第12話 かなりきつい旅

 追ってくる森の守護者を吹っ飛ばしてなんとか逃げていたら、あの街から大分離れていた。


「そっちに行ったぞ!」

「くそっ!」


 マジで全身が痛いからそろそろゆっくりとしたいのに、魔物が襲ってくる。神々の領域から離れた場所はこうして魔物が平然と闊歩していることは知っていたが、ここまで混沌としているとは思わなかった。

 サイのように厳つい角を持った四足歩行の生物がこっちに向かって突進してくる。象ぐらいあるんじゃないかって巨体で、物凄い速度を出している魔物に瑞樹さんが俺の背中に隠れる。


「はぁっ!」


 全身が痛むが、それを我慢しながら身体の内側から風を引きずり出す。最初の頃とは違って、身体の中から風を引きずり出すのも慣れてきた。

 風を固めた球体を投げつけたら、それを中心として爆風が発生して魔物の身体をズタズタにしていく。サイみたいなカチカチの鎧のような外皮を持っていたようだが、風の権能によってあっさりと絶命してくれた。


「あー……マジで辛いんですけど」

「我慢しろ……正直、私も少しきつくなってきた」

「え、え?」


 クソ……リリヴィアがなにかしてたりするんじゃないかってぐらい、魔物がどんどんと襲ってきやがる。俺は風の権能を発動するだけでグロッキーだし、だからと言ってエレナさんに全部を任せる訳にもいかない数だ。

 滅茶苦茶強力で地形を破壊するような魔物が出てこないことだけが救いだが……それも数の暴力の前では正直、ありがたがることもできない。


「また来るぞ」

「くぅ……ちょっと踏ん張ります、瑞樹さんは俺の傍を離れないで」

「は、はい!」


 多分、普段だったら瑞樹さんみたいな美人が抱き着いてきたらドキドキしてまともに動けなくなるかもしれないけど、今の状態だと全く別の意味でドキドキしている。俺が倒れたら……エレナさんが魔物を全て相手にしながら俺と瑞樹さんを守らなくてはいけなくなる。今の俺にとって最も大事なことは、瑞樹さんを傷つけられないこと、そして次に大事なのは……俺が倒れずにエレナさんの負担を少しでも軽くすることだ。

 今度は巨大な蛇のような魔物が地面を這いずりながら向かって来ている。更に、上空には複数の鳥のような魔物が見える。


「エレナさん、あの蛇は任せていいですか?」

「ロックバードは任せる」


 あ、あれロックバードって名前なんだ。なんてことを思った瞬間に、上空から岩が降り注いできた。ロックバードって口から岩を吐いてくる鳥ってことかよ!?


「瑞樹さん!」


 咄嗟に瑞樹さんを抱きしめてから風を発生させて岩を弾き飛ばす。それだけで立ち眩みのように視界がぐらっと揺れて、吐き気と不快感が上がってきたがなんとか踏ん張り、上空を飛ぶ4匹のロックバードとやらに狙いを定める。

 イメージするのは、上空を飛ぶロックバードを追尾する誘導弾。今の状態で強い風を起こせば間違いなく俺は吐く……だから、ちょっと手加減しながら小さめの風の弾丸を4つ放つ。

 ピュン、という空気を切り裂く音と共に放たれた風の弾丸は、少しの誘導を駆けながらしっかりとロックバード4匹の頭を貫いた。同時に、とんでもない吐き気と共に俺はその場に座り込んでしまった。


「大丈夫ですか!? 顔が真っ白で……どうすれば」

「だ、だいじょうぶ、ではないですけど……まだ、立てます」


 はっきり言って今すぐ横になって瞼を閉じたいぐらい気持ち悪いが、エレナさんはまだあの巨大蛇と戦っている。苦戦している、と言う訳ではなさそうだが援護しなければエレナさんの負担は増えるばかりだ。

 再び手の中に風の弾丸を生み出して、蛇の頭を目掛けて放つ。エレナさんの斬撃を蛇が避けた瞬間に風の弾丸は顎を貫き、そのまま上空へと消えていった。


「すまない、助かった……が、流石に限界そうだな」

「すいま、せん」

「謝るな。私もイオジャクもお前に助けられている……私1人ではとっくに死んでいる」

「あはは……エレナさんが1人だったら、もっと早く逃げてますよ」

「それはあるな」


 結局、来訪者である俺と瑞樹さんがエレナさんの負担になっている。こんな状態でリリヴィアを倒しに行くなんて、やっぱり不可能だったな。


「取り敢えず近くの魔物は全て倒したらしいが、次にいつ襲われるかわからない。どこか休める場所があればいいのだが……」

「まずはあの森の方に行きませんか? ここまで開けた平原だと、こちらを発見した魔物が際限なく襲ってくると思うんです。今は祐太郎さんを休ませてあげないと」

「視界が悪くなるのはこちらにとっても同じだが……ゼフィルスの現状を考えると、仕方ないか」

「す、すいません」


 できれば……近くに小川がある場所にしてください。





 ふー……吐いたらちょっとすっきりしたぞ。

 瑞樹さんが提案した小さな森の中に入ると、奇跡的に小川を見つけたのでそこで吐いてきた。流石にそのまま我慢していると俺の身体がやばそうだったから。


「大丈夫か?」

「まぁ……なんとか回復してきました」


 エレナさんから水が入った筒を受け取った。

 座りながら水を飲んでいると、座り込んで深刻そうな顔をしている瑞樹さんが目に入った。


「どうしたんですか?」

「……このままじゃ、私はただのお荷物ですから、なんとか役に立てないかと思いまして」

「気にするな。戦えない人間は一生戦えない……そういうものだ」


 ちょっと冷たい言い方だけど、エレナさんの言うことはもっともだと思う。俺は後天的に与えられた力で戦っているけど、やっぱり戦う人間として生きてこなかったので、力に振り回されている感覚が抜けない。


「私にもできることは、ないんですか?」

「ない。魔力がない人間に扱える魔法ないし、この世界に魔力を持たない人間はいないから後天的に魔力を手に入れる方法もない」


 そうだよな……来訪者がそこそこいるんだから、そういう方法があるんじゃないかとも思ったんだが、そもそも来訪者はよくて奴隷で基本的には殺されるだけなんだから、戦える技術なんて開発されてないわな。

 悔しそうに俯く瑞樹さんを見て、俺はなんとなく罪悪感が浮かんできた。元々、誘拐されていたとは言え、助けて無理やり連れてきたのは俺なので、瑞樹さんがあんな悔しさを味わっているのは俺のせいとも言える。

 瑞樹さんの為にも、そしてなによりエレナさんの負担を減らすためにもなんとかなる方法を探していかないとな。

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