第11話 風の権能
「……なんとなく、わかりました」
「俺もそこまで詳しく知っている訳じゃないけど……大体はこんな感じ」
取り敢えず、俺はエレナさんと集落にいた男に教えてもらった世界の状況を伝えた。サブカルに全く理解がない人間だと、多分今の説明でもよくわからないってなると思うけど、さっきはちょっとテンションが高くなっていたことからも、恐らくこういうことに理解のある人だと思う。
「あ……そう言えば、祐太郎さんは何歳なんですか? 年上にしか見えないですけど」
「俺? あー……異世界なのに今年って言い方はおかしいけど、今年で24歳かな」
「あんまり離れてないですね。私は今年が22歳です」
「そう、なんだ」
え……俺が22歳だった時、もっと子供っぽかった気がするけど……やっぱり男は子供のまま大人になるって本当なのかな。それに、エレナさんほどじゃないけど……瑞樹さんは充分豊満な身体つきをしているから、なんなら年上なんじゃないかと思ってました。
「話は終わったか? まずはこの神域から離れるぞ」
「……リリヴィアは倒しに行けないから、ですか?」
「いや、なんだか嫌な予感がする……と言うより、誰かがずっと私を監視しているような視線を感じるんだ」
監視?
エレナさんに気が付かれずに、来訪者である俺と瑞樹さんではなく……エレナさんを監視する存在か。
「もしかしたら、リリヴィアがこちらの存在に気が付いて森の守護者を放っているかもしれない」
「森の守護者って外に出るんですか?」
「私ような若輩者は外に出ないが、リリヴィアの命によって森の外を監視する者たちは存在する。森の守護者の中でも、かなりの手練れだ……正面からの戦闘になったら私では勝てない」
そりゃあ、やべーな。
そうすると、さっさとこの街を離れた方がいいな。
「よし、なら今からでもこの街を離れましょう」
「あぁ……すまない」
「あ、謝るのは私ですよ。私が邪魔をしなければ、神様の1体を倒しに行くところだったんですよね?」
「勝機はなかったですけどね」
「え」
はっきり言って、今の俺たちが勝てるほど俺は自惚れていない。エレナさんだってそこは理解していたはずだ。でも、時間がないから、リリヴィアには一度やられたから……様々な理由をつけて、彼女はリリヴィアを殺したがっていた。きっと彼女は自分たちを使って神々と戦争を繰り広げるリリヴィアが許せないのだろうけど、俺たちがやろうとしていたことはただの自殺だ。
まずは世界を巡り、神々に対抗する術を探さなければ……神を殺すのは、その後でもいいはずだ。
瑞樹さんと共に顔を隠しながら、周囲を警戒するエレナさんの背中を追いかける。俺と瑞樹さんには全くその視線とやらがわからないのだが……エレナさんの顔を見る感じ、どんどんと状況は悪化しているらしい。
なんとか人と人の間を縫いながら街の外へと出た瞬間、前方に1人、後方に2人の人間が現れた。全員が褐色肌のダークエルフって感じの女性だ。
「やはり、か」
「エレナ・リヴィア・ハナマス……今ならばお前の投降を認める。リリヴィア様に裁いてもらえる機会をやる」
「森の守護者がその責任を放棄した場合、処刑以外の選択がないのに裁いてもらえる権利か? くだらない話だな……私はこれ以上、
「……貴様、リリヴィア様を愚弄する気か?」
「敬称が必要だったか?」
エレナさんの挑発と同時に、正面にいた女性と剣を交えた。同時に、俺と瑞樹さんの後方にいた2人の森の守護者も、剣を抜いてこちらに向かってきた。やっぱり、狙いはエレナさんだけじゃなくて俺もか。
「ごめん瑞樹さん! ちょっとの間、離れないで!」
「きゃっ!?」
まだ俺は風の権能を上手く制御できるわけではないが、自分のすぐ近くならば影響を受けない。ちょっと失礼かなと思いながらも、瑞樹さんを抱き寄せてから身体の内側から風を放つ。
剣を抜いて襲い掛かってきた2人のダークエルフは、なにかしらの魔法を使おうとしていたようだがそれよりも早く暴風によって吹き飛ばされていった。
「なにっ!?」
「余所見か?」
「がっ!?」
エレナさんと戦っていた女性が驚愕の声を上げるのと同時に、エレナさんは足払いでその場に相手を倒してから鳩尾を容赦なく踏みつけていた。
「お前が権能を使えば、必ず動揺すると思っていた」
「だ、だから俺たちのことを守ってくれなかったんですね!?」
「権能を扱えるようになる訓練だ。いつまでも私が守っていてはダメだろう?」
クソー……まぁ、瑞樹さんのことは守れたからいいか。
「大丈夫ですか?」
「は、はい……だ、大丈夫です」
あれ、なんか瑞樹さんの顔を赤いような。
「だ、大丈夫ですから見ないでください!」
「ぐぇっ!?」
そ、そんなに照れなくてもいいのに……確かに、急に抱き寄せたのは俺だけど、そこまで照れられるとこっちも恥ずかしいと言うか。
「逃がすか!」
「げ」
風で吹き飛ばしただけの2人は全然と無事だったらしく、怒りの形相でこちらに剣を向けていた。
ちらっとエレナさんの方へと視線を向けても、肩を竦めるだけで助けてくれる様子はない。くそ……瑞樹さんを守るためにも俺が戦うか!
「死ね!」
「卑しき簒奪者が!」
よし……瑞樹さんと助けた時の感触を思い出せ。身体から出た風を身に纏っていき……それを殴ると同時に放つ!
なるべく殺さないように手加減して放った風を纏った拳は、森の守護者が持っていた剣を砕いてから頬に突き刺さった。
「やべ」
明らかにバキバキと何かを砕くような感触と共に、1人を殴り飛ばしてしまった。死んではないと思うけど……美人の顔を容赦なく殴ってしまったのは、流石にちょっと罪悪感が。
「貴様ぁっ!」
もう1人が激高しながら向かってきたので、冷静に剣を避けてから手刀で叩き折り、掌から風を押し出すイメージで放つ。今度は直接エルフさんには触れずに衝撃だけを送り込むと、地面を抉りながら人体が簡単に風に乗って数メートル以上吹き飛んでいった。
「……私より容赦ないな」
「これ、手加減が……できないん、ですよ」
手加減ができなくて物凄いことをしているって、そこだけ考えると最強系の主人公みたいで格好良く決めたいんだけど……ちょっと風を纏って素人の格闘戦をするだけで、身体の内側からごっそりと力が抜けていく感覚がある。
「大丈夫ですか?」
「権能にも、魔力と同じように消費する力があるということだろうな……しばらくはゆっくりと歩くとしよう」
「や、休んではくれないんですね」
「ここで休んでいたら、次々に追手がやってくるぞ」
くそぉ……全身が筋肉痛みたいに痛いぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます