第9話 人助けはしたい
「よし、これで完璧だ」
「……本当ですか? 俺、服を選ぶセンスとかないですから……任せますけど」
「似合っているぞ。私にはその「せんす」とやらがあったようだな」
本当かなぁ……まぁ、この世界に生きている人から変な感じで見られなければ別にいいんだけど。
そんな俺の服装事情はどうでもいいとして、これから俺とエレナさんが狙っていく生命の神リリヴィアについて色々と準備しないと。
「俺、権能が万全に使える訳じゃないですよ? エレナさんは自信とかあるんですか?」
「私が単独だったら、そもそも逆らうなんてことは考えないな。何故ならば、そもそも我々人類種と神々では存在の次元が違う」
存在の次元……それって攻撃が当たらないとか?
「人類が数百年かけて築き上げてきた文明も、磨いてきた技術も、紡いできた歴史も……神々は息を吹きかけるだけでそれを消すことができる。神々は来訪者のことを簒奪者として恐れているとあの男は言っていたが……真に神が恐れるものなど、同族以外にはいない」
あー……とにかく滅茶苦茶強いってことね。
まぁ、でも俺の不完全な権能ですらも、あれだけの力があるんだから……創世神から権能を与えられ、それが扱える存在として生み出されたであろう神々が強いのは当たり前のことだな。
「神々は万能ではないのかもしれないが……決して弱い訳ではない。むしろ、万能ではないだけで、殆ど万能に近い存在だろうな……特に、自らの領域の中では」
「領域?」
「神々が統治している土地だ。生命の神リリヴィアならば神域……つまりあの森だ」
森の中だと強くなるのか?
それ、なんてフィールドバフ。
「神々は個として完成された存在ではあるが、同時に人類から信仰を集める者でもある」
「信仰を」
「そうだ……人々が神々を恐れ敬う感情。それを糧に……神々は力を増すことができると言われている。あれだけ完成されているはずの神々が、人類種の存在を許しているのはそれが理由だと言っていいだろう」
それ、自分たちの力になるから生きているのを許しているだけってことか? やっぱり神様って物凄い傲慢で嫌な奴らだな……創世神が呆れちゃって異世界の人間に託したくなるのもわかるってもんだ。
「神々にとってはそれが当たり前なのさ。人々は神の威光の前にひれ伏し、許しを請い……そして神の力を強化する信仰を捧げる」
「奴隷じゃないですか」
「そうだな。だが、人々は闇を恐れて結局は神々の庇護下に入るしかない……創世神が生み出した光と闇によって、人間は神々にひれ伏すことしかできなくなっているのさ」
歪な世界だ……創世神がそうあれと作ったのか、それともその創世神が死んでしまったからこうなってしまったのかは定かじゃないけど、明らかに世界が歪んでいる。それが世界の終わりを示しているのかも、しれないけど。
「ん? ところで……自らの領域内なら万能に近い存在と、その領域内で戦わないといけないんですか?」
「そうだな。神々は自分たちの領域から外に出ることなんてしないからな」
「……え?」
俺、これでも創世神に4柱の神を倒せって言われている立場なんですよね? 全部アウェーで、神々と戦わなきゃいけないんですか? 普通にやばいですよね、それ。
「か、勝てるんですか?」
「……さぁ?」
急に自信なくなるじゃん!
「勝たなければ世界は守れないが、そもそも神々は倒せるような存在かと言われると首を傾げるな。万能ではないかもしれないが、人間と比べたら限りなく万能に近いと思うし」
「マジで、もうちょっと作戦練った方がいいんじゃないですか?」
「作戦を練ったところで何になる。神を殺す武器がある訳でも、共に神々に挑んでくれる強力な仲間がいる訳でもない」
「それは……そうなんですけども」
でも、今のままだとあまりにも勝機がなさすぎないか?
「せめて、俺の権能が最大限の効果を発揮できるまで待つとか……」
「そんな時間が世界に残されてるといいがな」
それを言われてしまったら……何にも返せないぞ。
とにかく、今は神に対抗するための手段を考えないと……俺の権能が最大限の効果を発揮できれば、確かに勝機はあるかもしれないが、相手はそもそもその権能にフィットするように作られた存在で、しかも相手の土俵で戦わなきゃいけないんだから……マジで無理じゃないか?
「……いや、待ってくださいよ」
「ん?」
「闇は、神の権能を狙っているって言いましたよね」
「そう、だが?」
じゃあ、闇をぶつければいいのでは?
「闇は創世神ですら封印することしかできなかった存在なんですから、そいつを利用して神と戦わせてしまえば」
「それができたら苦労しないがな。そもそも、闇の存在なんてどこに封印されているのかもわからないんだぞ。大地に封印されているなんて、範囲が広すぎる」
「じゃあどうするんですか?」
「だから言っているだろう? リリヴィアなら私が知っている情報も多い……なんとか勝機を見出すしかない」
そんな無茶な……人間は死んだらそこで終わりなんだよ? そんなぶっつけで神に挑むなんてできる訳がない。
「キャーっ!?」
「なんだ?」
完全に手詰まりで頭を抱えていたら、街の中心から悲鳴が聞こえてきた。俺たちが立っている街の入り口に向かってなにかが走ってきているようにも見えるが……一体何事だろうか。
「だ、誰か助けてくださいっ!?」
「大人しくしてろ!」
「……人攫いか? こんな往来で」
人攫い!? もっと裏路地とかでするもんじゃないの!?
「どけっ!」
「あぁ」
「なにどいてるんですかエレナさん! 助けないと!」
「……あんなものに関わると碌なことにならないぞ。この世界ではな」
「だからって見捨てられませんよ!」
「なっ!? おい!」
エレナさんがそうしたってことは、きっとこの世界ではあの人攫いみたいなのにも理由があるんだと思う。だけど……助けを求めている人を目の前にして、もしかしたら助けられる力が俺にあるかもしれないのに、それを見逃すなんてできる訳がない。
思いっきり力を込めて地面を踏みしめると、身体の奥から風が浮かび上がってくる感覚がした。
「これだっ!」
その感覚に身を委ねるように足を踏み出すと、周囲の景色が飛んだ。
「なんだぁっ!?」
「その人を、放せっ!」
一瞬で屈強な男に追いついた俺は、感覚のまま拳を握りしめて前に突き出した。拳が相手の身体に当たる必要はない……不思議とそんな確信があった。
拳が風を切るのと同時に、男は血反吐を吐きながらくの字に曲がって吹き飛んでいった。もしかして……俺、魔法っぽく使えたんじゃないか!?
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