。


「……その2人は来訪者ですな」

「そうだ。そっちの倒れている方の人間を助けた時に、リリヴィアに殺されかけてな……まぁ、考えてみれば当たり前なのだが」

「ほっほっほ……森の守護者の中でも若いのですな、来訪者を庇うとは」

「私は来訪者だからと人を差別するつもりはないからな。なんであろうとも、ゼフィルスはゼフィルスだ」


 その言葉、俺が元気な時にちゃんと目を見て言ってください……嬉しいから。


「我々は神々の庇護下にいないので、来訪者に対してなにか特別に思うことはありませんが……来訪者を庇うのはお勧めしませんよ」

「そうかな? 女の方はそうでもないが、ゼフィルスは庇うべき相手だ」

「瑞樹さんも、庇ってくださいよ……」

「いいの。祐太郎さんも無理な時は私を囮にして生きてくださいね」


 絶対に嫌だ。


「ゼフィルスは風の権能を持っている、創世神から使命を託された人間だ」

「創世神から使命を……つまり、そのゼフィルスという男が、神々を滅ぼす簒奪者だと?」

「そうか……来訪者たちからは使者と持て囃されていたがな」


 そりゃあ……神々を信仰して神々の庇護を受ける人間は、その神と同等の力を持って神を殺そうとするものは神話に登場する「闇」と同じような扱いだろうさ。この村が神々の庇護下ではないからいいけど、この世界の普通の人間だったら真っ先に殺されそうになってるよ。


「ま、来訪者のことはいい……私が森の守護者であると知って、なにを頼もうとしていた」

「見抜かれていますか……では、簡潔に伝えましょう……星々の神であるグリナドールを弑逆して欲しいのです」

「は?」


 おぉ……俺の調子もちょっと復活してきたけど、流石に村長さんの言っていることはマジで理解できないぞ。


「グリナドールを殺すことでお前たちになんの得がある」

「……星々の神グリナドールが持つ権能は「運命」です。空に浮かぶ星々から人々の運命を定める神ですが……グリナドールは少し前から人々の運命を好き勝手に弄り、自らの力にしているのです」


 それは……大分やばいことしているな。


「その影響によって、1週間で10人が老衰しました……20代の若者でも、です」

「グリナドールはそこまで愚かな神ではないはずだが、なにかを感じ取ったのか?」

「それはわかりませんが……簒奪者が現れたのは本当でしょう?」

「俺のせい?」


 マジかよ……瑞樹さんだけじゃなくて、無関係なこの世界の人々にも影響を与えてしまっているなら……マジで俺がなんとかしないと。


「いや、ゼフィルスがこの世界に来たのは5日前だ。村長の言葉から考えて……ここ数か月の話だろう?」

「半年になります」

「正確に理由はわからないが……恐らく、他の神々に対抗するためか、あるいは目覚めつつある闇に対抗するためだろうな。どちらにせよ、神ですら自らの権能だけではどうしようもない場所まで世界が来ている証拠なのかもしれない」


 えぇ……なのに絶対に協力するのは嫌だって、頭おかしいんじゃないか?


「そうですな……戦争の神ガンディアも軍備を増強し、黄金の神イザベラも「不滅」の権能を使ってなにかを企んでいると聞いていますし」

「詳しいな。少し怪しく思ってきたぞ」

「ほほほ……怪しむのならば口に出してはダメではないですか」


 あはは……でも、なんでこの村長は神々の事情に対して滅茶苦茶に詳しいんだ。いや、詳しいって言っても大分曖昧な部類ではあると思うが。


「……ゼフィルス、お前は本当にそういう星の下に生まれてきたのかもしれないな」

「え?」

「この村の住人、全員が敵だ」


 え!?


「気が付きますか。若い森の守護者と言えど……侮れないものですね」

「怪しまれるようなことを口にして、最初からこちらを警戒させようとしていたくせに、よく言う。目的は私たちを少しでも長くこの建物の中に留めることか」

「……」

「らしいな。さっきから、妙な魔法をこちらにかけようとしている」


 え、え?

 瑞樹さんと一緒になって俺はひたすらに疑問符を頭に浮かべることしかできないんだけど。

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